2.
「魔王が倒されたって、勇者にですよね!? 私以外の勇者に!?」
「あ、あなた様以外の勇者様に、ですけど……? あれ?」
お姉さんの肩をガシッと掴むとゆさゆさと揺さぶりながら、聞きたいことを一気にまくしたてる。お姉さんは、何かこんがらがった様子で応えてくれた。
あの金髪男…………! 文句言ってやる、事情を説明させてやるぅ!
「お姉さん!」
「はへっ!」
私の迫力に気圧されたお姉さんが返事にならない返事を返す。うん、何かごめんなさい。
「アルドっていう男知りませんか!?」
「あ、アルドさんですか……? レグランドも広いのでたくさんいるかと……」
この国、レグランドっていうのか。何気なく手に入れた情報に内心ガッツポーズをとる。
「ええと、容姿は金髪で確か目が緑色で! 魔王とか勇者とかそういう関係で。それで名前は、アルド・おーて、いやおてー? 何かそんな感じの人です!」
10年前、召喚された時に唯一聞いた名前とあの金髪男の容姿を記憶の糸をたどりながらお姉さんに告げる。すると、首を傾げていたお姉さんはそれでしたら、と人差し指を立てて満面の笑みを浮かべた。
「それでしたら、レグランド国の宰相様のアルド・オテュール様のことでしょうか? 勇者様が魔王を倒す際は、陰ながら活躍され、勇者様につぐ第2の英雄とまで言われるお方で…………」
「それだっ!」
誇らしげに語るお姉さんの言葉を遮り、今まで掴んでいたお姉さんの肩から手を離す。力をこめすぎていたのか、いきなり解放されたお姉さんはふらふらふら〜とその場を後ずさった。
「それでそのアルドっていう奴は、王宮にいますよね!? 王宮ってどこですか?」
「ええ、まあ、宰相様ですから…… 王宮は、この道をまっすぐ行けば広場ですから、そこをまたまっすぐ行けば着くと思いますけど………… って、王宮に行かれるんですか!? 宰相様にお会いに!? 多分門前…………」
「ありがとうございます、お姉さん!」
いきなり焦り出したお姉さんの言葉を最後まで聞かず、軽く頭を下げる。
私は、人々の群れの中を怒りにまかせてどんどんかきわながら、王宮に向かうのだった。
*
「アルド・オテュールに会わせて下さい」
「はぁ?」
人々から散々文句を言われながらあの群れを通り、広場で大道芸をやっていた男から風船を差し出されるのを華麗に無視し、というか八つ当たりで魔法陣の羊皮紙で顔を平手打ちくらいの痛さで叩いて、やっと王宮の前まで来た。うん、ごめん、大道芸の人。というか、その反動で羊皮紙も風に乗ってどこかに行っちゃったし。
当たり前のことなんだけど、どこからどこまでが王宮ですかというような広大な造りで日本の皇居とかよりも大きいんじゃないだろうか。
「だから、アルド・オテュールに会わせて下さい」
「おい、この小娘をつまみ出せ」
銀色に光り輝く鎧を着た門番らしき筋肉ムキムキのおじいさんは、私をゆっくりと見下ろす。身長はゆうに2メートルを超えていそうで、その身長と体型で人を威圧するような雰囲気だ。
空手とかの道場の門弟でそんな人たちはたくさんいたけど、こう改めて見ると怖い。
「はっ」
門番のボスのような強面のおじいさんの後ろに控えていた他の門番たちが、私の制服の黒カーディガンの首あたりを凄い力で掴み、数歩歩いて地面に乱暴に突き落とした。
………… ま、まあ? これくらい、普通だし? 見知らぬ小娘が宰相に会わせろっていったらする普通の反応だし? むしろ、この場合は私がおかしいし?
「宰相のアルド・オテュールに会わせろって言ってんです。取次ぐだけでもしていただけませんか?」
「つまみ出せ!」
おじいさんはキレたようで、怒鳴りちらしながら他の門番たちに言う。もう1度のはっ、の声がして、また私の首を掴もうとする門番が来る。
………… さっき痛い思いをしたし、それを返してあげてもいいと思うんだ。
首を掴まれそうになった時、右足を踏ん張りながら門番のお腹に叩きこむ。そこまで痛くはないはずだし、え、何故うずくまっているんですか。ちょっと軽く回し蹴りしただけですよ。
いつのまにか集まっていたギャラリーからおおー、とか歓声が上がるけどやめて下さい! 何か本当にボスのおじいさんがキレそうです、今から謝ったら助かるのか!?
…… 助からない、よねぇ。
「その女を牢に閉じ込めろぉぉっ!」
真っ赤になったボスおじいさんの声と共に、他の門番たちに両方をガッチリガードされ、私は牢にへと入らなくてはいけないことになったのだった。