エピローグ
「新、陽菜。もうそろそろ帰るぞ」
幸也の声に砂場で泥遊びをしていた二人はふりかえると、そのそっくりな顔に満面の笑みを浮かべて、幸也のもとに走り寄ってくる。
手には色とりどりの葉っぱやドングリ。
「にいちゃ~!」
「こえ、もってかえゆ~」
幸也は泥まみれの二人をそのまま一度に抱き上げて、笑み返す。
「お兄ちゃんっていうより、パパよね」
そんな幸也の笑顔を心から嬉しく思いながら、真由美がからかうように
言うと、
「なら、真由美は近所のおばさん、だな」
にやりと嗤って言い返す。
「ほんっと、にくったらしくなったよね。あ~んなにかわいかったのに」
声変わりもし、顔立ちもずいぶん変わった幸也を見上げて真由美は肩をすくめた。
あれから丸三年。幸也は中学三年生になっていた。部活も引退して今は受験生だ。
日曜日の午後、小春日和の公園に出産で入院中の佳代に代わって双子の弟と妹を公園に連れてきていたとき、通りかかった真由美が声をかけてきたのだ。
「佳代おばさん、明日退院だっけ?」
「そう。学校休もうかって言ったんだけど、自分で帰るってさ」
「あたしが行ってあげようか?午後なら行けるよ」
「ああ、テスト期間中か。じゃあ、頼むよ。やっぱり一人は心配だし」
二人で一人ずつ後ろから抱えるようにして、手を洗ってやる。
「てて、きれーになったぁ」
幸也の腕の中の新と真由美の腕の中の陽菜が、濡れた両手をひらひらさせてにっこり笑う。
「ああっ、もう可愛い~。食べちゃいたいくらいっ」
真由美は小さな手を拭いてやり頬ずりする。
「まぁみー。だいしゅきー」
陽菜がほっぺを擦りつけてくると、新も負けじと
「ぼくもー」
と抱きついてくる。
「ねぇ、今からこのまま幸也の家に行ってもいい?二人ともっと遊びたいな」
「そりゃ、二人も喜ぶからいいけど、・・・テスト勉強は?」
「明日は得意教科ばっかりだから大丈夫!」
「それならいいけど」
幸也は言いながらまた二人を抱えあげた。
「新、陽菜。真由美が家まで来て遊んでくれるってさ」
「やったー」
「あしょぶー」
きゃっきゃとはしゃぐ二人を見る幸也の目が優しい。
秋の陽射しが柔らかく降り注ぎ、世界を優しい色に染め上げる。
真由美は三人の姿を愛おしそうに見つめた。
ここまでくるのに、簡単だったわけじゃない。
あの日、気持ちが通じ合ったと思ったら、佳代の過呼吸。───このおちびさんたちが産まれるまで触れ合うことができなかった。
それから学校での友達関係。
ちびたちが産まれたら産まれたで、双子育児はやっぱり大変だったし。
いろんなことが目まぐるしく変わっていって。
幸也はそれらを全部乗り越えてやってきた。
一つ一つ クリアーしてきたね。
たくさんの壁を通り抜けて。
これからもたくさんの壁が待ち受けているだろうけれど。
立ち止まることもあるかもしれないけれど。
ゆっくりでもいい、前へ進んで行こうね。
いつだって、一人じゃないから。
一つ一つ、扉を開けていこう。




