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冒険の書 一部抜粋

作者: 京洛紫音

 冒険の書 レオン 魔王城最深部 冒険時間 115:48:22




 どうやら俺の旅はもうすぐ終わるらしい。

 俺がそう感じているのは、まだ開けてはいない扉の向こうから身も凍るほどの邪気が発せられているからだ。今まで感じたことのない圧力が今もなお俺の手を震わせている。間違いなくいるのだろう。この先に、魔の王と恐れ称される存在が。

 だというのに俺は、不思議なことに冒険記なんぞを書き綴っていた。いや、だからこそと言うべきなのだろうか。今書かなければならない。そんな衝動に駆られている。死にたくないという気持ちよりずっと強い、無駄死ににしたくないという念。これまでの自分の冒険を無かったことにしたくない。そんなどうしようもない冒険家の願いが俺の手を動かしているのだ。

 ・・・今だからこそ分かる。きっと彼らも同じ衝動に駆られたのだろう。俺がここに辿り着くまでに参考にした冒険の書の著者である彼らもまた、生粋の冒険者だったのだから。俺がこれまでに読んできた何冊もの冒険の書。冒険の書には様々なことが書かれていた。ダンジョンの最短踏破ルートに始まり、強敵の行動パターンや弱点、重要な情報を持つ人物との交渉手順、そして魔王城の結界の解除方法まで。これらの情報がなければ俺は今ここに立っていないと断言できる。彼ら冒険者の足跡は、今確かに俺の足下に存在している。俺の冒●●●●●●(上から書き潰されている)。

 ところで、ーー俺の冒険の書を読むような奇特な奴がいるかは知らないが一応書いておくーーこれを読んでいるお前はこの冒険の書が読まれる、いや、今お前が冒険の書を読んでいることの意味を理解しているだろうか? まあここまで読んできたのならもう察しが付いているだろう。俺が所有し、常に携帯していたこの冒険の書が、今はお前の手の中にある、その意味を。この冒険の書を書き終わった俺の末路を。


 そう、俺はこの先に待つ魔王をぶっ倒し、英雄となってこの冒険記を売っ払ったのだ。そうに決まっている。そうであってほしい。そうだよな?そうですよな?●●●●●●●●●●●


 少し、長くなったか?いや、そうでもないか。これまで書き続けてきた記録に比べれば。


 最後に、これまで通りこの場所に至るまでの注意事項を書き記す。この魔王城ではこれまで以上に多くの魔族が徘徊し、しかも、そのどれもがかつての凶悪な敵を上回る強さだ。体力を回復する手段を十全に、かつ幾重にも用意しておくことだ。満身創痍で最奥にたどり着き、戻ることも出来ず魔王に挑む体たらくになりたくなければな。


 そろそろ行くとするか。勇気をもって。








 この冒険の書を読み込みますか?


 何度も何度も。


 暗唱できるほどに。


 読み込みますか?


 









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