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守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第5章 文化祭・メフィスト編
25/54

第24話 天使と悪魔の共闘①

文化祭に終止符が打たれ、みんなで後片付けをしている時、ちほの耳にクラスメイトの声が入ってきた。

「なぁ、ここにいる奴で一條を見たやついねぇか?」

……一條。

昼間に彼の友達を突き飛ばし、クラスを出ていってから1度も見ていない。

根暗なイメージがあったが、全員参加の清掃に参加しないほどの度胸のある人でもない。

「間が悪くなって早退したんじゃね?」

クラスの誰かがそう呟いた。

……確かに教室を出る時、顔色が悪かった気がする。

ダンボールのカスをゴミ袋に入れ、袋の口を縛る。

その縛ったゴミ袋の上に卯吉が降り立った。

「失礼、お嬢。実は先ほどの抜け出していった彼から天使に近い雰囲気というものを感じましてな。もしかしたら大変なことになる、その前触れかと……」

……そうだとしたら冗談じゃない。クラスメイトを天使とみなして倒せっていうの?

「それは本当なの?」

ちほが恐る恐る確認を取る。

「ええ。私、守護聖獣の草食動物は身を守るため、察知する能力があるのです。それで感じ取ったので間違いないかと……」

卯吉がモノクルの位置を正しながら言う。

……だとしたら春彦君達にも伝えないと!

ちほはスッと立ち上がり、友達に告げてクラスを後にした。

……隣のクラスにいるはず。

入口の戸を開け放つ。

その衝撃で7組の多くの生徒が振り返った。

みんなに注目されるとどうも恥ずかしくなる。

「えぇとー、泉君いますか?」

そこに橘がやってきた。

「泉君たちなら帰っちゃったの。どうかした?」

「いや、それがさ……」

そこまで言ってみんなの視線が自分から外されてないことに気づく。

「ごめん、ちょっと場所変えられる? ここだとちょっと問題あるからさ」

ちほは橘の耳元で呟いた。

「うん、了解!」

そうしてちほと橘は教室を出ていった。


春彦は帰宅し、母さんがいるリビングのドアを開けた。

「あら、おかえり。打ち上げとか行かないの?」

お母さんはリビングと繋がっているキッチンに立ち、鍋をかき混ぜながらテレビのニュースを眺めている。

「多分、それは明日の代休だよ」

その足で春彦はソファに身を預けた。

チャンネルを変えようとリモコンを手に取る。

しかし春彦がチャンネルを変えることはなかった。

テレビには人の大群がいっせいに橋を渡っている映像が流れていた。画面右上にはliveと書かれている。

人の群れは老若男女構わずそして全員が私服ではなかった。

高校の制服の人もいればエプロン姿の女性、警官の制服を身にまとった男性、和服姿の老人や自衛隊の装備をした人など本当に様々だ。

さらに驚いたのはそれだけではなかった。

その周りを埋め尽くすかのように天使が飛び交っていた。

見える人にしか見えないその人間と天使の大群は橋の先にある島を目指していた。

春彦は食いつくようにその中継を見ようと音量を上げた。

『現場のリポーターは先ほど、あの中の何者かに暴行を受け、現在、病院に搬送され、凶器などで刺されるなどの重体です……』

……もしかして、あのオカマの人が言ってたことってこのことなのか!?

「春彦。コレは放っておくと大変なことになるぞ」

ヴァンがテレビの方を向いて机の上に座りながら呟いた。

「どういうこと?」

「んじゃ、こう考えろ。なんであの人たちはあんな姿で天使のいる真下を行進しているのだと思う?」

……この場合、何かの人が開催しているイベントと考えることは怪我人が出ていることからできない。これほどの人数を統括してかつ、天使をも統べる存在……。

嫌な予感が胸の中に広がっていく。

「もしかして、神……」

「あぁ。それでほぼ間違いないだろう。だとすると次に何が起こるかは想像がつくな」

「俺を殲滅?」

「や、目的は人類の抹消だ。それなら私たちを倒すより直人間に手を下した方がいいと思わないか?」

ヴァンが春彦の方を振り返る。テレビの光に照らされ黒い体が余計、暗く見えた。

「春? あんた、誰と会話してるの?」

キッチンから母さんの声が聞こえる。母さんにはヴァンは見えていない。

そういう反応するのも承知の上だ。

「いや、なんでこんなことが起きてるんだろって1人で考え事してた」

……ここで変に話してると面倒臭いな。

春彦はリビングを出ると、携帯を取り出し大地と清護に連絡を取った。


輝也は家族と夜ご飯を食べていた。

テレビは未だに今日の大行進のニュースが中継で繋がって流れている。

輝也にもその場で何が起こっているかが理解できた。

「もしかして、あれは……」

「輝也、僕たちどうしたらいいのかな?」

食卓に輝也の守護聖獣、ホーグがひょっこりと顔を出す。どうやら考えていることは同じらしい。

……ここで話せば親に迷惑かかっちゃうな。

無言のまますぐに食べ終わると自分の部屋に戻った。

机に向かい、携帯のアプリを開く。

……えっと、連絡先は大地先輩っと。

部屋にタイプする音が響いた。



「なぁ、大地と清護。おはようだけどよくここまでのメンツが集まったな」

春彦が半ば驚きで大地と清護に目を向ける。

大地は相変わらずやんちゃな少年のように歯をみせて笑い、清護は照れるようにして頭を掻いた。

春彦たちは今日、真相を解きに昨日報道されていた島へと行く。

3人で行くはずだったが、なんとその後個人的に同じ内容で連絡があったらしく、7人に同行者が増えていた。

春彦がみんなの方を向く。

「今日はあの謎を解きに行きます。えと、とにかく、集まってくれてありがとうございます」

オロオロしている春彦にちほがヤジを飛ばす。

「そういう前置きいいから早く行こ!」

改札をくぐろうと体をそちらに向ける。

「ちょっと待って! 先に確認しておきたいことがあるんだ」

春彦が呼び止める。

「みんなに聞きたいことが、あるんだ……」

沈黙が訪れる。

駅の構内に響く足音とアナウンスがやけに大きく聞こえた。

「俺の推測だと今回の相手は今までのと比較できないほど強いかもしれないんです」

「だからこそ、俺はここのみんなに聞かなきゃいけないんです」

春彦が1人1人に顔を向ける。

「大地、清護、ちほ、橘、輝也君、陽先輩、そして……」

春彦が最後のひとりの方を向く。

「ルミ姉って呼んでくれればいいわ」

オカマの能力者ーールミ姉が髪を人差し指でクルクルといじりながら言った。

「要するに、俺ら全員、命かけるくらいの覚悟があるかって聞いてんだろ?」

陽先輩が後ろで束ねた髪をさらにきつく結びながら言う。

「そうです」

「なら、俺達は問題ねぇな! 俺達はどこまでも一緒だろ?」

大地が肩に手を置く。

春彦がシリアスなテンションで話しているのにも関わらず、大地は笑いを求めるかのようにイケボでその言葉を放っていた。

……そんなこと言った記憶ないけど、頼もしい。

「その俺達って言葉、私達は含まれるの? 含まれてないようなら、私達もそっくりあなたに今の大地くんの言葉を贈るわ」

橘もニッコリと微笑んでいる。

「僕も同じです。あの時、先輩に助けてもらったから今の僕があるんです。その恩返しと考えたら全然」

「これで、その犯人不明の殺人が消えるなら俺だって賛成だよ」

髪を束ね終わった陽が壁に背中を預ける。

「なら、みんな意見は一致したようね」

春彦が言うはずの言葉をルミ姉に取られた。

あっけに取られているところをさらに清護が続ける。

「んじゃ、討伐隊、出動するか!」

その掛け声に合わせて、各々が動き出した。



「お呼びでしょうか、ゼウス様」

3人の天使が玉座の前で跪く。

「あぁ、君ら3人には仕事を与えよう」

ゼウスが玉座から腰を上げ、話を続ける。

「ラファエルを殺した奴が我々の作戦を妨げようとしている。それを止めてもらいたい」

赤毛を(かんざし)で留め、赤い袴を身につけた天使が立ち上がった。

「任せてください。そんな奴ら、俺の力だけで十分です」

ゼウスが赤毛の天使の方を向く。

「いいや、彼らはまた勢力を増しているのだ。だから君ら3人を呼んだのだよ。奴らは今、次の作戦本部へと向かっている。もう何を言うかは分かるな」

「えぇ、お任せ下さい。僕が片してあげますよ」

金髪で緑色の鎧を纏った天使が立ち上がる。

「私もこの人たちが行くのであれば行かない訳には行きませんよね?」

赤メガネに青の髪を後ろで束ね上げた天使がメガネの位置を直しながら言った。

「では、本部を一任している奴の元へと向かい、そいつの指示に従ってくれ」

「了解」

3人の天使は天界を飛び立った。


ここは大行進が起こった橋の先にある島の塔。

その展望台にあの男は立っていた。

「そろそろ、私の下僕が血肉に飢える頃、ですかね?」

メフィストが自らの爪の長さを確認するように手を見ながら言った。

するとそこに3人の天使が降り立った。

「き、貴様は堕天した筈ではないのか……!?」

金髪の天使が腰にこさえた剣に手をかけながら興奮した様子で訊く。

「やぁ、待っていたよ。私はゼウス様直々に頼まれてここにいる、君たちの仲間さ。もっとも、君たちのボスに当たる存在になるけどね」

それに反応して袴を身につけた天使が身を乗り出した。

「テメェが、指示する立場だと? 調子に乗るな! 今ここで切り捨ててやる!」

「まぁ、焦るな。この者の作戦も聞こうじゃないか」

青髪の天使が引き抜こうとするのを制す。

それを見計らったかのようにメフィストは作戦を話し出した。

そしてその終わりに片手をゆっくり前に出しこう告げた。

「……命じよう。ウリエル、ミカエル、ガブリエル、人間をここから破滅へ導くんだ」

「……り、了解しました」

3人はしぶしぶ了解すると塔を飛び出していった。


春彦たちはようやく、目的地へと到着した。

上空にパラパラと何体かの天使が舞っている。

島へと続く橋はパトカー等で通行止めにはなっているものの、人の姿がない。

おそらく自分自身が襲われないように包囲した後に逃げだしたのだろう。

「ここまで、観光スポットに人がいねぇと気味悪ぃな」

大地があたりを見回しながら呟いた。

「……行こう」

春彦が率先して1歩を踏み出した。

警察が張った規制線をくぐり抜ける。

橋の向こうにたくさんの人が見えた。

……おそらくあれが中継で報道されていた人の群れ。相手の神の能力がわからない以上動きようがないけど、それは相手だって同じなはず。

誰も通らない大きな橋を春彦たちは歩いていく。

すると突然、橋の向こう側にいた人の群れがこちらに向かって走り出してきた。

みな、白目を向き、意識がないかのように左右に揺れながら走ってくる。

手には警察なら警棒と銃が、主婦なら包丁が、大工ならハンマーがといったようにみんな何らかの武器を手に持っている。

「皆、クロスして散開しよう!」

その声に合わせてみんなクロスする。

清護は両手に手袋を嵌めた。でも、能力者のように浮遊することはできない。

すると輝也が地面に降り立った。片手をボールを投げるようにして振りかぶる。

その手に合わせて清護と輝也の後ろから何台ものパトカーが群れに向かって転がっていった。

「人の対処は俺らに任せてくれ! それより早く行くんだ!」

清護が声を張り上げる。

パトカーが地面を転がり、鉄が擦れる音が朝方の橋に響き渡る。

その音に反応して島中を飛び回っていた天使が襲いかかってきた。

「みんな、倒すよ!」

春彦たちはそれぞれ武器を手に持ち、空を蹴った。


パトカーは橋の真ん中で止まったが、人の群れはそれを乗り越えてくる。

清護は黄金のラインが刻まれた手袋から剣を作ったが、動こうとしない。

「清護先輩? 早く潰していかないとあの人数なら飲まれてしまいますよ?」

輝也が心配して清護の方を向く。

「あぁ、わかってる。だけど、俺の直感が殺してはいけないって言ってる気がするんだ」

そう言っている間にも群れはパトカーのバリケードを抜け、襲いかかってくる。

輝也は耐えきれず、手を横に1振りし、橋に付いている街頭を折り曲げ、群れに当てた。

血が飛び散る。

その街頭がまた、群れの行く手を阻んだ。

「輝也君! ダメだ、彼らは人だ! 実態のある、僕らと同じ人間だからそのやり方はいけない!」

清護が輝也の肩をつかみ、激しく揺する。

「じゃないと、僕達は死にますよ!」

……確かに相手は凶器を手に持ってる。でも、意識のない人だ。なら1番の方法は?

「……越えられないほどの高いバリケードを作ろう。とりあえずこの島からこの人達を出しちゃいけない」

そこに天使の放った矢が飛んでくる。

清護がそれを見つけると、清護の周りを回る6枚の六角形で半透明の盾が矢を防いだ。

清護が光の矢をその天使に放つ。

「分かりました。作るんでその間は護衛してください」

そう言うと、輝也は両手を上に挙げた。

その両手の上に次々と鉄を含む物体が集まってきた。

清護は輝也を狙う天使を弓で狙撃し、1体1体ススへと変えていく。

まだまだ、塊はでかくなる。

鉄を集めている輝也に天使が剣を向け、滑空してきた。

「俺が相手してやるよ!」

光の剣と天使の持つ剣がぶつかり合う。

清護はたった2撃で剣を持つ腕を切り上げて切断した。

止めに光の刃を天使の心臓に突き立てる。

貫通したところからススとなって消えた。

そうしている内に群れが街頭を乗り越えてきた。

「できた! 先輩、下がってください!」

それを聞き、2、3歩下がると目の前に10メートルは超えるほどの鉄の塊が落ちてきた。

あまりの重みに橋が揺れる。

「これでどうですか?」

輝也が得意げな顔をこちらに向ける。

「流石だ!」

清護と輝也はお互いの拳同士をぶつけた。

読んでくれてありがとうございます!

次話もお楽しみに!

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