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守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第2章 大地・体育祭編
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第3話 水の青年

高校初の中間テストを終え、クラスは体育祭モードへと切り替わっていた。

春彦は相変わらず屋上の柵に寄りかかりながら1人、地べたに座り昼食を取っていた。

いや、正確には1人と1匹が妥当だ。

あの日以来、あの天使族という部類と守護聖獣であるヴァンが何かと春彦の周囲を取り巻くようになった。

最初は天使を倒すところを見るのに拒絶反応を起こしそうになったが、1週間経つと何も思わなくなる。

慣れは恐ろしい。つくづくそう思う。

暖かい風が春彦とヴァンの間を縫って抜けていく。

……屋上はいい。この時期は特に風が爽やかだし、まだこの時期は誰もここにーー

「よぉ、お前はどこの輪にも入らない主義なのか?」

同じクラスの男子ーー小川大地(おがわ だいち)が柵に腕を預け、パックのオレンジジュースを飲みながら訊いてきた。

「……えっとー。小川、だっけ? お前こそいつもの奴らと絡まないのか?」

……こいつは何かとクラスの中でも目立つくらいの人気者。なのにどうして俺のところに?

「いやー、たまにはこういうのもいいかなと」

ニッコリと笑う様はやんちゃな小学生そのままだ。

春彦は、無言で小川が向ける笑顔から目をそらした。

「そういえば、結構最近忙しいよな、お前。何があったんだ?」

春彦の箸の動きが止まる。

春彦にとって正直、今一番振られたくない話だ。

「いや、何もないよ。偶然だよ。最近ついてないし」

そう言って食べかけの弁当を包み、屋上から出ようと、階段につながる扉へと早足で向かった。

ドアノブに手をかけた時にまた小川は口を開いた。

「あの夜、何か見たんだろ? もしくは出くわしたか?」

一瞬、時が止まった気がした。

背中をまた風が抜ける。

……こいつは既に奴等の存在を知っているのか?

春彦は天を仰ぎながら呟いた。

「……小川はさぁ、神とか天使とかそういう存在信じる?」

「ん? 今、何か言ったか?」

聞こえてなかったみたいだ。

……バカバカしい。そんなもん見えるはずないんだ。

「いや、何もない」

残念そうにそう一言残すと、扉を開け教室へと帰っていった。

小川はただ、神秘十字線の刻まれた手を握っていた。


相変わらず教室は体育祭の盛り上がりをみせる。

基本的に応援ダンスと無縁の春彦は席に着き机に伏せた。

……疲れが溜まってるのかもな。

そう思ったのを最後に、意識が遠のいていった。


突然、何か痛いものが頭に当たった。

みんなのクスクスという笑い声が聞こえる。

どうやら寝落ちしていたらしい。

気づけば午後の授業に突入していた。

メガネをかけた恰幅の良い現代文の先生が教科書をパシパシ手で叩きながら、春彦を見下ろしている。

「成績が良いからって授業を疎かにしても良いわけないのは分かってるよな?」

「はい、すいません。気をつけます」

ため息混じりにそう言うと教科書を開き授業を受け始めた。

そうやっているうちに教科書に紙が挟まっていることに気がついた。

どうやらルーズリーフの紙切れのようだ。

織り込んであったので開いてみると、一言筆圧の強い、堂々とした文字でこう書いてあった。

〈俺は知ってる。放課後、屋上で待ってる

大地〉

春彦はその紙を捨てようと丸めたが、胸ポケットから声がした。

「行かなくていいのか? おそらくあの喋り方、お前さんと同じ能力者だぞ」

ヴァンだ。最近、胸ポケットがお気に入りの場所らしい。

「なんで、そんなことわかるんだよ」

春彦はその言葉を半信半疑ではあったが、少し気になっていたのもあり、行ってみることにした。


小川は放課後、あの男を待つことにしていた。

最近、奇妙な事件が奴を襲っている。

……おそらくあれは。

「……何を知ってるんだ?」

扉を開けて出てきたのは春彦だった。

手をポケットに突っ込んでいるところから、恐らく警戒していると勝手な推測を立てる。

「よぉ! まぁ、こっちまで来いよ」

小川が手を挙げてこっちまで誘う。

春彦が小川の近くによると、小川はただ、真っ直ぐ前を見ながら口を開いた。

「お前は天使とか神とかその類が見えるのか?」

またその話かと思ってはいたが、話を進めようと、春彦は返事を返す。

「それ、俺がさっき訊いたやつ」

小川はこっちを向くと「あぁ」と声を上げ話を続けた。

「やー、さっきのか。聞こえなかったんだよな、悪ぃ。まぁ、単刀直入に言うと……。俺も見えるんだ、アレ」

「……っ! ……ほんとなのか?」

春彦は思わず声を裏返してしまった。

それと同時に身を乗り出す。

「わざわざ呼んでおいてそんな嘘言わねぇだろ……」

近いと言わんばかりにのけぞってみせる。

「そっか」

落ち着きを取り戻した春彦に小川は本題を突きつける。

「だからさ、これからはお互いに情報提供しないか?」

「え、どういうことだよ、それ」

「俺はこの辺り周辺のお前のような能力者と手を組んで、ここの地域の天使族の殲滅したいと思ってんだ。俺は水を使った攻撃を得意とする。こんな感じでな」

そう言いながら手の平に水を発生させた。

「ちなみに俺は(わに)の守護聖獣がついてる。お前はどんな能力を使うんだ?」

小川が水のついた手をズボンで拭くとまた、ジュースを啜りだした。

「や、俺はまだ、よくこの力の使い方とか、何を持ってるとかわからないんだ」

すると小川はチラッとこっちに目線を送ると、また口を開いた。

「なんだー、んな事だったのかよ! 言ってくれりゃ教えるしよ! 気軽に聞いてくれよな」

なかなか小川の口は閉まらない。

「そうだ、今度の土曜日空いてるか? どうしても行きたいところあるんだけど、一緒に来ないか? 能力の使い方とか教えたいしさ、どうだ?」

誘われる事が今までほとんどなかった春彦だったが、この一件でもしかしたら分かり合えるようになるかもしれない。

そう思うと行かざるを得ない、そう感じていた。

「……わかった、行くよ」

この返事に聞いていたのか聞こえていなかったのか、小川は隣の会社の屋上を眺めていた。顔がさっきと違い、とても真剣なものになっている。

紙パックのジュースを握りつぶし、ゴミ箱に放り込む。

「オッケ、また後でメッセージ飛ばすわ! 詳しい予定はまた後でな! んじゃな!」

急ぎ口調で言うと返事も待たずに、扉の裏に向かって走っていった。

少しして後を追いかけてみたが、そこには小川の姿はなかった。

春彦は不意にさっきの会社の屋上に目をやった。

……やっぱりあそこか。

数体の天使がいた。そしてそこにはーー

「あれは、小川なのか?」

見つけたのは色々と装備の施された小川だった。

水を華麗に操りながら攻撃をしている。

なかなか、あいつもなかなか強いみたいだ。

……俺にもできるのかな?

「出来るかもな、あれ」

視線を降ろすとヴァンがいた。

「今週末あいつに誘われたんだ」

「あぁ、知ってるとも。それにしてもお前さんの笑顔を初めて見た。相当嬉しかったんだな」

ヴァンが顔を上げ、春彦を見る。

自覚はない。自然とこぼれていたらしい。

「え? あぁ、まぁ」

曖昧な返事をしながら、視線を戻す。

その時にはもう既にやつらは消えていた。

どうやら、友達ができたみたいだ。

それも、自分の事をよくわかってくれる友達が。

春彦の前に現れた、小川大地。

彼と春彦は約束をする。

春彦は能力を駆使することが出来るのか?


次話もお楽しみに!

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