0.
「お待ちしておりました、勇者様!」
「____ へ?」
これは、夢なのか。
小学生ながら、そんなことを考えたりしていた。
下には白い光を放つ複雑そうな魔法陣。
周りには、中世ヨーロッパのような衣装を身に包む様々な年齢の男女。
10年前、小学1年生だった私、都城綾音は家から帰る途中にあくびをしたら、何故か視界が真っ暗になり。いつのまにか、光り輝く魔法陣とゴージャスな装いの部屋にいた。
ランドセルをブルブルと振るわせ、周りを見渡す。その時、私には"好奇心"という感情しかなかった。
「お待ちしておりました。失礼ながら、お名前は」
「都城綾音です!」
私に向かって膝まづいていた人たちの中心あたりにいる、少しクセのある金髪の男の人が私に向かって歩み出る。
男の人、と呼ぶには少し若すぎたか。あの時は、少年と呼ぶのが正しかった。結局、15歳だったし。
「そうでございますか。宜しくお願い致します、アヤネ様。私は、アルド・オテュールと申します。アルド、とお呼び下さいませ」
「分かった、宜しくアルド!」
目をキラキラと輝かせながら、アルドを見ていた気がする。彼はそれに苦笑すると、では、とつぶやき話題を変える。
「もうすぐ、魔王が復活します。アヤネ様には、その魔王を倒していただきたく、異世界からお喚びさせてもらいました」
「はへー、魔王!」
そろそろ、っていう割にはその8年後だったんだけどね。魔王を倒さなきゃいけないから、勇者。なんて分かりやすい。
「いいよ、わたし、倒してあげる!」
ただの好奇心、それだけ。死ぬかもなんて、まったくもって考えるていなかった。
「あ、でも、私、剣とか使えないや」
「それは、こちらも存じ上げております。ですから、こちらで修行していただくことになりますが、宜しいですか?」
その時、うん、とうなずいていれば良かったのだ。今となっては、後悔の嵐である。
でも、私はこう言った。
「__ ううん。ここの皆に、迷惑かけちゃやだもん。わたし、日本に戻って、剣道とか空手とか弓道とかええと…… とにかく、いろいろ習うから! 戦えるようになるから! それでちゃんと帰って来て、魔王を倒すから!」
そして、私は。
1つ魔法陣が描かれた羊皮紙と共に。
"異世界に修行をしに行った勇者"という肩書きで。
日本へと、戻ったのだった。