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守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第3章 能力者登場・球技大会編
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第8話 友の風

前代未聞の悲惨な体育祭があってから1週間が経った。

怪我人も出ていたせいか、クラスはイマイチの盛り上がりだ。

その中、春彦は大地と話をしていた。

「ちょっと中二病っぽく今までに使った技に名前つけねぇ?」

大地は目をキラキラとさせている。

あの後、傷には処置が施され、通院という形ではあるが、大地は快復してきていた。

……こいつは隠れ中二病なのかもしれない。

「何言ってんだよ、恥ずかしくないのかよ、それ……」

「だって、どちらにしても皆には聞こえねぇ訳じゃん? それに名前付いてたほうが倒す時にもっと華麗に倒せそうじゃね?」

……華麗にってどういうことだよ。

「って言ってもなぁ」

周囲の目線に気づいた。慌てる素振りを見せないようにして、話を受け流そうとする。

しかし、大地はさらに追い打ちをかけてきた。

「だからそうだな、あの水流で絡めて叩きつけるやつを"アクアストリーム"なんてのはどうだ?」

思わず、凍りついたように固まってしまった。

周囲の視線がかなり痛い。精神的な攻撃を受けたのは春彦が質問攻めにあった、あの時以来だ。

そしてやっとの事で絞り出した言葉はーー

「や、それ、やめといた方がいいと思う……」

その一言だけだった。

そういえば、最近、思い返せば大地といる時間が極端に増えた気がする。

……大地もこれでいいと思ってんのかな。

そう思いながら、顔を上げると無邪気そうに肩にいるゲルザーと戯れているのが目に入った。

クラスの人から見たら、ただの痛い変人だ。

こんなことしてて本当にいいのかなとさすがに鈍感な春彦も思ってしまった。


その日の放課後、赤羽はいつもと同じ様に大地といつもつるんでいるメンツ、そして春彦の5人で話しながら帰っていた。

最初の頃は赤羽も春彦に違和感を覚えていたがそれも段々と消えつつある。

1人、2人と別れ、最終的には大地と赤羽の2人になった。

T字の分かれ道までの数分の道のりだが、思い切って訊いてみた。

「なぁ、大地。ここ最近、泉春彦と仲いいじゃん? あいつと何話してんだ?」

「普通に色んなことだよ。てか、なんでその質問?」

大地は涼しそうな顔して訊き返してきた。

「や、勝手な判断だけど2人の間で何か隠してねぇ?」

赤羽は大地と小学校からの付き合いだ。だから、この手の質問は苦手なのを赤羽は知っていた。

わかってもらえないやつにどう話したらいいかわからない。そんな顔だった。

……やっぱり、何か隠し事があるんだな。俺にも言えないほどの。

2人に静寂が訪れる。

行き交う車の走行音がやけに大きく聞こえる。

赤羽はとにかく大地の返事を待った。


突然の質問に大地は混乱していた。

……困ったことになった。赤羽はこんなこと言えるわけねぇ。春彦はその辺り、本当に楽だったのかもしれねぇ。

赤羽をちらっと横目で見る。赤羽は大地にとても真剣な眼差しを向けていた。お前の嘘はすぐ分かるーーそんな目だ。

大地はため息をつき、まっすぐ前を見つめ、訊いてみた。

「なぁ。赤羽は天使とか悪魔とかそういう存在信じるか?」

「は? どうしたんだよ、いきなり」

やはりこの反応だ。こういう反応の奴にホントのことが言えるわけもない。言ったところでバカにされるか、哀れみの目を向けられるかだ。

長い付き合いの赤羽からはそんな扱いを受けたくはない。

……本当の事はどうも言えそうにねぇな。

「いやぁー、最近そういうの興味あってさ、あいつも似た趣味もってたから、よく話すようになってよ!」

頭をガリガリ掻きながらハハハと笑ってみせる。

「嘘だろ。小学校からお前と一緒だったからわかるけど、お前嘘つかない方がいいぞ。すぐわかる」

赤羽が大地の笑いを遮るように言った。

……バレている。

「いや、本当だって!」

ムキになって大声を上げる。

赤羽の目が冷たいものに変わった。

「そこまでして言いたくないなら別に無理して言ってくれなくてもいい。あいつと楽しくやれよ。じゃあな」

そう言って背中越しに手を振り歩いていった。

弱いパーマがかった茶髪の髪が風になびいて、悲しそうに揺れていた。

独りになった。

往来の激しい道端でポツリと佇む1人の青年。

ゲルザーが話しかけてきた。

「信じてくれる方が少ないのは、いい加減わかった方がお前のためだぞ」

「わかってるけど、信じてもらうために何かできることはなにのか?」

「何でそんなことを訊く?」

大地は一呼吸置き、話し始めた。

「お前には分からねぇと思うけど、俺にとって赤羽は大切な友達なんだ」

ゲルザーは沈黙していたが、やがて口を開いた。

「あることにはあるが、リスクは高けぇぞ?」

そう言いながら逆の肩へと移動した。

「どうやる?」

「クロスしてる状態で触れてみろ。見られることならできる。でも、おそらく、そんな光景みたら、驚きおののくだろうな」

……やっぱ、そうだよな。

そう思いながら小さくなっていく赤羽の背中を見た。

ちょうど角を曲がるところだった。

……あいつは何を考えているんだろう。

視線を曲がり角のカーブミラーに移した時、曲がった方向とは逆のミラーに天使を発見した。

すごい勢いでT字路を通過していく。

……あっちには赤羽がいる!

ゲルザーも気がついたみたいだ。

「いかねぇとまずいぞ。おそらく奴の目標はあいつだ」

「クッソ‼︎」

クロスし、駆け出した。


……本当によくわからない。

悲しさでいっぱいになっていた赤羽の横を鋭い何かがすり抜けた。

しかし飛んでいった方向には何もない。

その途端、ブロック塀に穴が空いた。

何かいると思い、後ろを振り返る。

しかし誰も、そして何もない。

……気味悪りぃ。

小走りで走り出すと、今度はスクバが急に軽くなった。

確認すると既に穴が開いていて、そこから破れて教科書やらが散乱した。

……何なんだよ、今日は。

急いでかき集め逃げようとした時、何者かが赤羽の肩に手を乗せた気がした。

振り返ると、そこには褐色の人型の何かーー見覚えのある体型の奴がいた。

「悪りぃな。赤羽、これがあいつと俺の秘密だったんだ。今からあれを倒す」

大地だ。こいつはこんなコスプレの趣味はなかったはずだが。

そう思いながら大地がもう一方の手で指さしているものを見て驚いた。

天使だった。しかもこちらに弓を構えている。

「俺が倒すからとりあえず帰宅を最優先にしろ」

そう言い残すと、ふっと消えてしまった。

未だに赤羽には何が起きているか理解できなかった。

……あれは本当に大地だったのか?

……なんで俺には見えないんだ?

色んな疑問に襲われたが、とにかく言われた通り、家へ荷物を抱えて走り出した。


大地は赤羽が去ったのを確認すると天使の方に向き直った。

「おいおい、何であいつを狙おうとしてんだ? 狙うならまず見える俺みたいなやつを狙えよ」

そう言いながら天使に向かって大剣を構える。

天使は耳も貸そうともせず、矢を放ってきた。

スッとサイドに避けると大剣を振り上げ、天使に向かって地面を蹴り、飛び上がった。

そして間合いに入った時に上から大剣を振り下ろし、そのまま地面に叩きつける。

その天使はあっけなく黒いススになって消えた。大地も大剣を消し、クロスを解いた。

不意に視線を感じた。振り返ると、やはりそこには赤羽がいた。

大剣の跡がそのまま足下に残っている状態でクロスを解除してしまったので、明らかに自分がやったことをばらしてしまった。

「あ、あのさぁ。これ、俺がやったのをーー」

冷や汗を垂らしながら赤羽に言おうとすると被せ気味に赤羽が返答してきた。

「内緒な、わかってるよ。どうせお前のことだ、今までのもそうなんだろ!」

「んなっ! 全部じゃねぇよ! てか、お前なんで帰ってなかったんだよ!」

また声を荒らげてしまった。

「いいだろ、別に結果オーライだしさ」

赤羽が大地に歩み寄る。

「……でも、天使が本当にいると思わなかったわ。しかも敵として存在してるなんてさ」

赤羽の顔が突然真面目なものに変わった。

「あんなもんだ。ずっと戦ってたんだ、この間の体育祭の時も」

赤羽も合点がいったように何度も頷く。

「そうだったのか」

やがて、赤羽が静かに口を開いた。

「悪りぃ。疑ってたんだわ。俺、嫌われてるんじゃないかって」

それを聞いて、大地は声を上げ笑い出す。

「はぁ? んなわけねぇだろ! 嫌ってたら一緒に帰ってねぇよ!」

ハハハと気持ちのいい笑いが路上に響いた。

それにつられて、赤羽も笑う。

2人の間をスッと風が抜ける。

友達と感じる風はこんなにも気持ちいいと改めて感じた。

大地たちの能力を知ることとなった赤羽。

それと同時に少しの劣等感も抱いていた。


次話もお楽しみに!

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