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新たな地へ①

スタン様の申し出を了承した後、夕食の席でルリア様から思わぬ懇願をされてしまった。


「おねがい! ライルせんせい、アイリスさま、どこにもいかないで!」

「えっ……?」


ジオさんにちらりと視線を投げると、意図を汲んでくれたのか、咳払いをして気まずそうに説明してくれた。


「大変、申し訳ございません。どうやら、ルリア様はお二人がいなくなってしまうと思われたようで……」

「…………」


言葉を飲み込み、ただ見つめた。

ルリア様の目尻からは、涙がこぼれて頬を伝う。

スタン様の申し出を受けた。

それは遠征で、屋敷を空けることが多くなるということだ。

肝心のダナー商会はもう、この国にはいないのだから。


「さびしいです……。ずっとはなれたくないです」


何気なく口にしたルリア様の言葉に思わず、寂しさが募った。

しばらく、ルリア様のそばから離れると思えば思うほどにもどかしさもまた募る。

次はいつ会えるだろう。

まだまだ、先のことだろうか。

寂寥感が増して、どうしようもない不安に駆られることになるのだろう。

だからこそ、ルリア様の想いが痛いほど身に染みた。

それでも、行く必要がある。

これ以上、アナスタシア様とルリア様が苦しまなくていいように。


「大丈夫です。お出かけしても、すぐに戻ります」

「……すぐに?」


俺が噛みしめるように告げると、ルリア様はおそるおそる顔を上げた。


「ほんと……?」

「はい。ルリア様は初めてお会いした時、俺を必要だと言ってくださいました。だから、俺たちの帰る場所はここです」


ルリア様のつぶやきに、俺は少し気恥ずかしそうにする。

母さんもまた、同じことを思っていたのだろうか。


「ルリア様。私たちの帰る場所はここですよ」


母さんはそう言って穏やかに微笑んだ。


「かえるばしょ……。ライルせんせい、アイリスさま。おでかけしてもかならず、もどってきてください」


何気なく口にしたルリア様の言葉にほんの少し、また寂しさが募った。

しかし、それ以上に満ち足りた。


「……はい、もちろんです。俺たちの帰る場所はここですから」

「……うん!」


俺の揺るがない決意に、ルリア様は大きくうなずいた。

これから向かう遠征先は恐らく、危険な場所だ。

ルリア様を連れて行くことはできない。

それでも、この得難い時間を大切に思う。

ルリア様と時をともにすることができる、その幸運を噛みしめる。


『グランジ公爵家からの演奏依頼』


この満ち満ちる幸せもきっと、あの依頼があったからこそだ。

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