兄の魂胆①
『魔法』って、儚くて、美しくて、その一瞬を以てめいいっぱい輝く。
わたくしはずっと、それに憧れていた。
だから、もし、それを手に入れたら、思わず駆け出さずにはいられないだろう。
聖王女。
それは人々を癒し、導く存在である。
そして、天使ザナフェルに仕える存在である。
大陸で三番目の国土を有し、天使ザナフェル様を敬う神聖国家。
ネーア王国は信仰に厚い国だ。
生まれた時に聖王女としての託宣を受けた、ネーア王国の第三子、リリアーナ王女。
だが、聖王女であるはずのリリアーナは魔法が全く使えなかった。
「魔法が使えないだと!? 聖王女としてあり得ない!」
「ネーア王国の品格に関わる!」
そのせいで、一部の王族の者達から度々、不興を買っていた。
魔法と伝統を重んじるネーア王国の王家は、天使の啓示を名目に、リリアーナに魔法学を習わせた。
いずれ起こりうる、世界の命運がかかった『天使覚醒』の日のために。
「リリアーナ……。厳しいことも辛いこともあるだろう。それでも、ザナフェル様のために耐えなさい」
「はい」
父親の国王の言葉を心の支えに、リリアーナは日々、聖王女になるために邁進してきた。
しかし、魔法の仕組みや魔力の流れを理解して、呪文を暗記しても、彼女は一向に魔法が使えないままだった。
「このままじゃ、だめだわ……。何がなんでも、魔法を使えるようにならないといけない。聖王女として、ふさわしい存在にならないといけないのに……」
だが、ある日、リリアーナに転機が訪れる。
それは嵐のように突然、しかし、あまりに静かにやってきたのだ。
「ん……」
どこか冷たい微睡みの中で、俺の意識はゆっくりと浮上した。
知らない天井、ここはどこだろうか。
「ああ! ついに目覚めたか……!」
「えっ……?」
まだ、ぼんやりとする意識の中、俺は目の前の男性へ問いかけるものの。
高貴な雰囲気の男性を前にして、思わずたじろぐ。
だが、俺の疑問には答えずに、男性は続けた。
「天使ザナフェル様。よく呼び出しに応じてくれた。私はネーア王国の国王、レテイス・クレイ・ネーアだ」
「ネーア王国の国王……!?」
恍惚とした様子の男性――ネーア王国の国王様が発した言葉に、俺は思わず、表情をゆがめてしまう。
「リリアーナ。ついに、おまえが聖王女としての責務を果たせる時がきた。ただちに、神聖魔法で結界を張る準備をするように」
「ーー結界!!」
国王様が放った直言を、丁重に受け止めることができなかった。
その理由は――。
「……って、何で俺、こんなところにいるんだ?」
言われたのが、リリアーナ王女ではなく、俺、ライル・フェインだったからだ。
……というか、何が起きたんだ?
ギルドで、公爵家からの演奏依頼を受けた後。
そのまま、宿に泊まって寝たはずなのに、気がついたら何故か、王宮に……!?




