再出発 6
玄関を入った幸也は、廊下の途中で踞ってお腹を抑えている佳代を見て、慌てて駆け寄った。
「母さん!」
脂汗を浮かべてる佳代の様子にパニックになり、思わず肩を抱く。
「どうしたの!?お腹痛いの!?」
「大丈夫。陣痛がきただけよ。タクシーも呼んだし、・・・んっ、・・・ふーっ」
眉間にしわを寄せて苦しそうにしている様子に、おろおろとして。
陣痛の合間に佳代が指示を出す。
「もうすぐタクシーが来るから、この荷物、運んでね。あ、戸締り確認して。ガスは・・・止めたはずだけど、もう一回確認して」
言われた通り動き、やってきたタクシーに荷物を積み込み、佳代の身体を支えて乗せる。
「料理の途中で来ちゃったから、帰ったら片づけお願いね」
「そんなの、大丈夫だよ」
「前にも言ったけど、時間がかかるかもしれないから、帰っていいからね。産まれたら連絡するから」
陣痛の合間に話をする。
「・・・待ってたら駄目かな」
何日か前に話をしたときは、お産の時は真由美の家に行っていてねと言われ納得していたのだが、今にも産まれそうな佳代の様子を見ていたら、病院で待ちたい気持ちになってしまう。
走る車の中でもまた陣痛の波がやってくる。
「ん~~っ」
と痛みをこらえている佳代の手を握って。
こんなにも辛いものなんだ。
「病院で、待ってる」
言ってみるが、佳代は首を縦には振ってくれない。
病院に着くと一旦陣痛室に入るが、すぐに分娩室に移動するという。
「ついてきてくれてありがとう。でも、まだまだ時間がかかると思うから、明日の朝来てちょうだい」
にっこり笑って言うと、看護師と一緒に出ていってしまう。
「あの、どれくらいかかるんですか?」
もう一人残っていた看護師に訊いてみると、少し首を傾げて考えながら返事をしてくれた。
「お産の時間は人それぞれだからね。はっきりとは言えないけど、お母さんのあの様子だとこのまま順調にいけば、一人目は今日中に産まれるかな」
時計を見ると、まだ8時だ。
順調にいってもそんなにかかるのか。あんなに苦しそうなのに。
「早い人は一時間くらいでぽろっと産んでしまうけど、四十八時間以上かかる人もいるからねぇ。明日、またいらっしゃい」
そう言い残して出ていってしまう。
仕方なく幸也も部屋を出て、とりあえず真由美の家に電話をする。
「産まれるの!?」
電話を受けた真由美が興奮した声で後ろにいるであろう八重子に報告しているのが聞こえ、電話口に八重子が出る。
「じゃあ、今日はそのままうちに来なさい。ごはんもまだなんでしょう」
「ここで待ってたら駄目かな」
八重子にも言ってみる。
「気になるのはわかるけど、そこにいてもすることないからねぇ。こういう時、男はなんの役にもたたないんだから帰っておいで」
”男は”とひとくくりにされてしまうとそれ以上言いようがない。それに自分は一人前の男ですらない。そばについているわけでもないのだから、することがないのも確かだし。
幸也は言われた通り帰ることにした。
家に着くと一人真由美が興奮して浮かれまくっている。
「男の子かな、女の子かな。とうとうわかるねー。朝には産まれてるかな。かわいいだろうなぁ。あ、でもちょっと早くない?」
「騒がしい子ね」
八重子は呆れ声で言い、幸也の食事を用意する。
「もう分娩室に入ったんでしょう?明日の朝には会えるわね。楽しみね」




