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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

七不思議の七番目

作者: 剣崎シンジ

 学校の七不思議。

 それは小学校には不可欠とも言えるもので、不必要とも言える奇妙なモノだ。

 もちろん、僕の通う草薙小学校にも七不思議はある。

 その七不思議の内容を実行して実証することは、確かに面白そうではある。まぁこの時点で僕が七不思議を信じていないことが分かるのだが(本当に信じている人間は面白がったりしないらしい)。

 だとしても、だ。

「……まさか本気で夜中の学校に忍び込むなんてなぁ……」

「んだよ、今更怖じ気づいたのか?」

 隣にいる同じ学校の男子生徒、片山の軽く睨みながらの問いに頭を振って答える。

 現在時刻は深夜一時。場所は草薙小学校の裏門近くのフェンス。こんな場所にいる理由は……草薙小学校七不思議を利用した肝だめし、である。

 ちなみに発案者は片山。こんなことを考えるなんて幼い……と思いつつも乗ってしまった僕も幼いのだろうな、と考えながらフェンスをよじ登る。

 夏休みなので人はいないだろうが、一応なるべく音をたてないようにストッ、とフェンスから地面に着地すると、先に侵入に成功していた片山が話し掛けてきた。

「なぁ、如月。本当に七不思議なんてあんのかな」

 それを確かめるために、これから学校に入るのではないのか。

 という身も蓋もない台詞は飲み込んで、

「さぁ、どうなんだろうね」

 と当たり障りのない言葉を素っ気なく返す。

 片山は少しむくれたが、すぐに真顔に戻り、

「七不思議、覚えてるよな」

「何を今更……」

 そう言うものの、七つもあるのだ。もしかしたら一つや二つ忘れているのかも。

 少し不安になったので確認の意味で頭の中に草薙小学校七不思議を列挙することにした。

 一つ。夜、音楽室のピアノが独りでに音楽を奏で始める。

 二つ。保健室の使用禁止のベッドは幽霊が使っていて、そこを使用したり汚したりすると祟られる。

 三つ。午前四時四十四分四十四秒に三階の女子トイレの右から四番目の個室に入っていると、扉がノックされる。そこで扉を開けてしまうと、死の国に引きずり込まれてしまう。

 四つ。校歌の三番を歌うと三日以内にその生徒は自殺する。生徒以外は歌っても問題ない。

 五つ。学校の屋上に入学してから合計四万四千四百四十四回立ち入ると、四万四千四百四十四回目に入った日に四肢のいずれかを失う。

 六つ。学校の裏の墓場には霊が住んでいて、夜三階からその墓場を見ると人魂が見える。

 そして七つ目は、誰かから聞いた気はするが……。

「……七つ目を忘れた」

「七つ目? 七つ目は不明じゃなかったか」

 あ、そうだ思い出した。

 これは最近とある男子生徒が七不思議を全て知ってしまい、行方不明になったので箝口令が出され、誰も七不思議について話さなくなった。その時に忘れ去られてしまった、と言われている。

 その男子生徒とは知り合いだった覚えがあるのだが……はて、思い出せない。

 とりあえず今は他の七不思議だ、とそこまで考え、裏門から一番近いのは保健室だと思い至った。

「最初は保健室、かぁ……」

「七不思議の中では軽い方だよな、汚さなきゃいいんだし」

 思わずポツリと呟くと、いつの間にか校舎のすぐそばにいた片山から返事が返ってきた。

 おい、と言ってすぐに追い付き、二人で校舎の中に入る。

「……なんか……」

「不気味だな」

 夜の校舎というのは当たり前ではあるが、暗い。

 普段の明るい校舎しか知らない僕にとって、非常灯の明かりしかないこの状況は、好奇心を引き立て、同時に恐怖をも引きずり出すものだった。

「……行こう」

 そう言って片山が先に足を進める。僕もその後に続き、ピチャピチャという足音を響かせながら歩みを進め……ピチャピチャ?

 嫌な予感がして足元を見ると、暗闇で色は判別できないが、そこには水溜まりのようなものがあった。

「げ……何でこんな所に水が……」

「どうした?」

「いや、なんか水溜まりが……あぁ、足に跳ねた……」

 そう言って手で足に付いた水を拭うと、ぬるりという感触がした。その気持ち悪い感覚に一瞬動きを止め、ズボンで手を拭く。何か異臭がしたような気がしたが、気のせいだろう。

 ポケットから携帯を取り出しライトで足元を照らすと、当然まだそこには水溜まりが広がっている。だが片山を待たせるのも悪いので、水溜まりを一気に飛び越えることにした。

「うわ!?」

 その際、多少届かず水溜まりの中に着地し、片山に水が盛大に跳ねたが、気にしない。

「じゃあ、行こうか」

「……謝るとかはないんだな……」

 ぶつくさと言う片山を完全に無視し、保健室の扉を開け放つ。

 瞬間、鼻を突く異臭。まるで鉄のような……。

「くさい……」

「あ、電気点けるぜ」

 ドアを閉めた片山がそう言うと同時に、パッと部屋が明るくなる。今まで闇に馴れていた目は光に過剰な反応を示し、目が反射的に閉じられた。

 しばらくすると視力が回復し、徐々に景色が鮮明になってくる。目に映るものは無機質な机、白い壁、白いベッド。そして――

「なんだ、あれ……」

 そのベッドの白を侵食する、赤い染み。

 それはまるで何かの液体を注がれているかのように広がり続けている。

 それを見ている時、僕も片山も所謂金縛りに襲われ、動くどころか染みから目を離すことすらできなかった。だからこそ気付けたのだろう。

 ベッドの下から這い出てくる、真っ黒に焼け焦げた腕に。

「ひ……ッ!」

 その喉から漏れた音は僕のものだったのだろうか。

 とにもかくにもその音で僕は我に返り、ドア目掛けて一目散に走った。だが、ドアの一歩手前で右足に異様な抵抗を感じ、ガクン、と体が止まる。同時にぬるりとした感触。嫌な予感がして恐る恐る右足を見ると――

「――!」

――『それ』はいた。

 最初に見えたのは、僕の足を掴む血にまみれた手。そこから徐々に視線を動かすと、同じく血にまみれた腕、肩、そして――両の眼球が無い、顔。

 恐怖が好奇心を上回った瞬間だった。

 足を掴む手をもう一方の靴で踏みつけ、ドアを破る勢いで開け、廊下へ転がり出る。あとは夢中で廊下を走り続けた。何処へ行くという目的もなく、ただ逃げるために走った。


 ようやく足を止めたのは、疲労からだった。上がる息と痛む喉を無視し、窓から外を見ると、三階らしいことが分かる。

 先程の化け物が近くにいないことを確認すると、ほっと安心の息が漏れる。それと同時にとあることに気付いた。

 片山がいない。

「……まさかさっきの奴に」

 それはない、と頭の中で否定する声。なぜ知っているかは知らないが、片山の運動神経はかなり良かったと記憶している。対して僕は中の下、という辺りだろう。その僕が逃げれて片山が逃げ遅れる道理はない。

 そこで携帯の存在を思い出した。

 急いで携帯を取り出し、片山に電話をかける。だが、何時まで経っても呼び出し音が途切れない。

 段々と不安と苛立ちが募り、電話を切ろうとしたその時、

『……もしもし』

「っ! 片山、大丈夫か!」

『あ、お前か。……そっちの方こそ大丈夫かよ。さっきの奴からは逃げられたのか? 右足掴まれてたみたいだったけど』

「よく見れたな……。先に逃げれたのか?」

『あー……そうだ。先に逃げた』

 ならば納得だ。納得なのだが……何かが引っ掛かる。

『とりあえず合流しよう。今何階にいる?』

「僕は三階の廊下に……」

『すぐ行くから待ってろ』

 直後、プツンと電話は切れた。のろりとした動きで携帯をポケットにしまう。

 動きが鈍くなっている理由は、頭の中に残っている違和感だ。何かがおかしい。だが具体的に何がおかしいのか分からない。そこに生じるジレンマに意識が割かれてしまっている。

 とりあえず考えるのをやめよう。こういうものは考えれば考えるほどドツボに填まるものだ。

 そんな微妙に達観したような結論に至った時、ちょうど近くの階段から足音が聞こえてきた。

 片山か、と思ったその時、頭の中で閃いた電光。

 気が付いてしまった。さっきの違和感の正体に。

 保健室に入った時、片山はドアを閉めた。そして、僕が保健室を出る時もドアは閉まっていたのだ。これが示すこと。それは、

「片山は、僕より先に逃げてはいなかった……?」

 仮に片山が先に逃げていたとすると、あいつは保健室のドアを開け、化け物が近くにいるにも関わらず御丁寧にもドアを閉めていったことになる。それは考えづらい……というか有り得ないだろう。

 そうなると、何で片山は先に逃げたなどと言ったのだろうか。ここまで来て、ようやく一つの結論……それもとても恐ろしい結論に辿り着いた。

 それと同時に階段から片山が姿を現す。距離は結構あるが、廊下は一直線なのですぐに見つかった。片山は手を振って駆け寄ってくる。

 それを拒絶するかのように、僕は辿り着いた結論を声に出した。

「お前は誰だッ!」

 ぴたり、と遠くに見える片山――いや、何者かの動きが止まる。それを気にせず僕はさらに叫ぶ。

「お前は片山じゃない! 誰……いや、何なんだッ!」

 髪に隠れて表情が見えなくなった何者かを凝視していると、運動をしたわけでもないのに息が上がる。心拍数が増える。

 そして、何者かが顔を上げた。

 見えたのは、ニタリと横に裂けた笑み。

 ひくっ、と僕の喉から変な音が聞こえた瞬間。

 片山の姿をした何者かはその得体の知れない笑顔のまま、両腕を滅茶苦茶に振り回しこちらに走ってきた。

「う、わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 それを見た僕は慌てて逆方向へ逃げる。先程の階段とは真逆の位置にある階段を飛ぶように(くだ)り、一階へと降りる。

 そのまま走って昇降口から外へ、と思ったが、今は夜で昇降口が閉まっていることを思い出した。慌てて裏口へと方向を変え、後ろから響く足音に怯えながら廊下を走る。

 しばらく走り、曲がり角を曲がる。その先に裏口があるので、内心で多少ほっとして……すぐさま愕然とした。

 保健室で見た化け物が、裏口の前にいた。

 それに僕は驚き、曲がり角を戻ろうとする。だが、曲がり角の先には片山の姿をした何者かがいるのだ。戻るわけにはいかない。

「どうするんだよ……!!」

 直後に僕は自分の失態を自覚した。今の声で僕の存在が化け物に気づかれたのだ。

 まずい。とにかくまずい。

 混乱した頭でこの局面をどう切り抜けるか考える。その間にも前からは化け物、後ろからは何者かが迫ってきている。時間がない。

 そして、ふと顔を上に上げると小さなボードが目に入った。そこには校長室と書かれている。

 とりあえずここに立て籠るしかないだろう。

 そう思い立って、校長室の扉を開き身体を中へ押し込んですぐに閉める。そして鍵を施錠。これで多少の時間は稼げるだろう。

「……如月、か……?」

 ビクッ! と身体が跳ねる。だがすぐにその声が聞き覚えのあるものだと気付き、振り向いた。

「片山! 無事だったのか!」

 しかしその言葉に返ってきたのは、気のない溜め息だった。

「……まだ思い出してないのか……」

「思い出して……って何をだ?」

「七不思議の七番目だよ」

 暗闇の中で、何かを持った片山が立ち上がった。それと同時に響くゴトン、という音。

「片……山……?」

「七不思議の七番目」

 頭の中に声が響く。やめろ。それ以上言うな、と。

「七不思議を全て知ってしまった者は……」

 やめろ。やめろ。やめろ。

「そいつ自身が」

 ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!!

「七不思議の一部になるんだよ」

 片山は何か――大振りの斧を持った両手を頭上に上げる。

 その時、彼の口はこう動いたように見えた。

――バイバイ。


 グチャッ。

初めましてorお久しぶりです!

剣崎シンジです!


今回は初めてのホラー!

ちゃんとホラーになっていましたでしょうか?

謎の新ジャンル開拓などになっていればそれはそれで嬉しかったりします、はい。←←


今回の話はあえて細かく語りませんでした、片山くんとか片山くんとか片山くんとか。

片山くんと片山くんの姿をした何者かの関係は、皆さんのご想像にお任せします。

考えてないわけではないです。えぇ、考えてないわけではないですとも!


とにもかくにも、読んでいただきありがとうございました♪

もうホラーは書く予定はありませんが、他のモノでもよろしくお願いいたします♪

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[良い点] 七不思議見たいな魅力的で不思議で気になる所です! [気になる点] トイレの花子さんはいるのだろうか? 学校の警備はザルなのか?! [一言] 面白くて気になります!私も七不思議大好きです!片…
[良い点] 臨場感のある表現が多く取り入れられていていいと思います
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