試練 6
佳代は嬉しくてたまらなかった。幸也の表情が日増しに生き生きしていくことが。毎日たくさん話をしてくれることが。
学校で友達ができたこと。
いじわるしてきていた子たちの態度も変わってきたこと。
バスケットボールが楽しくなってきたこと。
太一と二人で、あれから毎日放課後になると中学校のバスケットボール部の練習に通い、二人はどんどん仲良くなっていった。
学校では他の子の手前か、給食のとき以外は必要以上に一緒にいなかったが、放課後や休日はほとんど一緒にいるようになった。中学校がテスト前で部活のないときは、家に遊びに来るときもあった。
そんな風に変わっていく幸也と太一の様子を、佳代も真由美も八重子も本当に嬉しく思っているうちに日々は過ぎていく。
佳世とも買い物に一緒に行ったり、一緒にテレビを見たりして、だんだん普通の親子らしくなっていっている。
でも楽しいばかりではなく、一つだけ佳代と幸也の意見が合わないことがあった。お互いに歩み寄ろうとしている二人だったが、どうしても譲れないこと。
それは、佳代が幸也に触れられないこと。
あの後、一月ほどして。だいぶ打ち解けてきて、お互い普通に話もできるようになった頃、佳代が幸也に触れたいと近寄って───また発作を起こしたのだ。
そして、初めてけんかをした。
「お母さんが苦しいのは嫌なんだ。だから、もう僕に近寄らないで。こうやって話ができるようになって、笑ってもらえてそれで十分だから」
佳代はなかなか譲らない。
「幸也をちゃんと抱きしめたいのよ。発作は、落ち着いて来たらだんだん出なくなるって言われたもの」
「でも、実際でたじゃないか。僕、調べたんだ。死ぬほど苦しいって」
なんとか説得してもしばらく日がたつとまた佳代が言い始める。
「もう大丈夫かもしれないし」
「大丈夫じゃないかもしれないから、駄目」
部活の帰り道、みんなと別れた後二人きりになると幸也はきりだした。
「またこの頃、母さんが言いだしたんだ」
もうこれで何度目だろう。
隣でふーっと大きく溜息を吐く幸也を横目に見て微笑みかける。
「・・・幸せな、悩みだね」
幸也は苦笑するしかない。
「そうなんだけど、さ」
「大丈夫だよ。時間が解決してくれるはず」
「わかってるよ。でも、問題は、治ったかどうかはやってみないとわからないってことなんだ」
そう、これがいつも佳代と幸也の意見の違うところ。彼女は試してみたい、というのだ。
「あたしは・・・おばさんの気持ちもわかるけどなぁ」
抱きしめたいのに抱きしめられない。目の前にいるのに。
「もし発作が起こっても、僕は真由美のように背中をさすってあげたりすることもできないんだよ。それこそ目の前に、いるのに」
先日の発作を思い起こし、幸也は苦々し気に言う。
「そうなんだよねぇ・・・」
幸也の気持ちもわかるだけに、どちらかにつくことはできない。
「そういえば、昨日検診だったんでしょう?性別ってもうわかったの?」
「ああ、まだわからないみたいだけど・・・訊かないみたいだよ」
「そうなんだ?あたし早く知りたかったのにな・・・。どっちかなぁ。男の子ふたりもいいけど、女の子もかわいい服とかお揃いで着せたら可愛いだろうし。あー、男の子と女の子とでもいいかも」
「どっちでもいいよ」
「そうだね。元気なら、いいね。でも・・・訊かないんだったら、お祝い選ぶのは生まれてからかぁ」
にまにましながら言う真由美の話を、幸也は微笑みながら聞いていた。




