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守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第2章 大地・体育祭編
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第6話 大地の母

大地の家のご飯は美味しかった。

初めて高校生だなってことをした気がする。

本当嬉しかった。

でも、大地の家にお母さんはいなかった。

「今日はありがと。楽しかったよ。しかも駅まで送ってもらうなんて、大丈夫なのに」

暗い道を高校生が2人、並んで歩いている。

こんなことになるなんて思ってもみなかった。

上を見上げると月がちょうど真上に来ていた。

「ん? あぁ、いいんだよどうせ家にいても暇なだけだし。それに同じ能力者も見つけることができたしさ!」

無邪気に笑っている。

大地は今までに彼女は出来たことがないらしいが、いなかったというのが今一番の春彦の謎だ。

「そういえば、なんで能力を使って天使族を殲滅しようって考えたんだ? フツーなら能力を個人の利益のために使わない?」

大地が不思議そうな顔して春彦を見る。

「ん? あんまり、考えたことねぇな。でも、俺は使うかもな。つっても、水泳の授業の時だけしか使えないと思うけど」

苦笑いを浮かべながら空を見上げる。

「使っていいのかね」

改めて訊いてみる。

「大丈夫じゃね?」

今まで考えたことがなかっただけに返事も曖昧だ。

春彦はここである疑問が浮かんだ。

「んじゃあ、殲滅しようと思った理由は?」

普通の人なら自らの命を賭けてまで平和を望むのだろうか、という些細な思いつきから出た質問だった。

「……」

大地の返事はない。春彦が横目で大地を見ると表情が一瞬、こわばったように見えた。

「聞いたらまずかった? そうだったなら、ごめん」

無言で歩き出したと思った大地がいきなり、足を止めて聞いてきた。

「お母さん、いないのは話したよな?」

大地の背中がやけに小さく見えた。

「うん、確か"事故"だったんだよね?」

春彦は前、大地の友達からそう聞いていた。

「……いや、正確に言えばあれも巧妙に仕掛けられた天使族の仕業だったんだ」

「え……」

夕暮れ時に現れた天使の群れを思い出す。

あの時の大地の言った、「死ぬんじゃねぇぞ」の意味がハッキリとわかった気がした。

静寂が訪れる。2人の駅に向かう足音だけが夜の住宅街に響いていた。

「見たんだ。お母さんが目の前で殺されるのを……」

大地が悲しそうに空を見上げている。その目は微かに潤んでいた。

「あの時、助けることができれば……」

声が震えているように感じた。

さらに大地は話を続ける。

「周りの人には信じてもらえなかった。信じてもらえるはずもなかったんだ」

返そうと思っても口が動かない。

……大地にはそんな過去があったんだ。

ハッと我に返ったように大地が口を開いた。

「ごめん、湿っぽい話にしちまった。まぁ、そこである奴に会って、殲滅しようと決めたって話。ザッとこんなもんよ」

「それって誰?」

既に駅前の曲がり角に立っていた。街灯が眩しく光り、夜空の星は見えなくなっている。

「あの部屋を作った奴だよ。この話はまた追って話すわ! 着いたしよ、駅」

突き放されたような気がしたが、今日1日で話せる内容じゃないんだと春彦は勝手な判断をした。

「あ、うん。今日はありがと! んじゃあ、また来週!」

「おう! また来週な!」

大地の笑みに少しの陰りがあるように感じた。


体育祭の前日になった。

予行練習はそれなりにテキトーに行われている。

他のクラスは円陣を組んでガヤガヤやっているが、自分のクラスの女子は話したり写真を撮ったりしていて、男子に至っては暑さに耐え切れず「あじぃ〜……」とか言いながら椅子にふんぞり返っている。

まるでヤクザの様だ。

その中に今の今までいた大地の姿がなかった。

さっきまで目の前で雑談をしていたはずなのに。

「大地はどこに行ったか知ってる?」

いつも大地とつるんでいるクラスメイトの赤羽に聞いてみたが「突然走っていった」としか言わない。

春彦はとりあえず、捜すことにした。


すぐに見つけることができた。屋上にいる。

逆光で人影しかわからないが、おそらく大地だ。

でも、予行練習中は施錠してあるので校舎内に入ることはできない。

「どうやってあんな所に行ったんだろ」

「そんなのも分からんか? クロスして屋上に行ったに決まっているだろ」

ヴァンが胸ポケットから屋上を見上げながら呟いた。

……それなら余裕で登れる。だとすると、屋上にはーー

気付いた時にはクロスし、地面を蹴り出していた。

壁を地面を走るように駆け上がる。

身体が羽のように軽い。

体育祭もこれで走れたらなんて思えるほど。

屋上に着いた時、大地は褐色の大剣の刃先を地面に落とした。

その目の前で天使がススとなって消えていく。

「また、天使がでてたんだ」

「ん? あ、春彦か。そう、出てたんだ。もしかしたら近いうちにヤバいのが来るかもしれない」

大地は気がつくと大剣を消し、こちらに向かって歩いてきた。

表情がいつに無く、堅い。

聞き返そうと口を開いた時、かぶせるようにして大地が一言言った。

「いや、何もない。戻ろうぜ」

そう言い残すとさっさと1人で柵を越え、屋上から飛び降りた。


昼飯は大地と奴のいつメンと食べることになった。

大地はさっきの張り詰めた顔を見せていない。

春彦はそんな大地を見て少し安心していた。

大地とつるんでいる奴らはみんな気の合ういい人だった。

今まで何もなかったのを本当に後悔してる。

そんなこんなで予行練習は終わりを告げた。


その夜、布団に入りながら春彦は考えていた。

……あの時、大地は俺に何が言いたかったんだろう。

ヴァンに聞こうとしたが既にクッションの上でスヤスヤと寝息を立てている。

……考えるだけ無駄か。

そう思っていても気になるものは気になる。

「近いうちって、まさか明日じゃないよな」

何も起こりませんように、と願いながら目を閉じた。


体育祭当日。快晴。

春彦はベッドから起き上がった。

昨日の件があってから結局寝ては起きを繰り返してしまった。

間違いない。明らかな寝不足だ。

ヴァンは猫のような伸びをして「頑張れよー」としか言わない。

寝不足のイライラもあったのでとりあえずうるさいと言い、デコピンをかました。

「フォッ‼︎」と言いながら飛び退いて、やられた箇所を抑えていたが問題ないだろう。

体育祭は昨日よりも気温の高い中開催された。

男子は昨日とさほど変わりないが、女子は顔がキャンバスと言わんばかりの化粧を施しているのがちらほら。

ナチュラルくらいがちょうどいいのに、なんて女子との関わりがない春彦でも思ってしまう。

選手宣誓が行われ、いよいよ春彦にとって高校で初の体育祭が始まった。

やる気が起こらず、ダラダラと生徒席に戻る。

そのときに大地に話しかけられた。

「今日は特に警戒しておいたほうが良いかもしれない」

まだ、表情が堅い。

寝る前に考えていたことが的中し、春彦の表情も暗くなる。

「何があったんだよ、昨日」

大地の顔がさらに固くなった。

「実はお母さんを殺した天使のラファエルって名乗るやつが俺の前に現れたんだ。それで……」

一呼吸置くとまた話し出した。

「お前を公開処刑にしてやるって」

かつて、自分の母親の命を奪った相手からの宣戦布告。

表情が固いのも理解できる。

「ラファエル? 聞いたことある名前だな。そんなこと言ってたとしても大地なら、大丈夫だろ」

和らげるように春彦が大地に言う。

「あぁ、返り討ちにあわせる。でも警戒はしててくれ」

返り討ちという言葉に敵討ちの意味が埋もれているのをすぐに察することが出来た。

「わかった」

〈色別対抗リレーに参加する生徒は至急、集合してください。繰り返します……〉

グラウンドに放送が響き渡る。

……とりあえず、今は競技に専念しなきゃな。

ふと、何かの視線を感じ、そちらに目をやる。

それは屋上だった。見慣れない人影が佇んでいる。

……あれは人影? いや、おそらくあれはーー

気付いた時には走り出していた。

大地の目の前に姿を現した天使、ラファエル。

春彦と大地は細心の注意を払いながら高校の体育祭に挑むことに。


次話もお楽しみに!

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