表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護聖獣物語  作者: ロイ オークウッド
第1章 能力の目覚め編
2/54

第1話 はじまりはじまり

文章力向上のために始めてみました!


守護聖獣物語始まりの巻、ご覧下さい!

最近、誰かに付きまとわれている気がする。

そう思いながらふと、空を見上げた。

春風が春彦の栗毛色の髪の間を抜ける。

東の空から出始めた満月は綺麗に輝き、春彦の帰路を照らしていた。

暗くなり始めた道を春彦は今日も独り歩いていた。

これには、ちょっとした訳がある。


彼ーー泉春彦(いずみ はるひこ)は、幼い頃から幽霊のような何かを見ることのできる能力があった。

その何かは、幼い頃の春彦にとって"他の人に見えないもの"という認識があり、より強いトラウマとして残ったのであった。

この事について親に相談したことがある。

しかし、親は眉を潜めて、

「左手を見てご覧。お前には神秘十字線があるから、オバケに襲われる事はないんだよ?」

とオカルトチックな小言しか言わない。

確かに神秘十字線を持つ者は死に際に救われるとテレビで見たことがある。

だけど、それは占いを信じる人達の考え。

そんなものを信じていなかった春彦はーー自分自身を死に追いやる何かーーと考えるようになった。

だから尚更、その何かが怖かった。

それでも心配だった春彦は意を決して、友達に相談してみたこともある。

しかし、ただ気味悪いと陰口を叩かれ、いつの間にか独りになってしまっていた。

そんなこともあり、高校は中学の同級生がいない天明(てんみょう)高校へと自らの希望で進学したが、人との付き合い方を忘れた春彦はやはり孤立してしまっていた。


いつものように帰って夕食を食べ、風呂に入り、暇なので勉強をする……。

それが、春彦の日常となっていた。

……あの能力さえ無ければ俺は普通の高校一年生なのに。

明日の中間テストに備えての勉強を終わらせ、頭をガリガリ掻きながら時計を見ると、すでに0時を過ぎていた。

溜息を漏らしながら、教材をまとめる。

……俺って勉強以外にする事のない、つまらない奴だな。

すぐに消極的になるのは悪いことだというのもわかっている。

でも、この能力のせいで治そうとするものも治りそうにない。

「もう、うんざりだよ」

そう漏らしながら寝床についた。


……目を閉じた……


しかし、瞼を通して、光を察知する。

外が明るい。朝かと思ったが、その割りには暗過ぎる。

そう思って重たかった瞼を開けると、隣の家が真っ赤な炎に包まれ、燃えていた。

……親に伝えて外に逃げなきゃ!

そう思った時には部屋を飛び出し、階段を駆け降り始めていた。

暗くて足元がよく見えない。

降りている途中で突然、何かが行く手を遮った。

咄嗟に態勢を立て直そうとするが、それにつまずき、階段の下まで落ちていった。

春彦はそのまま意識を失った。


春彦が気がついた時は既に朝だった。

何故ここにいるのかすぐに判断できなかった春彦だったが、昨日の出来事が頭をよぎり、寝巻きのまま外へ飛び出した。

昨日の春彦が見た通り隣の家は焼け、そこには黒く炭化した骨組みしか残っていない。

その周囲には警察やマスコミ、野次馬が囲んでいる。

人混みが得意ではない春彦だったが、興味に身を任せ、その人達をすり抜けるようにして一番前にまで出てくる。

自分の家と隣合う焼け跡を見て、春彦は1つの疑問に駆られた。

……あれ、何でだ? 延焼してるはずの自分の家が少しも燃えていない。ススすらも残ってないなんて、そんなことあるのか?

周囲に耳を傾けていると、出火してから既に6時間経っているらしく、隣の家にすんでいる中年の夫婦も幸い、海外へ旅行に行っていたので、結果死人は1人も出ていないということがわかった。

それにしても少しは自分の家も黒ずんでいるはずだ。

そんな事を考えながら家の外壁に目を凝らしていた。

そんなとき、とある放送局のリポーターに声をかけられた。

……取材は得意じゃないんだけどな。

仕方なく、春彦は応じることにした。


また、つまらない1日がスタートする、はずだった。

普段通り森の中の道を抜け学校へ行ったが、今日はいつもと違った。

学校に着くなり、今まで話した事のないクラスメイトからとてつもない量の質問を浴びせられる。

「テレビに映ってた奴っておまえ? 」とか、

「犯人とかってまだ、わかってないの? 」とか。

春彦にとったら、どうでもいい質問ばかりである。

そんな質問を軽く受け流し、テスト前の最終確認を始めた。


テスト初日なのに大変な日だった。

半日で学校は終わったのに7時間日課とたいして疲れは変わらない。

むしろ、春彦はそれより疲れたとさえ感じていた。

「テストできなかった〜」と、ワイワイはしゃいでいるクラスメイトに少しはこっちの気持ちにもなってみろと怒鳴りたくもなった。


家へ帰ってテレビをつけてみると、どこのチャンネルもやはり朝の事件が放送されていた。

時折見せる他のコーナーはやはり、最近多い"犯人のわからない殺人"のネタばかりだ。

もう見る元気も無かった春彦は、電源を落とすとカバンを持ち自分の部屋へと上がって行く。

階段を上がり、ドアノブに手をかけた時、ドアの向こうで聞き覚えのない声が聞こえた。

思わず、ドアノブから手を離す。

耳をドアに寄せ、聞き取ろうとしたが上手く聞き取れない。

時折、「美味い」や「なんだこれは」といった声を聞き取ることが出来た。

春彦はこのドアの向こうに泥棒がいると思い、躊躇いがあったが、慎重にノブを回した。

ドアを開けたが、そこに人影はなかった。

部屋を見回すが目立っておかしなところはない。

ただ、窓は空いている。

何処かに隠れているのではと思った春彦はクローゼットの中やベッドの下、外などを見た。

だが、やはり人影はない。

……また、あの能力か。

と思いながら、昨日のうちに買っておいた棚に置いてあるポテチに手を伸ばす。

そのポテチは既に開けられていた。

そして、なんかゴワゴワした物が春彦の手に触れる。

焦った春彦はそこから手を引くと、ポテチと一緒に黒い狐みたいな両手のひらサイズの生物が落ちてきた。

コンソメのポテチが床に散らばる。

その黒い生き物は春彦の手にスッポリと収まった。

「おぉ、帰って来たか。それにしてもこの食べ物は一体……?」

その生き物が春彦を見上げ不思議そうに尋ねる。

……喋った。喋った。喋った! 小さな黒い生物が喋ったっ!

「うわぁぁぁぁっ!」

思わず春彦は叫び声をあげた。

その生物も驚いたのか、目を見開いている。

「だ、誰だ、お前っ‼︎」

気づいた時には、口走っていた。

「わっ、私か? 私はお前さんの守護聖獣のヴァン・ゾーロだ」

こんな人語を話す生物、図鑑でも見たことがない。しかし、春彦は震えた口で聞き返していた。

「守護聖獣?」

「ああ、守護聖獣とは、一部の神秘十字線を持っている人を守護する動物の事を言う。ちなみに私は見ての通り、狐だ。それより、そこに降ろしてくれないか」

前足でちょいちょいと合図する。

「黒い手のひらサイズの狐なんているかよ……というより、何でこんなところに? いや、そもそも何で俺は見ず知らずの動物と言葉を交わしてるんだ?」

そう言いながら机にその狐を降ろす。未だに膝が笑っている。

さらにその狐は続けた。

「そんなのどうだっていい。今回の本題は何故ここに私がいるかだ。私がこの世界に来た目的は神から人類を護る為だ。や、正確にはお前さんを護る為だ」

「神から? 俺を護る……? って、神を敵とか言うなよ、罰当たりだぞ」

「あぁ。どうも、今の人類は宗教だか何だかで、神が味方だと思っているらしいな。ただ、それは違う。それは過去の神の化身が人間に植え付けた単なる思想だ。まぁ、もっとも、お前さん達の宗教に存在している神とは違うものだがな。神はお前さん達にとって敵なんだよ……。神は、人類の事を出来損ないの動物で区別しているらしい……。まぁ、そういう外敵から神秘十字を持っている人を護るのが私の仕事だ。信じるも信じないもお前さん次第だがな」

じっと春彦を見つめながら淡々と話している。

変な生き物と言葉を交わしている自分が未だに理解できないと思っていたが、同時にその話に引き込まれていた。

「え、じゃ、じゃあ俺の神秘十字線って……。何か、その……神様に関係あるの?」

「あぁ、大ありだ。実際に昨日体験しただろう。何でこの家が少しも焼けなかったか。教えてやろうか? その理由」

春彦は身を乗りだしながら、強くうなずいた。

「近すぎる。そんなに寄らなくても教えてやるから、少し下がれ」

肉球のついた前足を春彦の胸に置き、制す。

「家が燃えなかった理由。それは、私がお前さんの事を護らなくてはいけなかったからだ。守護聖獣として、最後まで護り抜くのが義務なのでね。火事があった家はお前さんの部屋と隣接していただろう? だから、護らなくてはいけなかったのだよ。まさか、護るべきお前さんに蹴りを入れられるとは思わなかったがな」

……昨日の黒い影。あれはこの話す動物のものだったのか。

「それはほんとにごめん……君を蹴るつもりはなかったんだ」

「君と呼ぶな気持ち悪い。ヴァンでいい」

一呼吸置いて、ヴァンはまた話し始めた。

「次に、隣の家が燃えた理由だけども、何が原因だと思う?」

この話の流れからいくと、大体想像はつく。

「か、神の仕業なのか?」

「ほとんど正解だな。まぁ、正解は神の下っ端である天使の仕業だ。最近、犯人不明の殺人事件とか起きているだろう?」

春彦はさっき見た"犯人のわからない殺人"のニュースを思い出す。

「確かに……。最近、よく起きてる……。けど、それって本当に全て……」

ヴァンが春彦の詰まった言葉を繋げる。

「天使の仕業なのだよ」

一呼吸間をおいて春彦が訊ねた。

「で、それはいつ終わるんだ?」

ヴァンは黙り込んでしまった。

春彦はもう一度聞いた。

「どうしたら、この国を救う事ができるんだ?」

背けていた顔を春彦に向け、口を開いた。

「実は、その方法はまだ見つかっていない。ただ、わかっている事は、私以外にも守護聖獣がすでに戦っていて、相手はほとんどが天使ってだけだ」

丁度、言い終わった頃に下で「ごはんだよ」と声がした。

タイミングが悪い。でも、腹が鳴っているのも事実だ。

「んじゃ、ちょっとご飯食べてくる。そこにいてくれよ!」

そうヴァンに指さしながら言い残し、春彦は階段を降り出した。

今日の夕飯はハンバーグだった。

普通に食べていると横から声がした。

「その食べ物は一体?」

……ヴァンだ。ん? 何故こいつがここに? 確か部屋において来たはず。マズイ、親に聞こえてるかもしれない!

冷や汗が垂れる。春彦の両親は何も聞こえていないかのように箸を動かしている。

そんな事が頭の中をグルグルしていたら、それを察したのか、横からヴァンが突っ込んできた。

「心配するな。神秘十字線を持ってる奴にしか私の声は聞こえない、そして見えもしないのだよ。ついでに言うと、他の能力者でも守護聖獣の名前を呼ばない限りは見ることはできない。とまぁ、おいおい説明する」

そんな事を言い聞かされる中、父さんが話しかけてきた。

「テストはどうだった?」

最近、そんな会話ばかりである。学力主義の父親はどうしてもそこが気になるらしい。

「普通に出来たよ。問題ないと思う」

無表情で適当な返事をした。

親も昨日の事件のことを気にしてか、敢えてそこについては触れてこなかったが、つまらない事を話し続けられるのも勘弁してほしかった春彦はさっさと食べ終わり、部屋に戻った。

部屋に戻って来たはいいが、やる事がない。

ヴァンは相変わらず、先ほどのポテチの袋に頭を突っ込みながら美味しそうに食べているだけだ。

……しょうがない、明日は俺の苦手教科があるから勉強でもするか。

そう思い、バッグの中に手をいれた。

…… ない。教材がない。あ、そういえば今日は、学校を早く出たから教材を持って帰るのを忘れてた。

時計に目をやった。

今日は夕飯を食べるのが早かったらしく、今は7時少し前。

……今ならまだ間に合う、はず。多分。

そう思った春彦は勢いよく椅子から立ち上がった。

「おぉ。どうした?」

口の周りが、カスだらけのヴァンが春彦に気づき、声をかけた。

春彦は振り返りもせず、答える。

「ちょっと、学校に忘れ物取りに行ってくる」

「私も行こうか?」

「や、いい。そこにいてくれ」

春彦は人差し指をヴァンに向けそう言い残すと、駆け足で部屋を後にした。

外は、街灯がついているが、まだ明るい。

春彦は学校に向かって走り出した。


思ってたよりも早く着いた。

最近は運動という運動をしてないせいですぐに息が上がる。

運動しておくべきだったと後悔しながら、校舎内に足を踏み入れた。

春彦の想像以上に校舎内は暗く、不気味だった。

息を整えながら閑散とした薄暗い廊下を進み、教室に着いた春彦はロッカーの中をあさる。

……やっぱりここにあった。分厚い数学のワーク。

それを取り出し立ち上がったところで、眩い蛍光灯の光が春彦を照らした。

突然の光に目を細める。

教室の電気を付けたのは事務員だった。

独特のゴム質の音を鳴らしながら教室内に入って来る。

「誰だ! こんな時間に……」

「すいません、明日のテスト勉強のために持ち帰るのを忘れてた教材を取りに来てて……」

素直にそういうと、鬼の形相だった事務員はホッと力を抜き、面倒くさそうに言ってきた。

「ちゃんと私に来たと言ってくれなきゃダメじゃないか。早く帰ってくれよ」

去ろうとした事務員だったが、思い出したように振り返ると「最後の消灯を忘れるなよ」とだけ言い残し、歩いて行ってしまった。

口笛が聞こえる。

さっきの事務員が吹いているのだろう。

外を見るともう、陽は落ち、電気をつけないと暗く感じるほどになっていた。

取り残されたと思いながら電気を消そうと出入り口に向かって歩き出した時、サッと目の前の廊下を何かが通り過ぎた。

何かと思いそっと廊下に顔を出すと、翼のはえた人間ーー天使が階段を下ろうと角を曲がった所を目撃した。

「あれはまさか……」

「あぁ、間違いなく天使だな……」

そう言って、ポケットからヴァンが顔を出した。

「おわっ! またついて来たのかっ!」

「お前さんを守る事が私の義務なのでね」

誇らしげに言うと自力で抜け出し、床に音もなく降り立った。

「ほら、何ぼさっとしてんだ。あいつを追うぞ」

「あいつって? 天使?」

「いいや、さっきの事務員のおっさんだ。次の標的はどうやらあいつらしい」

言い終わる前にヴァンは駆け出していた。

どうやら面倒なことに巻き込まれてしまったらしい。

……え、俺を護るための守護聖獣じゃないの?

しぶしぶ、春彦もヴァンを追って走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ