新たな地へ⑦
『マジックルーム』は空間魔法の一つ。
術者しか見えない異空間に、物質を出し入れできる。
ポーションやマジックポーションなど、サポートに必要になりそうなものをこっそり持ってきた。
部屋でしばらく整理していると、ドアをノックする音が聞こえた。
俺は慌てて、異空間に戻す。
「失礼します」
ドアをノックしたのは先程の侍女さんだった。
ただ、用向きはヴァイル様との面会ではなく、ヴァイル様たちとの晩餐へのご招待だった。
てっきり、面会だと思っていたので驚きだ。
しかも、晩餐に出席するために、俺たちは正装することになった。
さすがに晩餐ともなると、このままの格好ではダメらしい。
全ての準備が整った後、ドレス姿の母さんとともに晩餐の席に向かう。
「それでは、皆様のご到着を祝して。今日の出会いに感謝を。ようこそ、リンクス領へ」
一同が揃うと、ヴァイル様の言葉で食事が始まる。
供されたのは、リンクス領の特産品を使った料理だ。
「わあ……。すごい」
「お気に召されましたか?」
歓喜に満ちた俺を見て、領主夫人が声をかけてきた。
「トマトが使われているんですね」
「ええ。我が領地ではトマトの栽培が盛んで、いろいろな料理をお作りしていますのよ」
トマトが使われた料理が何種類かあったので口にすると、領主夫人がにこやかに微笑みながら教えてくれた。
料理に使われているトマトは、それぞれ品質が異なっていたようだけど、全てリンクス領で作られた物らしい。
「こちらの白ワインも飲みやすいですね。とても美味しいです」
「それは良かったです。そちらのワインも、我が領で作られている物ですわ」
母さんが飲んだのは白ワイン。
リンクス領には、いろいろな特産品があるんだな。
他にも蜂蜜があるらしいけれど、今は魔物の影響で厳しいみたいだ。
蜂蜜を使った料理か。
滞在中に一度は食べてみたいけど、蜂蜜を採取できないからちょっと難しそうだ。
その後もリンクス領に関する、いろいろな話を聞きながら、晩餐会は和やかな雰囲気で進んだ。
晩餐会の翌日、スタン様から、今回の森の調査についての話を聞いた。
魔物が増えている場所は領内にある、とある森らしい。
森は領都からは離れた場所にあり、移動には数日掛かる見込みだ。
「ライルくん、アイリス様。出発前に、みんなの士気が上がるように、演奏をお願いしたい」
俺が真剣な眼差しで聞いていると、スタン様が厳かな口調で言った。
俺たちは街でお留守番だけど、その前に演奏会を開いて、みんなを支援することになっていた。
演奏に混じって、支援魔法を使うつもりだけど、迂闊に使うと俺の力がバレる可能性がある。
だから、創造魔法を使って、新しい魔法を創っておいた。
名付けて、絶対に誰にも気づかれない、究極の隠蔽魔法。
まあ、それでもミカエル兄様にはバレるだろうけれど。
ミカエル兄様の弟溺愛ぷりは半端じゃない。




