1.私の普通の日常
※「M法少女カレン」という作品の続編的作品です。そっちを読んだ後じゃないと何もわからないので気をつけて!
魔法少女は実在する。誰が何と言おうとこの世界には魔法少女が存在する。
何と戦っているとか、何のために戦っているとか、世界を救うためとか、誰かを守るためとか、謎のイケメンボーイとミーツなガールをする為とか、そういう崇高な理由は無しに魔法少女は実在している。
胸を張って言える。社会での信用が無くなるから実際に声に出しては言わないけれど、それでも自信を持って言える。
この世界には魔法少女がいると。私の知る限り、三人くらい。
「……ふふふ。まるで物語の始まりみたいだね、この独白。かっこいいと思う……うん……カッコいいと思う」
そんな風に私は、口に出すことなく、自分だけが知っている世界の秘密を呟いていた。
この優位性、特異性。社会を生きる一般人や、まだ成長途中の学生、そして世の中を支えるたくさんの偉い人たちは得られていないんだろうなぁ。そう思うと自分が特別な人間のような気がして、自然と肯定感が上がり、顕示欲を抑えきれなくなる。
顕示欲は流石に必死になって抑えてはいるけれど。だって実際、良い年した大人が突然魔法少女は居るよこの世界に居るよとか言ったら、社会及び社内での人権が無くなってしまうから。
顕示欲に負けて己の人生を壊してめちゃくちゃになって詰んでしまう愚かな人間とは私、違うのだ。多分、多分ね。
「……ハルカ、もう起きてたんだ。休みの日なのに早いね」
「お、おはよーカレン」
リビングで椅子に座りながら、先の自己陶酔独白に酔うためにコーヒー片手に庭を眺めていた私に、同棲している若井カレンが話しかけてきた。
若井カレン。私の最高の友達、一番の親友、大好きな人。そして何を隠そう──独白で隠す必要無いしね──彼女こそが、前述した魔法少女その人なのだ。
なんかこう、色々あって世界を色々アレした彼女は今、魔法少女としての活動は控えて、普通の一般人として暮らしている。私と一緒にね。
私と一緒に。ここ、すごく重要。
「そういえばアーちゃんは?」
「アムルちゃんなら……まだ私のベッドで寝てると思う」
「アーちゃん……休みだと起きるの遅いよねぇ」
「カレンさん! おはようございます!」
と。私たちが話題に出すと同時に、下着姿のアーちゃんが勢いよく階段を降りて走りながら、リビングに飛び込んできた。
アーちゃんはリビングに飛び込むと同時に床を勢いよく蹴り、私の隣に立つカレンへと力強く抱きつく。
思いっきり抱きつかれたカレンは抵抗する事なく彼女の強すぎる抱きつきを受け入れ、全身をグラグラと揺らしながら倒れそうになっていた。
「アーちゃんもおはよー!」
「あ……おはようございますハルカさん……」
「え……露骨に態度違くない……?」
「だって……眠いんですもん……」
アーちゃん。若井アムル──本名はアムル・エメ・ジェメレンレカ・ジテム・ジタドール・ヴゼムジュビアン・ラフォリアムテージュ・アドレっていうめちゃくちゃ長い名前──ちゃん。彼女も私たちと同棲している。そして何を隠そう──私の独白だから隠しても意味ないからね。大事なことなので二回言う事にした──彼女も何と驚き、魔法少女なのだ。
そしてアーちゃんはこの世界で一番、カレンの事が好き。私の方が多分好き好き力は勝っているけれど、とりあえずアーちゃんがこの世界で一番好きなのはカレンだ。だからカレンには露骨にデレデレして、カレン以外には露骨に塩対応をしてくる。
ちなみに、人によって変える態度は大好きなカレンの前でも隠すことはなく、特別カレンに媚を売っていると言うわけではなくて、それがアーちゃんの素なのだと、長年一緒にいる私は知っている。
要するにアーちゃんはカレンが好きすぎるのだ。病的に。まあ、私の愛の方が勝ってはいると思うけど。
あと彼女は同担拒否だから、私が目の前でカレンとイチャつくとめちゃくちゃ怒る。
「カレンさんカレンさん! 今日はデートしません!? 学校も会社も休みなのは土日だけ! 貴重なんですよ一週間のうちの二日って! 七日のうちの二日って! だからこそ遊ぶべきなんですカレンさん! 遊びに行きましょう!」
「え……やだ……休みの日まで外に行きたくない……」
「休みの日まで遊びに行けない方が私は嫌です」
「……ハルカ、助けて」
「あはは……行ってあげればいいじゃん?」
「ほら! ハルカさんだってこう言ってます! 行きましょうカレンさん! ゴーゴー!」
「やだぁ……」
引きずられていくカレンと、引きずっていくアーちゃんを見ながら、私はつい笑ってしまう。
あの子達は魔法少女だ。普通の私と違って魔法が使える。ビームを撃つ時があれば空を飛ぶ時もあるし、なんかこう、魔法陣を出して何かをする時もある。
間違いなく特別な存在。人類全体が魔法少女だったのならば寧ろ無個性である私が特別な人間だったけど、そうではないのであの子たちが特別な存在。私にとって大切な、とっても特別な存在。
それは魔法少女だから、というわけではなくて。単純に友達として、親友として、大好きな人として、同居人として、これからも一緒に暮らしていきたい人として。
詳細は省くけれど、彼女達のような特別な人間と、ごく普通の関係になれたのは私、とてと運が良かったと思っている。立場とか立ち位置とか持っている力とか利害関係とか抜きに、本当の本当に仲の良い大好きな人として関係を持てたのは、本当に嬉しいと思っている。
(まあ正直私たち……仲良しすぎて共依存の関係にあると思うからちょっとだけ……危険な関係だけどね)
カレンとアーちゃんがリビングを出ていったと同時に、ほんの少しだけ浮かんだ私たちの関係のよくないところにため息をつき、私は手に持つコーヒーを一口飲む。
苦いけど味のある素敵なコーヒー。まるで、人生みたいだ。なんて、この世で何百回も言われたであろうテンプレポエムを脳内で呟きながら私は──
(今日は……今日も……カレン達と一緒か)
当たり前のことを呟きながら、自然と上がる口角に少し恥じらいを覚えながら、それら全てを誤魔化すように、コーヒーをもう一口、ゆっくりと飲み込んだ。




