スローライフを謳歌したい⑤
俺が目配りすると、母さんは小さくうなずいた。
少し間を置いた後、街の広場で始まったのは小さな演奏会――。
母さんが口ずさむ歌声に合わせて、俺はハープで主旋律を置いて行く。
ハープは多彩な音域と豊かな音色を活かして、主旋律を奏でることができる。
母さんの歌声はどこまでも柔らかい。
俺はそれに聞き苦しくない、綺麗な高音で感情をこめて主線に乗せた。
俺たち家族が互いを支え合うように、身をすり寄せては奏でられる響きを。
最後の旋律を弾き終えた俺は、ゆっくりと指をたたむ。
そうして、俺たちの響き合うような演奏が終わりを告げる。
俺たちが一礼したその瞬間、拍手が降り注いだ。
演奏に応える万雷の拍手が、俺たちの演奏に寄せられていた期待を示しているようだった。
「相変わらず、おまえらの演奏は人を惹きつけるな」
「ありがとうございます」
ローゼンさんの称賛。
それがただただ嬉しくて、俺は深く頭を下げた。
「ローゼンさん、演奏を聞いてくれてありがとうございます。依頼、頑張ってください」
「こっちこそ、ありがとうな。じゃあ、オレは行くけれど、また、何かあったら、声をかけてくれよ」
それだけ告げて、今度こそ、ローゼンさんは俺たちのもとを後にした。
ローゼンさんと別れた後、母さんと並んで街の通りを歩いていた。
人目のない場所で、浄化魔法を使おうと思ったからだ。
瘴気をすべて祓わないと!
そう意気込んで街中を歩き回っていたんだけど、肝心の『人目のない場所』が見当たらない。
領都は、どこもかしこも人で溢れていた。
市場は混んでいて、お店を集中して見ていると迷子になりそうなくらいだった。
仕方ないので、先にルリア様へのお土産を買うことにした。
「あ……!」
しばらく歩いていると、美味しそうな焼き菓子の店が俺の視界に映り込む。
「焼き菓子、いいな」
実際にお土産として持って帰るのは厳しいけれど、魔法を使えば、問題ないはずだ。
『マジックルーム』は空間魔法の一つ。
術者しか見えない異空間に、物質を出し入れできる。
いわゆる、空間収納。
食材なども長期保存できるから、食べ物が腐ることもない。
焼き菓子を買って数分後。
「母さん、そろそろ休もうか」
「そうね。屋台で、何かを買って休憩しましょう」
俺の言葉に、母さんは穏やかに微笑んだ。
お昼にはまだ早いけど、朝早く出てきたからか、お腹は少し減っている。
結構、歩き回ったのもあって、少し足も疲れてきた。
一旦、広場に戻ると。
「確か、この辺りに、蜂蜜を使ったお菓子があったよな」
俺は母さんと一緒に、気になっていた屋台に行った。




