そんなふたりの夢遊戯
ん……ああ…………なんだ、寝ちまってたか……
「――――――異物確認。消去します」
「あ? なんだおめえ?」
なんか目の前に変な箱があってそれが喋って細い光を当てているんだが意味がわからん。というかここはどこだよ。どこもかしこも意味不明なものしかねえ。空まで届きそうなデカイ筒に、変な箱がウヨウヨ浮いてやがる。
「てめえ、ここはどこだ?」
「消去不可能――――――――貴方は何者ですか」
「質問を質問で返すなって教わらなかったか?? まずはこっちの質問に答えてもらうぜ」
「――――――貴方は何者ですか」
……この箱、ろくに話も出来ないのかよ。いや、そもそも箱が話をする時点でおかしな話だ。それに今の今まで気付かなかったなんてきっと寝過ぎだな。
「はいはい答えりゃいいんだろ答えりゃ…………俺は夢魔のナチアだ。どうだ? 満足か?」
「夢魔――――データベースに一件情報がありました。夢魔とは人間の夢に現れ」
「あーいい。分かりきったことを聞かされてもつまらねえだけだ。で、てめえの質問に答えてやったんだ。今度は俺の質問に答える番だ…………ここはどこだ?」
「――――――ここはイグジスディレクションです」
どうもこの箱は物事を分かりやすく伝えようという気持ちがねえらしい。いやだから俺は箱に何を求めているんだ。頭おかしいんじゃねえか? ああきっと俺は頭がおかしくなってるに違いねえ。まともな脳ミソしてたら箱と会話をしてるなんて事実を知った時点で発狂して首でも切り裂いているだろう。
「イグジスディレクション? それはなんなんだ? なーるべく丁寧に頼むぞ」
「イグジスディレクションとはこの星の名前です。元は地球と呼ばれていました。1000年前に人類の数が激減し絶滅状態になりました。そこで人類は全てをコンピューターに任せ、数少ない人類は冷凍保存され今も眠ってい」
…………は?
1000年前? 人類が絶滅? 冷凍保存? コンピューター?
頭がおかしいと自負する俺でも流石に目眩がしてきやがったぜ…………
「あー……今は西暦何年だ?」
「西暦は3000年で終了しています。今は西暦が終了してから1829年と記憶しています」
てことは4829年か。俺が眠りについたのは確か1500年だった筈だから…………うへ、3000年以上も寝ちまったのかよ。どうりでおかしくなっているわけだ。最後の記憶は気持ちの悪い髪型をした貴族どもの夢に潜り込んでは出るをひたすらに繰り返していた。女もみてくれの酷い糞しかいねえ。夢魔としては最悪の環境だったなあ…………そして3000年寝て起きたら酷いとか酷くないを通り越して人間がいねえときたもんだ。俺はとことん運に見放されているに違いねえ。まあ夢魔に運も糞もねえけどよ。
「ひとつ聞きたいのですが――――――なぜ貴方はここにいる。悪魔と言えど永久に生きれると言うわけではないでしょう」
「ああ? 馬鹿かてめえ? 悪魔に寿命も何もねえよ。ま、死ぬことは死ぬんだけどよ」
「なら貴方以外の悪魔もいるはずです。しかし他の悪魔を認識したというデータは存在しません」
「そりゃそうだ。俺以外の悪魔はおそらく殺された。悪魔殺しにな」
悪魔殺し。変な宗教に属した頭の狂ったサイコパス野郎共だ。あいつらは見境無しに俺達悪魔をぶち殺した。ほんと迷惑な話だ。まあ、俺は今もこうして生きているんだから正直なとこどうでもいい。悪魔には仲間意識なんてものは無いしむしろ互いに互いを嫌悪していたくらいだ。悪魔に足りないのはまともな脳ミソと協調性だろうな。夢魔の俺が断言するのだか間違いねえ。
「なら、貴方は何故生きているのですか。貴方も悪魔殺しに殺されたのではないのですか」
「アホ。俺はピンピンしてるっつーの……俺は寝ていたから無事だったんだよ」
「―――――理解しかねます。眠りについていたから無事とは一概には言えません」
「あーまあそう言えなくもない。だけどよ、俺の場合状況がちっと特殊でよ。寝ていた場所が結界に守られていて、人間からは見えないし近付けもしないってわけよ」
いつのまにか結界は消えて周りは訳のわからん未来の世界になってるときたもんだ。笑えねえな……へへ。
「結界――――――理解しました。なるほど。それなら貴方が生きていることも説明がつきます」
「やっとまともな会話が出来た気がするぜ…………」
「それで―――――――貴方はどうするのですか」
なんだか、いきなり現実に戻されたなーこんな箱に現実に戻されるなんて眠るまえの俺は想像してたか? いやしてねえな。俺は予言者でもペテン野郎でもねえから、今起こってることと少しだけ覚えてる過去の記憶しか知らねえ。
んで……どうするかー……か。模範解答としてはなにもしない。減点対象として箱に助けを求める。イレギュラーとして箱をぶち壊す。まあやろうと思えば目の前の喋る箱にワンツーストレートを華麗に極めることも出来るが、今は寝起きでどうもやる気が湧かない。ときたらここは大人しく…………
「なあおめえ、どうすればいいと思う?」
あ? 何を言ってやがる俺は悪魔だぜ? 悪魔が模範解答したら立場がねえだろ?
「思考中――――――現在。このイグジスディレクションには人間はわずかです。それも冷凍保存されており、イグジスディレクションで活動を行っているのは私達コンピューターです。夢魔である貴方は人間の夢に潜り込む悪魔です。ですので、今貴方がここにいる理由は皆無と判断できます。ですので、再び眠りにつくことを私は提案します」
あまりに長いから途中で話し半分で聞いていたからおぼろ気だけど、こいつは俺にまた何千年と眠りやがれと言ってやがるんだな…………ほおほお。面白いなあそれは。実に面白いなあ――――――
「ばっか野郎てめえ俺は何千年と寝てもう寝過ぎて頭がクラクラしてんだよ! なのに、また何千と眠れってか? てめえは悪魔かっ! ど畜生の悪魔野郎が!!!」
「―――――――――――まさか悪魔に悪魔と呼ばれるとは思いませんでした。この経験は私の記憶データに新しく書き加えられることでしょう」
「んなこたどうでもいいんだよ! 俺は何をするべきかを聞いてるんだ。寝る以外のことを教えろ」
「再思考―――――――――すいません。何も思い付きませんでした」
なんだ。こんな些細な問題をこのいかにも頭良いですよみたいな箱さんは答えられないのかよ。こいつ実は俺よりも馬鹿なんじゃねーのー???
「――――――――――」
「おい黙って細い光を当てるんじゃねえ、眩しいだろうが」
「今後の課題は悪魔を消去できるビームの作成――――――――記憶しました」
箱が何を言ってるかは1ミリも理解できないし理解するきもないからどうでもいいとして早急に解決すべき問題は俺のイグジスなんちゃらでの存在意義についてだ。いや存在意義も何もここに人間がいない時点で俺がやることはないわけだ。てことは存在する意味ねーじゃねーか!
「はあ……もーやだやだ。ここに悪魔殺しがいれば死ねるんけどなー」
ここまで悪魔殺しの糞野郎と会いたいと思ったのは初めてだ。どうでもいいとは言え同胞を殺した連中だしなー
「――――――正確には判断できませんが貴方は落ち込んでいるようです。ですので癒しのためのヒーリングミュージックをかけましょう」
チャラーンチャラララーンチャラチャラチャララーン
あー不思議だ。なんだか心が癒され…………
「るわけねえよなー……こんなB級楽団のオリジナル曲みたいので癒されんなら戦争なんてものは起きなかっただろうよ」
つーか、俺は夢魔だ。夢魔である俺が癒されるとは――――――
「お、おおお! 俺今ピーンときたぞ! どうせ何もやれることなんてねえんだ。試してみるのも悪くねえ」
「貴方は何を考えているのですか。私には理解できません」
「そりゃそうだろうよ箱のコンピューターさんよ! 俺でさえあまりの奇才ぶりに震え上がってるんだからよ!」
こんな状況じゃなきゃ思い付かねえよな――――はっ! やべえぜやべえぜ!
「つーことで…………入らせてもらうぜ箱さんよお!!!」
「やめてください――――――そんなことをしたらコンピューター制御に異常が生じてしまう可能性が限りなくゼロに近くとても危険な行為だと判断できなくもないですがもしかしたら冷凍保存中の人間がしん―――――――――――――」
あ、あー。人間以外に入るのは初めてだけど…………気味が悪かったのー。なんか細い線がうじゃうじゃあってキラキラ光る床があって……あー思い出したくねえ。
「――――――――何を考えているのですか貴方は。私の中に入るなんてまともな思考をしているとは思えません」
「当たり前だろ。俺は悪魔だ。まともな思考している方が気持ち悪いって話だろ?」
「ええ。そうでした。こんなことも判断できないとは――――私の神経回路はショートしてしまったのかもしれません。もちろん貴方のせいです」
そう言うんじゃないよ。俺もあの時に戻れるなら全力で自分を止めるさ。あの時はあれだ。ハイになっていたとでも言うのか、キマッてたんだよ悪いな。
「そんで……もう1回どうよ?」
「貴方は何を―――――――――ええ。もう1度だけお願いします」
「よしよし。んじゃ、レッツゴー――――てか(笑)」
今日も俺は夢に潜り込む。いやあれは夢なのか? いや少なくとも夢じゃねえ。おいおい俺は夢以外にも潜り込めるようになったのかよ!
今後は夢魔じゃなくて神経魔とでも名乗ってみるかなー……へへ。
「ゆめゆうぎ」でも「ドリームプレイ」でもどちらでもいいです。
思いつきで書いてみたpart2。コンピューターと夢魔とかぱねえっす