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神様のイタズラ  作者: 夕月。猫。
3/3

彼と彼女

完結

 ◇終幕




 ポツポツと雨が降っていた。


 いつしか降り出した雨が、私の制服を塗らし、布地べったりと張り付いていた。



 そう言えば、午後は降水確率七十パーセントだっけ?



 傘ないなぁ。もうどうでもいいけど。


 ひどく落ち込んでいた。今日だけで自分が分からなくなってしまった。べつに聖人君主みたいになりたいわけじゃない。


 だけど、人並みに性格良いと思っていた。それは……。


「ほんと……最低じゃん……」


 口から言葉が漏れ出し、顔は雨やら涙やらでぐちゃぐちゃだ。たぶん、今はイケメンじゃないと思う。





 道を適当に選択し、目についた公園に入った。雨天の児童公園は空っぽ。誰も居やしない。


 そっとブランコに腰掛け、ブラブラと揺らす。かばんの中から、義理チョコだしてパクリと食べた。いっつも甘さばっかり感じるチョコはめっちゃ苦かった。思わず吐き出しそうな程に。


 パッケージを見れば、カカオ九十九パーセント文字が。キャッチフレーズは、“人生はほろ苦く”だそうだ。


「ほろ苦いどころか、苦すぎて泣きそうだよ」


 乾いた笑いがこぼれ落ちる。このまま雨の中に溶けてしまいたかった。


 しとしとと落ちていく雨、キリキリと悲鳴をあげるブランコのチェーン、ずぶぬれの私。




「ほれ、俺が風邪ひいちまうだろうが」


 傘が差し出される。


「ふぇ?」


 男らしい言葉は、ソプラノだった。顔をあげれば、私が立っていた。正確には、私の体が。


「たっく探したんだぜ。ぜんぜん捕まんねぇーのな、俺って」


 先輩はため息をつく。やれやれと首を振っているトコを見ると、苦労したのかもしれない。


「うぅ……ご、ごめんなざい。本当に、わたしっ」


 気がついたら、先輩に泣きついていた。

 なんでも良かったのかもしれない。誰かに励まして欲しかった。


「えーと、まぁ、うん、大変だったな」


 先輩は柔らかな手で撫でてくれる。私は自分の体の暖かさに包まれていた。

 冷たい雨は傘が遮り、ぬくもりに包まれて。

 私はずっとずっと泣いていた。






 どれくらい経っただろう。

 泣きつかれて顔をあげたら、先輩の顔、つまり元の状態に戻っていた。

 当然の帰結として、先輩の顔は涙でぐしょぐしょ、制服は雨でぐっしゃり。


「あ……ご、ごめんなさいっ」


「まぁ、いいけどさ。へっくし。さみーなぁ」


 先輩は寒そうに身じろぎする。本当に申し訳ない。


「い、今すぐにでも帰りましょう。こっからなら私の家が近いですしっ!」


 あわあわとしまくった。大混乱だ。先輩の手を引き、連れて行こうとしたが。


「……待てよ」


 ブランコのほうへ引き戻されれしまう。

 先輩は私のカバンを指差す。


「……?」


「チョコ、持ってきたから、俺にくれ」


「……え?」


 言われてる意味が理解できなかった。でも、先輩の言うとおりにカバンをあければ、今となっては懐かしい私のチョコレートブラウニーがあった。


「でも……」


 由佳の顔がよぎる。私は最低すぎる。ここで先輩に渡す事ができても納得できない。そんなのは嫌だった。


「やっぱ、自信過剰だったか。わりーな」


 先輩はブランコから降り、スタスタ歩き始める。


「え?」


「ん? なんだよ、俺、おまえの事好きだったから貰えんじゃね、とか浮かれてたけど。違うんだろ」


 先輩は、どことなく悔しそうだった。


「おまえ、俺の練習いっつも見に来てくれてたし。けっこう嬉しかったんだ。そのくせ、俺が近づくと逃げちゃうし。嫌われてんのかと思った」


「でも……」


 それがたとえ本当だとしても今はごめんなさい、だ。本当に身勝手かもしれない。でも、私は嫌だった。


 先輩はぽりぽりと頬を掻く。


「どうせ告白断ったの引きずってんだろ」

「……っ…」

「それについては、俺が悪いから気にすんな。俺がしっかり普段から好きな奴いるって言わなかったから……嫌な思いさせちまったな」


 そっと先輩の手が、私の頬に添えられる。真っ直ぐに向けられた瞳がじっと見つめてくる。


 濡れそぼった先輩の髪は、頬に張りつき、毛先からは雫が滴っている。



「重要なのは、俺のこと好きかどうかだろ?」



 そっと頬のあたりに柔らかい何かが当たった。








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