スローライフを謳歌したい②
「おおっ! 吟遊詩人様たちだ!」
さらに俺たちを見て、騎士さんたちが恍惚とした表情で声を震わせてくる。
創造魔法で創った『隠蔽魔法の強化版』のおかげで、周りの人たちに、俺の力がバレることはないんだけど。
その代わりに、『奇跡の演奏』だと言われて、多くの人たちに称えられている。
のんびり街を散策したいのに、どこに行っても注目の的だ。
「もう、こうなったら、演奏の時に浄化魔法を使うしか……!」
「私たちの演奏の話題で、もちきりになりそうね」
投げやりな俺のつぶやきに、母さんが穏やかに推察した。
確かに演奏と同時に、瘴気をすべて祓ったら、周囲の人たちの態度はさらに一変するだろう。
「はあっ……。どう転んでも、注目されてしまう未来しかないみたいだ……」
俺はがっくりと悲しげにため息をついた。
母さんとともに、これからも街々を転々としたり、ルリア様が待っている屋敷でゆったりして、今世はのんびりスローライフを満喫したい。
だが、ここに来た時点で、俺の平穏な日々は厳しくなってしまったみたいだ。
いつの間にか、慌ただしい日々を送る羽目になっている。
「はあ……。疲れた……」
与えられた自室にある机の上に突っ伏し、盛大に溜息を吐く。
今日は冒険者さんたちが、リンクス領周辺の調査に向かうことになっていた。
それぞれの班が出発する前に、演奏会を開いて、それぞれに支援魔法をかけてきた。
天使の力の影響なのだろうか。
今のところ、負傷者はほとんど出ていないらしい。
しかも、調査が順調に進んでいるからなのか。
予定よりも早く、森の調査が開始されるようだ。
何だか、この一件以来、俺たちの身の回りが一変したような……。
うーん。
もし、このまま演奏を続けたら、一般人だと言い張るのは厳しくなるかもしれない。
それでも、大切な人たちが苦しまない未来を作りたいと願う。
『ライルせんせい、アイリスさま』
ルリア様の笑顔が、脳裏にぱあっと花開く。
『おでかけしてもかならず、もどってきてください』
ルリア様たちが、俺たちの帰りを心待ちにしている。
早く帰りたいと思う。
でも、肝心のダナー商会の足跡はまだ、つかめていない。
これ以上、アナスタシア様とルリア様が苦しまなくていいように。
俺たちがやれることを精一杯、やっていくしかない。
そう思っていると、ノックの音が聞こえた。
「ライルくん、アイリス様、いるかい?」
「はい」
部屋をノックするスタン様に、背筋を伸ばした俺はそう返事した。
やがて、スタン様が部屋に入ってくる。
「ライルくん、アイリス様、ありがとう。君たちのおかげで、調査は順調に進んでいる」
調査を報告してきたスタン様は感銘を受けていた。
俺たちの演奏のおかげで、想像以上の成果を、冒険者さんたちが上げているからだろう。




