スローライフを目指して④
「まあ、この状況を何とかできるのは、ザナフェル様くらいだろう」
うぐっ……。
正論を叩きつけられた気分で、何も言えなくなる。
俺だって、何とか、この状況を切り抜けたい。
でも、ミカエル兄様の弟溺愛ぷりは半端じゃない。
魔力検査をしのいでも、ありとあらゆる手段を使って、俺を探し出そうとするだろう。
八方塞がりな状況の中、痛いほどの沈黙だけが落ちる。
「……こんな依頼もあるんですね」
そんな中、一枚の依頼書を母さんは指差す。
それは、ネーア王国以外の依頼に混じって、残っていた依頼の一つ。
俺たちに関係ある依頼だったこともあって、母さんの目を惹いていた。
「演奏の依頼、か。もしかして、あんた、吟遊詩人か?」
「はい。ネーア王国の街々を転々と渡り歩いています」
黒髪の青年の質問に、母さんはぺこりと頭を下げる。
母さんはいつも、街の広場で、自身の歌声を生かして生計を立てていた。
そして、俺は母さんの歌に合わせて、ハープを奏でるのが日課だ。
「私たち、この依頼を受けてみます」
今日、明日に天使騒動が収まるとは思えないし、母さんは今、できることをすることにしたのだろう。
依頼をこなして、ネーア王国の人たちとの繋がりを広げる。
そうすることで、ネーア王国から出る方法を見出だす。
これがきっと今、俺たちにできる最善だろう。
「公爵家からの演奏依頼。それにするのか。オレも、それが良いと思うぜ」
黒髪の青年はそう言って破顔する。
依頼書には、冒険者しか受けられないものと、それ以外のものの二種類に分かれている。
これまでの実績を重視する討伐といった依頼には、冒険者のみという制限が設けられることが多い。
ただ、俺と母さんは冒険者ではない。
だから、冒険者限定という制限付きの依頼を受けることができない。
その点、制限なしの依頼の場合、すぐに受理してもらえる。
「オレはローゼン。Aランクパーティー、『ドミニカ』のリーダーだ。ここで冒険者をやっている」
「Aランク……」
「このギルドじゃ、そんなに大したことねえよ」
俺が驚いていると、ローゼンさんはそう言って破顔する。
「いつまでネーア王国に滞在してんのかは知らねえけど、基本的にオレはギルドでぶらついているから、困った時は気軽に話しかけてくれよ」
それだけを告げて、ローゼンさんは俺たちのもとを後にした。




