5.
「あーーっ! アルド好きのお姉さん!」
「まあ、宰相様にご執心の」
牢から出されて、人目を逃れるように箱馬車に乗せられてやった来た場所は、アルドが言っていた通りにオテュール家の別邸だった。
これが別邸、と疑うように広く、オテュール家で1番大きいと言っていた本邸が見てみたい。
いつのまにかアルドはいなくなっていて、私の部屋だというこれまた広く部屋で始めて見た天蓋付きのベッドでポンポンと遊んでいた。流石に宰相の家なのか、ベッドはふかふかとしていてとても気持ち良かった。寝る時が楽しみですな、これは!
そんなことをしている内に部屋には、私のお世話係だという侍女さんが入って来た。
侍女さんは、ひっつめ髪の怖そうな教育係でもなく、立派なお髭を生やした優しそうな執事さんでもなく。
魔王が倒されたという残酷な結果を突きつけてくれた、黒いメイド服を着たほんわかした雰囲気のお姉さんだった。
「何でお姉さんが!?」
「は、はい? な、何故と言われましても、わたくしはオテュール家の使用人ですので…… それにしても、本当に宰相様とお知り合いでしたんですね! これも何かのご縁です。仲良く致しましょうね!」
「え? あ、はい、仲良くしましょう、仲良く!」
満面の笑みを浮かべたお姉さんに両手を握られブンブンと振られる。
「それにしても、お姉さんがアルドの家のメイドさんだったなんてね〜。世の中狭いですね、うん!」
「ふふ、まったくそうですね。それと、わたくしのことは“お姉さん”ではなく、マリア、とお呼び下さい。その口調も主と使用人の関係ですので、お控えなさった方がよろしいですわ」
「あ、ご丁寧にどうもどうも。都城綾音です」
そうか、お姉さん、マリアっていうのか…… マリアと聞くと聖母マリアを思い出すけど、優しそうなイメージとかピッタリだね。マリアの親御さんたち、グッジョブです。
マリアは、ぺこりとお辞儀をすると、パンパンとけじめをつけるようにエプロンの裾を軽く叩く。その反動でロングスカートが微かに揺れた。
「____ では、よろしくお願い致しますね、アヤネ様」
女である私でさえ、見惚れてしまうようなそんな笑顔で。
マリアは、笑うのだった。