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守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第6章 哀惜の姉弟・守護神獣編
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第35話 哀惜の姉弟⑤

「姉ちゃん、大変だ!」

裕也は玄関の扉を開け放ち、靴を揃えようともせずにリビングに入ってきた。

「やっぱり、そんなことだろうと思って顔を出してみれば、案の定だよ」

香純に代わってソファに座っていたのはヘルメスだった。

「しかも、そんなにボコボコにされたんだ? 情けない」

マグカップに注いである紅茶を1口飲みながらヘルメスは呟いた。

「姉ちゃんは? 姉ちゃんはどこに行ったんだ?」

ヘルメスは何事も無かったかのように、マグカップを机の上に戻す。

「姉ちゃんはどこへ言ったって訊いてんだよ!」

そこまで言って、ようやくヘルメスはニヤリと笑いながら口を開いた。

「僕はこうなると予測して君がここへ帰って来る前に君の姉ちゃんに言ったんだ。『弟が2人と同時に接触した、危険だ』ってね。そしたら血相変えて飛び出しちゃってさ。それで入れ違いだよ。もしかしたら、君の姉ちゃんは能力を使って君がやられた本人とすぐに対峙しようとするかもねぇ」

裕也はそこまで聞いて、血の気が引いた。

あの化け物と戦ったところで返り討ちもしくは殺されるのがオチだ。

「今、姉ちゃんはどこにいるんだ!?」

裕也が肩を揺すってヘルメスに訊く。ヘルメスはそれを押し退けた。

「自分で探せばいいだろ? 僕は伝達するのが仕事だ。任務に加担するのは僕の仕事じゃあない」

「クソッ!」

裕也は立ち上がり、玄関に向かって走っていった。

「そんな身体でどこへ行くんだ?」

ヘルメスは紅茶のパックをマグカップの中で揺らしながら裕也に訊いた。

「姉ちゃんを助けに行く! 敵が集まってたら加勢して任務を遂行する。それだけだ!」

「やれやれ、これだからガキは嫌いなんだよ。自分のこともよくわかってねぇ癖に」

ヘルメスはジャケットから小瓶を取り出し、裕也に向かって投げる。

「それ、飲んでってくれ。今の傷じゃまともに戦えないからねぇ」

すぐに裕也は小瓶を開け、中を飲み干した。

空になった小瓶を玄関に投げ捨て、暗い街へと走っていった。


香純は街の中を走り回っていた。

弟の無事を確認するために。それなのにどこへ行っても弟は見つからない。

〈今、3人のうちの1人を見つけた〉

〈君の弟は今、2人同時に相手をしている。危ないよ?〉

その短い文とヘルメスの言葉が頭をよぎる。

……お願いだから生きてて!

香純はあることを思い出した。それは神の国で自分の中に神を入れる時に聞いた言葉。

〈君の能力は神がどこにいても千里眼で見通せる力だ〉

……そうだ、この力を使えば! メタトロン、私に力を貸して。

香純は祈るように胸の前で手を組み、心の中でそうつぶやいた。

香純を光が包み込む。

光の中から何かが近づいてきた。

「私が力を貸しましょう」

香純はその光が何か分かっていた。これはーー

「あなたが私の中にいるメタトロンね。よろしく」

香純は目を閉じ、集中した。

包んでいた光が一気に周囲に放たれる。

暗闇に目が慣れていないが少しずつ視界が良くなってきた。見える景色がまるで違っていた。

蛍のように小さく光る町の街灯や家々。その光は延々と山の方まで続いていた。

ーーあれ? 身体が上手く動かない。何が起こったの?

メタトロンは香純の意志とは関係なく、動き出す。

ーーメタトロン、止まって! 私はあなたに弟を……裕也を見つけてほしいだけなの! ねぇ!

香純の訴えも虚しく、メタトロンはそのまま、歩き出した。


〈えー、速報が入ってきました。現在、雑木林が放火された付近の住宅街に未確認生物が現れた模様です。視聴者より寄せられたVTRがあります。ご覧下さい〉

テレビには巨大な翼を生やし、目の模様が沢山入ったローブを着た天使が街を徘徊していた。家屋を容赦なく踏みつけ、徘徊している。

〈現在、この町には避難指示が出ており、政府は自衛隊に呼びかけを行っております……〉

「なぁ、これは流石にマズくないか?」

タバコを加えたことを忘れ、岡村はテレビに釘付けになっていた。その横では笠原が書類整理を行っている。

「そうですね。あまり芳しくはないかと」

岡村はスッと立ち上がり、灰皿にタバコを力いっぱい押し付けた。

コートを羽織り、ドアノブに手をかける。

それを察したかのようにテレビを消すと無言で笠原もついてきた。

「さ、俺達、窓際族が力を存分に発揮する時が来たぞ」

岡村たちは勢いよくドアを開け、部屋を出ていった。


春彦は避難指示が出され、近所のゴルフ場へと逃げていた。

戦えないわけではない。ただ、親の前ではクロスはできない。

「ヴァン、どうしよう。ここにいると、倒せない」

「だからといって、親から離れることも出来んだろ」

誰かに肩を叩かれた。振り向くと、そこには大地が立っていた。

「捜したぞ、来い!」

春彦の腕を強引に引こうとする。

「何でだよ! 親がいるから下手に今は動けないんだよ」

「じゃあ、重要参考人つったら親も動かざる得ねぇだろう?」

春彦の横から2人の刑事が現れた。突然の言葉に春彦よ顔が引き攣る。

「じゅ、重要参考人? ですか?」

「あぁ、どうしてもお前が必要なんでなぁ。まぁ、アイツを倒したくないなら話は別だが」

そう言ってタバコをくわえた刑事が振り返る。

地響き立てて移動するテレビで見た天使がそこにいた。

「あんま、時間がねぇ。大人しく俺らについて来い」

そう言って、寝癖だらけの頭をガリガリ掻くと、1人、歩いていってしまった。

「春彦。今はあいつらに協力するしかないだろ? 暴れるぞ」

ヴァンが毛を逆立て、巨大な天使を見ながら言った。

……今日はホントに散々だ。

大地に腕を引っ張られながら、春彦はゴルフ場を後にした。


「いやー、それにしても、でけぇなぁ。コイツ」

岡村はメタトロンの足元にやって来ると手を額に当て、見上げた。

そこに春彦、大地、赤メガネの女性警官が到着する。

「あんま、時間がねぇからざっと説明するぞ。俺とコイツは見ての通り警察だ。俺は岡村でこっちはーー」

「笠原です。よろしくお願いします」

指さす岡村の言葉に繋げるように笠原が自分の声で自己紹介をする。

「今からコイツを倒す。俺もコイツもお前らと同じ、能力者だ。俺からの命令は2つだ。死ぬな。それと食らいつけ。これだけだ」

「誰がお前の指図を受けるか!」

ゲルザーがジタバタと暴れだすが、岡村は全く反応しない。

もしかしたら、名前を呼びあってないのかもしれない。春彦はそんなことを考えながら、「分かりました」と一言呟いた。

「よぉし。んじゃ、おっぱじめるぞ!」

その言葉と同時に岡村が鷹のような姿へ、笠原は猫とくノ一を掛け合わせたような姿へと変わる。それぞれ手には銃身の長い猟銃のような鉄砲と鎖鎌を持っている。

「春彦、やるぞ」

大地がクロスし、剣を出しながら言った。

春彦も頷く。

「ギャァァァァァァァッ!」

春彦がクロスし、武器を持つとメタトロンは首を一回転させ、耳を劈くような声を上げた。

岡村に続いて、春彦たちは空へと躍り出た。

メタトロンへと駆け出していった、春彦たち。

彼らは街を守ることが出来るのか。


次話もお楽しみにー!

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