3.
………… どうしよう。
回し蹴りしたのは悪いんだけど、何故こんなにじっくりと見張られているんだろうか。しかも、5人の屈強な方たちにじっくりと。
「____ 門兵に暴行、身元不明の不思議な格好をした少女、ですか」
「あ、あ、あ、あぁーーーーっ!」
これ以上何かしたら状況はもっと酷くなりそうだし、仕方なく牢の中で体育座りをしながら大人しくしていると。
暗い廊下の向こうからよく知った声が聞こえる。それから、げんなりとした表情の今、私がもっとも恨んでいる金髪男__ アルド・オテュールが現れた。
10年前より筋肉質になっており、背も10センチ以上伸びているだろう。宰相服に身を包み、その翡翠色の瞳で私をゆっくりと見下ろす。
「お久しぶりです、アヤネ様」
「あ、アルド! あんたねぇ!」
「娘っ! 宰相様に何て口を…………」
軽く私に頭を下げ、見張りの人を片手で制す。何かを合図すると、見張りの人は舌打ちやら睨むやらと散々な態度で私に背を向けてどこかに消えた。
「お変わりなく、アヤネ様」
「何それ嫌味ですか、私超変わったじゃん、身長45センチも伸びたし髪も伸びたし! まあとりあえずそんなことは良くてですね、事情を説明してもらうか、事情を!」
「はい、何なりと」
この笑顔がムカつくんだよなあ……! 10年前はもっと可愛げがあったと思うんだけど。
「既にお聞きになられたようですが、魔王は倒されました。アヤネ様以外の勇者様に、です」
「何故、私以外に勇者がいるの!?」
それから、私とアルドの押し問答になって中々話がまとまらなかったが、アルドの説明によるとこうだった。
私が旅立って8年たったある日、ついに魔王が復活した。魔王軍は物凄い勢いで近隣の国々を侵略し、レグランドにも魔の手が迫ってきた。いつになっても私がまったく現れないため、仕方なく異世界から別の勇者を召喚した。その勇者は何の訓練もなく次々に魔王軍を撃退し、ついには魔王を倒して、現在ではレグランドの英雄と言われ、親しまれている__
………… えーと、8年ってつまり、私が14歳の中2の時か。空手で全国制覇した年か。
「………… うん、何かごめん」
「この国のことなど、とっくにお忘れになった思っていました」
その毒を含んだ笑顔が痛い……!
まあでも、そりゃそうだよね。今さら、ピンチの時に駆けつけなかった勇者が来てもね!
「じゃあ、私、帰るわ」
「はい、お気をつけて」
居づらいのがこの上ない。アルドは、相変わらずの笑みを浮かべながら、私に頭を下げる。私も立ち上がり、制服についた汚れを払い、帰り支度を____
「って、どうやって帰ればいいの!?」
行きはあの魔法陣の上に乗って適当な呪文を唱えれば良かったけど、帰り方までは知らない。アルドは、その様子を見て深いため息をつく。
「また、例の魔法陣をお描きになり、呪文を唱えていただければ結構です」
何だ、行きと同じなのか!
ポケットをごそごそと探り、羊皮紙を取り出そうとする。………… あれ、あれ。
「………… あ」
八つ当たりで大道芸の人をあの羊皮紙でビンタして、風に乗ってどこかに飛ばされて。
「ちなみにですが、魔法陣は個人個人によって微妙に紋様が違いますので、アヤネ様はあの魔法陣でないと作動しませんよ」
「あああああっ!?」