スローライフを謳歌したい①
それにしても、先行して森に向かった冒険者さんたちの何人かが、撤退に追い込まれたのか。
『マジックルーム』は空間魔法の一つ。
ポーションやマジックポーションなど、サポートに必要になりそうなものを、こっそり持ってきている。
演奏の力で、みんなをバックアップした後、回復役に回る人たちにポーションなどを渡しておいた方がいいかもしれない。
まあ、もっとも、瘴気をすべて祓うことができれば、魔物はこれ以上、増加しなくなる。
あとは残った魔物をすべて倒せば、この地は安全になるはずだ。
「ライルくん、アイリス様。私は、ダナー商会を許せない。頼む、私たちに力を貸してくれないか?」
スタン様の再度の懇願に、俺たちの心は決まっていた。
「分かりました」
「できる限りのことをさせていただきます」
俺の決意に奮い立ったように、母さんは丁重に一礼する。
話の区切りが付いたところで、今後の話は終わった。
スタン様と話した翌日、リンクス領周辺の調査が開始されることになった。
「ライル、無理はしないでね」
「……うん。母さん、ありがとう」
心配そうに気遣う母さんの言葉に同調するように、俺はうなずいた。
出発前に始まったのは、小さな演奏会――。
まずは偵察のために、領都周辺を回ることになった騎士さんたちに対して演奏会を開く。
演奏の音色に混じって、支援魔法をこっそりと使った。
強化や抵抗、魔よけの効果を施す。
やり過ぎないように、ほどほどに。
それでも、偵察に向かった騎士さんたちは無傷で帰還して周囲を驚かせた。
「すごいな」
スタン様が驚きを口にすると。
「それが不思議なことなんですが、魔物がほとんど出てこなかったんです。それにいつもより、身体がよく動いたような気がして……」
偵察に向かった騎士さんの一人が声を発する。
「おまえもか。俺も、身体が軽く感じたんだ」
「あなたもですか?」
「どうしてだろうな」
「もしかして、出発前に聞いた、あの演奏のおかげかもしれません」
騎士さんたちが口々に見解を述べた結果、俺たちの演奏のおかげではないかと結論に至った。
だから……だろうか。
それから、俺たちの周りは少しだけ騒がしくなった。
仕方がないといえば、仕方がないのかもしれない。
特別な演奏の力を遺憾なく、発揮してしまったのだから。
「うーん。そろそろ、街に行って、浄化魔法を使いたいんだけど……」
「今、使ったら、大騒ぎになりそうね」
俺と母さんが廊下を歩けば、すれ違う人たちは脇に避けて、頭を下げてくるのだ。




