スローライフを目指して③
「そりゃあ、オレらの食い扶持はギルドだけだからな。天使様が覚醒したからって活動を辞めてちゃ、食いっぱぐれちまうだろう?」
俺の独り言を聞き留めたのだろう。
聞きなれない声に、俺は反射的に振り返る。
背後にいたのは冒険者らしき黒髪の青年だった。
この人は一体?
俺たちが唖然としていると、黒髪の青年が軽やかな口調で尋ねてきた。
「さっきからギルドの中を歩き回っているけれど、もしかして何かを探してんのかい?」
初めて訪れたギルドだったので、ギルド内をぐるぐると歩き回る羽目になっていた。
この黒髪の青年は、そんな俺たちを見かねて話しかけてくれた、ということなのだろう。
「依頼を出したいんです。どこで出せばいいか、ご存じないですか?」
母さんが尋ねると、青髪の青年は俺たちから見て斜め後ろに位置する場所を指さした。
「あそこの受付で、依頼を出せるぜ。……とは言っても、ネーア王国以外の依頼だと、今は中々引き受けてくれる奴がいないだろうけどな」
その理由に、俺ははたと思い至る。
「もしかしなくても、天使様が覚醒したことが原因……?」
「ああ。魔力検査という名の検問のせいで、容易に国の外に出られなくなっている。だから、国外の依頼は、これまで以上に受ける人間が少ないってこった」
そう言って、青年が指さしたのは、大きな掲示板のようなものだった。
早足で向かってみると、そこには彼の言うとおり、ネーア王国以外の国に関する依頼がずらりと残っていた。
「だから、ネーア王国以外の依頼なら、天使様騒動が落ち着くまでは待った方が良いかもな。少なくとも、好き好んで国外に行く奴はそうそういねえだろうぜ」
黒髪の彼はそう言葉を締め括った。
「……でも、天使様騒動が落ち着く目処は立っていないんだろう?」
「まぁ、な」
俺の指摘はもっともだったらしく、黒髪の彼はばつが悪そうに目線を逸らした。
肝心のザナフェルの生まれ変わりである俺はここにいるし、王宮に行くつもりもない。
ただ、ミカエル兄様も、俺の捜索を諦めることはないだろう。
俺が見つかるまでは、この魔力検査という名の検問を続いていくはずだ。
「あの……。私たち、魔力検査を受けずに、ネーア王国から出たいんです。その方法ってありませんか?」
「魔力検査を受けずに……難題だな」
母さんの問いかけに、黒髪の青年は頭を悩ます。
「さすがに、ミカエル様の目を逃れる方法なんて、オレたち人間には持ち合わせてねえよ」
にこやかな笑みを浮かべたまま、黒髪の青年は俺たちの目論見をきれいに一刀両断した。




