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婚約者が浮気相手と会っている場面を目撃したものの義理の母の怒りが凄まじくて出る幕がない

作者: リーシャ
掲載日:2026/07/31

 最近、令嬢たちの間で流行っている香水がある。モカラはスパイシーな香りが好きなのだが少し男っぽい香りだからと、人前で使うのは控えていた。好きなものを使えないのに流行りのものは使わないといけないのだ。


 男っぽい香りでも自分が好きならいいだろうと一度、婚約者の前で付けたら不機嫌に「誰か男と触れあったのか」なんて勘違いと偏見と決めつけをされ、ムッとなりそこまで言うのなら二度と彼の前で付けるものか、と苛立ちを隠して笑みを向けて「ごめんなさい」と納得してない顔をした。


 仮に男物の香水が香ったくらいで、すぐに男と会ってるなんて言うなど押し付けがましい。父の香水だとか、近くにいた使用人の香水だとか初めに身近な異性をまず思い描くのが正しい考え方。

 彼が女物の香水を香らせた時に、良い香りですねと告げるとクンっと鼻を動かしたあと「ああ、母上のなんだ」となんの罪悪感もない顔をしていたくせに。

 では、自分の場合も父のものという考えに普通は行き着くのが道理だろう。香水の店に行ったのかもしれない、試しにつけたのかもしれない。


 色々と考えうることができるはずなのになぜ、知らぬ男性限定?


 モカラに香りを指摘されたら母親と答えたことを丸々忘れてしまったなんてことはないだろう。そんなに前じゃない。それに、初回の一度だけで三度目や四度目に香ったのなら言ってしまうこともあるかもしれないが、初手だ。


 疑うのが早すぎる。初めからそうだと思い込んでいる声音で、違うと否定したところで信じてもらえなさそうな目もしていて、やけに怖かった。たかが香りで穿ち過ぎだ。


 香りを変えたら言わなくなったが、お気に入りなのに不機嫌になるからつけなくなるのは人生を損にさせられている気分になる。


 話を少し戻すが流行っている香水というのは持ち主が悲しみを感じると、甘い香りが放たれるものらしい。魔道具を作っているメーカーの新作らしく、甘い香りがするのに悲しさに反応するという恋の駆け引きに使われているとのこと。一大ブームが来ていると雑誌にもあった。


 が、自分が購入する前にふんわり香った香りの持ち主は婚約者。香る理由がわからなくて、この香りは何だと聞くと今流行りの香水だと言われ混乱した。今ここで悲しみ感じる要素がないのに、香るのはなぜだと思ったのだ。


 指摘せずに君が悪いと何も言わずに帰った。女の勘と言ったたいそうなものではないが、わざわざ婚約者と会うときに悲しみに反応する香水をつけてくる意味が、さっぱりわからない。それならば喜びだろう。


 婚約者に向けて悲しみをアピールするのは意味がないというか、口で言ってくれと思うわけで。


「お父様、少しいい?」


 父に話を聞いてもらい、父はわからないと母も呼んでどんな心理なんだと三人で意見を出し合ってみる。が、意味がわからない。

 今までそんなことを言われたこともなく、静かな面会時間で終わる。短気だなとちょっと気になる程度で、特段なにか特別なこともない。皆で首を傾げる。


 なぜ、自分たちはこんなにも悩むのかと夜寝入るときに苛立ったものの婚約者とはうまくやっていきたいから考えないわけにもいかない。気に入らない。婚約してから自分だけが我慢させられていると不意に思い出す。


 父が少し調べておくと言ってくれたので、直接問いただして逆にギクシャクとなるよりいいかなと任せはしたけど。

 それとこれとは別問題。寝付けなくなり、香水瓶を引き出しから取り出してお気に入りの好きな香りを鼻へ吸い込むとアロマの効果で自律神経が落ち着いてくれたのか、ぐっすり眠れた。


「モカラ、少しいいか」


 父に呼ばれて近寄るとあまり嬉しげではない難しい顔をしていて、悪いことだと瞬時に把握してしまう。家族の顔で大体なにかわかってしまうのも困りものだ。


「実は……」


 父から聞かされた内容は裏切りだった。小説のようなラブロマンスであり、奇抜である。こちらの立場はさながら二人を引き離す悪女なのかもしれない。


「婚約の白紙を」


「ああ」


「私も現場を見てみたいけれど」


「見て平気なのか?」


「社交界に面白ろおかしく広めるにはまず見ないと」


 目を細めて算段を浮かばせる。言い逃れできない証拠のために先ぶれなしであちらの家に行き、父は向こうの何も知らないらしい当主を誘う。


 モカラがアマジスにサプライズしたいのでという体で香水瓶を振るう。この香水は女ものの香水ゆえに婚約者もモカラも使う感じではない。

 これを唯一使うのだったら彼の母親だろうか。忌まわしい品になるだろうから捨てられてしまうだろうけど、当然の反応になるだろう。


 部屋を大きく開け放つと婚約者と見知らぬ女が抱き合っていた。情報によればアマジスの母付きの使用人で半年前から働き二ヶ月前から二人は愛を囁き合っていたみたいだ。

 彼から母親の香水が香ったのは使用人が少し使って、母親のものなのでカモフラージュになるとつけていたらしい。そんなことをしたら母親が鬼のような顔で怒り狂うと思うのは予測できるだろうに。


「なっ」


「きゃあ!」


「え……うわ、く、くさっ!」


 今日はお互い例の悲しみに反応する香水をつけていたらしく、二人のつけている香りが反応して部屋中香りが充満していく。令嬢らの控えめな香りなど可愛いほど。臭くてたまらない。用意していたセリフが飛んだ。


「う、何だこの臭さは!」


「ぐっ……悲劇の恋人ごっこもここまで匂うとなると……うっ」


 父も彼の父も香りにウッとなっている。違う香りを纏っているらしく、ブレンドされて酷い香りになっている。芳醇な香りがまるで動物の骨に似た油っぽさになっていた。


 父たちもモカラも部屋の外へ行き、中に近寄らないように離れた。中に入って二人の不貞をバシッと決める予定だったのに鼻に多大なるダメージを負ってしまい、息をするのも辛い。


 アマジスは後から聞いた話しになるが、母親の香水と反応する香水両方をつけており、そのせいで香りが悪化してしまったみたいだ。素人が何も考えずに香水を重ねがけして災害を起こすなんて。


 のちに来た彼の母親は使用人だった浮気相手の香りを嗅ぎ取り、青筋を浮かべて今にも殺しそうな顔で睨みつけた。自分の好きな香りを婚約者でもないのに付け、息子と会いカモフラージュにされれば誰だってキレる。


「婚約者ではない女と抱き合っていただなんて穢らわしいわ」


 母親から移ったと言い訳できるようにされていたと知り、人目がなければ殴りつけていただろう。


「母上、彼女は私の大切な女性で」


「親に紹介できない女にしているあなたが、今更なにを殊勝に言うの?恥を知りなさい!わたくしの香水を無断で使う泥棒など、それ以前の問題だわ……よくも……この香水は旦那様との思い出のものなのに……!小娘がっ」


 よりにもよって大切にしていた思い出の香水に手を出したのか。いくら息子でも許されないな。


「香水程度、また父上と作ればいいのではありませんか!?彼女を追い出すなどやめてくだ、ぐはっ!?」


 ついに張り倒された子息は母親を見上げて顔に手を当てている。頬は赤黒く腫れていて痛々しい。ああ、同情ではなく単なる観察だ。


「この香水メーカーはもう生産してないのよ!?またなんてないわ!ちょっとずつ使ってなくならないようにしていたのに、お前はそれを何度無駄に付けたの?わたくしの大切にしているものを雑に扱うなど、お前などもう息子でも何でもないわ!」


 怒りに狂う母親、殴られてへたっている息子、愛する男に近寄ることなく端で震える使用人の浮気女。無言で空気になっている父親当主。


 モカラと父はそれをじっくり眺めながら、婚約白紙という相手有責の書類をテーブルへ乗せた。空気になっていて手持ち無沙汰な男がそれを見てこちらをパッと見上げる。


 なぜこんなものがと言いそうな顔つきをしているが、今この場でそれを言えるのか?修羅場だろうとうちには関係ない。こちらはそちらと縁を切るだけだ。


「ま、待ってくれ……確かにうちの息子は使用人と若気の至りをやってしまっているが、言い聞かせるので待ってほしい」


「無理ですな」


「臭いんです。会うたびにあなたの息子臭いなぁって。あと、友人に会ったら今回のこと全て話しますよ」


「えっ?話す?」


「そうです。抱き合ってた二人が香水臭い部屋の中で平気でいたんだって。鼻が壊れちゃってるって面白おかしく話します」


 淡々と会話を続けていると彼の父親は顔色をさらに悪くして、ソファに深くもたげる。醜態のみではなく、母親の貴重な香水を無断で使いカモフラージュに使用していた卑怯な真似まで、赤裸々に社交界でぶちまけるつもりでいる。


 これはどんな結果になろうというつもりでいる。好きなスパイシーな香水をどの口が言ってたんだ、という過去を思い出す発言をされて、普段使用を無言の非難でやられた仕返しだ。

 こちらへ男のそばに居たのかと、本当になぜ言えたのか謎だ。自分がそれをしていたからこそ、モカラもそれをしているのかもしれないと思ったのだとしたら同じ真似をしていると思い込むのだろう。


 実は香水が香るほど抱きしめていた婚約者は、さすがに実感がこもっていたという話だ。母親の香水と言っていたときからすでに使用人と男女の関係になっていたのは、言わずもがな。


 特別な香水なので高いのだろう。使用人には手が出せないほどの。当主の妻の香水を無断で振りかけて、盗んだことに該当するので罰はかなり厳しそうだ。クビになるだけではなく、うちから慰謝料も請求されるだろうし身を落とすしかなくなるだろうな。

 モカラには預かり知らぬことだが。母親付きが息子に手を出したというだけで母親の怒りを買うだろうし。


 こちらの絶対に何が何でも婚約をなかったことにする態度に、相手は話し合いの間はないとわかったのだろう。落ち込みながら慰謝料や契約もろとも話をまとめてサインをした。


 彼は怒られている間に婚約が無かったことになっていたと後から知るだろう。かと言って使用人と結婚なんて許してもらえないだろうな。それどころか、自由な時間もなくなるだろうし。


 当主候補なので抜け落ちることはそうそうないが、愛人も許さないとなるし婚約相手も厳しい相手になるか妥協する相手になるだろう。


 父と共に屋敷を出るとさっさと家に帰ってよかったねと言い合い祝杯をあげた。好きな香水を今後気兼ねなく付けられる。それが一番嬉しい。


 後日、元婚約者に再婚約の相手が来たが相手は彼より二十歳も上の女性。母親が父親に勘当しろと詰め寄り後継者を失くされるのは困ると説得した後、母親が募集した中で仕事ができればいいと年上の仕事をやりたい相手を決めた。

 浮気女はとっくにクビにされて領地から追放を受けて、遠い地に行けと追い立てられて行方不明だ。屋敷に置く理由はないから当たり前だ。女主人の私物を勝手に使った犯罪者として一度逮捕させているので、生きるのは大変になるだろう。


 母親の怒りは強い。人の大切な香りを軽視した末路だ。モカラの好きなものも否定して受け入れることははなからなかった男なので、意見が受け入れられなくてやっと少しは人の気持ちが理解できているといい。


 それも同情ではなくただの意見の一つなので、彼が反省したかなんて興味はない。自由が許されていた幸運を嘆いている頃だろうが。

 せめて、モカラに誠実であれば香水に興味がなくても許せたんだけど、あそこまで見下していたら浮気の前にこちらから別れを選んでいただろう。


 今日もお気に入りのスパイシーな香水が量を減らしたので香水瓶を買いに、アロマストアへ足を運びに向かうと男性用のお店だからか若い男が一人佇んでいた。邪魔にならないように静かに移動して目当ての香水を見つけると手に取る。


「すみません、令嬢、少しよろしいか」


 硬い言葉を使う男はこちらを見ていた。話しかけられて横を見ると香水を指差して「私も選びたいのだが、テスターをした時と吹きかけた時の差がかなりあって、迷っている」と言われる。


「そうなのですか。あなた本人がお使いに?」


「ええ。好んでいるものは少し甘みがあって……もっと甘めの香りが好みなのですがね……女っぽいような。お嬢さんが好みそうな」


「そうでしょうか?私はこれを普段使いしてるんですよ」


「それを?スパイシーでウッディ系ですね。ドレスから香ったら見つめてしまいそうだ」


「ふふ。今もつけております」


 嫌な笑みではなく、仲間を見つけたような瞳で話しかけてくる。甘めが好きなのだということは、自分とは好みが真逆だ。


「女らしい香りを男性がつけてもいいと思いますけれどね」


「しかし、女の影がちらついて変な誤解を受けるやもと」


「私も誤解を受けたことがありますが、実際に女ものを香らせていた方だったと後から知ってしまいましてね……そんな人と同列にされたくはないと思っていました。結局、香りなんて当てにならないんですよ」


 男物の香水をつける女はなにもなく、女物の香水を身内のものと偽った男には女がいた。


「私はこの香りが好きです。あなたもつけてよろしいかと思います」


「しかし、女物の香水の店は入りにくくて」


 ハイブランドの靴やスーツを身につけているのに中身は可愛い人だと笑顔を見て少し思った。女性香水ブランドの店はすぐ近くにある。


「よろしければ私も一緒に入ってもかまいませんよ」


「え、ありがたいことですがよろしいのですか?」


「私のものを探すふりをして思う存分買ってしまえばいいのです」


 頷いて香水を購入すると二人は何軒か先にある女性の香水専門店へ梯子して、男は照れながらも嬉しそうにたくさん手に取り、モカラの意見も交えて購入していった。


 香水をこんなに楽しげに買う男性も珍しく、女がいるので目立つことなく買い上げると馬車へ向かう。


「お付き合い頂きありがとうございました」


 貴公子はホクホク顔で礼を言い、指先にキスをした。ふわりと漂うのは好きだと言っていた甘めな香り。鼻を動かした瞬間、凄くいい香りだと初めての感覚に胸がことり、と音を出した。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。香水は調節が難しいですよね。今回は「お前が言うな」案件です。

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― 新着の感想 ―
香水に注目した作品なんですが、全体的に読みにくく、何種類の香水が出てきて、どの香水つけてたのかが、よくわからなかったです。
お気に入りの香水を 勝手に(身勝手な浮気の為に)使用するなんて最低ですね! ご夫人が不憫です。 それも『旦那様との思い出の香り』を穢すなんて…。 香水は結構、廃盤多いから探していたのがもう無いなん…
面白かった。 > 色々と考えうることができるはずなのになぜ、知らぬ男性限定? バカが自分がやらかしてるから婚約者も……と疑い深めた部分はあるけど、 ちょっとお嬢のパパが近すぎるのかもしれない。 貴族物…
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