何も変わらない
俺の中の好奇心がうごめきだす
もうやめておけと頭の中で俺の声が聞こえる
弱かった俺の声だ
あの日ことは夢だと決めつけようとする
行くな行くな行くなと俺を攻める
だが、俺は気が付くと森に向かっていた
不思議と足取りは軽く、いつもの三倍ぐらいは感じる速度で走る
無我夢中で、走っているとある開けた場所に出た
「ここって、まさか」
地面が焼け焦げていて、何があったかわからないように見えるが俺にはわかった
俺は昨日ここで、魔法術気に呪文を唱えた
近くに誰かがいた気がするが思い出せない
思い出そうとすると、俺はメリナさんのことを一気に思い出した
「確か、あっちの方角だったはず」
あてずっぽうに走る
いつもなら息を切らすのに、今の俺は疲れ知らずだった
大きな屋敷が見えた
昨日と同じ光はなく、全体的に薄暗い印象だ
扉まで行き、チャイムを鳴らすが音がしなかった
おかしいと思った俺は扉に手をかけると開いていた
中には黒服に包まれた大人たちがいっぱいいて、壇上にいた少女も黒い服を着ていた
その大勢、囲まれて一つの箱が置かれていた
「なんだ?」と思った
大人たちの視線が時々俺に向けられるが無視して、箱に近寄る
天板が窓になっており、そこから中を覗けた
その中に入っていたのは―――昨日、俺に優しくしてくれたメリナさんだった
俺は腰を抜かして、周囲を見渡した
声が出ない、足が震える
これは何?と聞きたい
どうして入っているのか?教えてほしい
だが、それ以上に俺は一つの核心を得ていた
(もう……お礼は言えない)
メリナさんは死んだ
俺はそう確信した。これは葬式なんだろう
悔しい。悔しい。悔しい。あれだけ頑張ったのに
助けてくれたのにお礼の一つも言えなかった
俺は悲しみに支配され、涙を流した