江嶋由宇から読者の皆様へ
こんにちは、江嶋由宇です。
御存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私は、恋愛作家で素人探偵でもある安堂理真のワトソンとして、理真が事件に関わる際にはいつも行動をともにしています。
今回また、安堂理真が関わった事件の記録を皆様にお届けすることになったのですが、今度の事件は少々特殊な事情がありました。その事情とは、私が事件現場に乗り込むことが出来なかったということです。今までの理真の事件記録をお読みいただいていた方にはお分かりのように、理真の事件では常に私自身の視点を通した、私の一人称の文体で事件の様子を語らせていただいておりました。それがそもそも不可能なのです。
今回、この事件を記録するに当たり、私は関係者の証言を聞いてそれをまとめ、三人称の客観的な視点で語ることも視野に入れていました。ですが幸いなことに、この事件の当事者のひとりが、事件について克明に手記を付けてくれていたことが分かりました。
私もそれを読ませていただき、理真とも相談した結果、この手記を使うことで、十分事件の様相を読者の皆様にお伝えできるのではないかという結論に至りました。そこで、書いた当人の許可を得て、手記そのままの形を保ちながら事件記録としてまとめることとなりました。終盤になると、私自身の視点での記録も入ることにはなりますが、当面はこの手記という形でお読みいただければと思います。
今回は、山形県沖の日本海に浮かぶ、絶海の孤島で起きた凄惨な殺人事件の記録です。こう書くと、「ああ、あれか」とご記憶の方も大勢いらっしゃることかと思います。世間一般では、『絶命島殺人事件』として知られているあの事件です。ですが、今回記録をまとめるに当たり、私はこの事件の性格に相応しい新たな名前を与えることとしました。それは、『絶命島―探偵殺人―』
事件の記録は、あるひとりの探偵が、山形県の小さな港町に辿り着くところから始まります。