それでも懐かしい記憶⑧
「もちろんだ。君たちは、妻と娘の命を救ってくれた命の恩人なのだから」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言うと、肝心の本題に入る。
「あと、もう一つだけ。できれば、ダナー商会のことを教えてもらえませんか?」
「ダナー商会……」
俺の必死の問いかけに、スタン様は怪訝な表情を浮かべた。
「どうして、君がダナー商会のことを知っているんだ?」
「それは……」
確かに、子供の俺がダナー商会のことを気にかけるのは変だろう。
訝しげな眼差しが居心地悪い。
言葉を詰まらせていると、母さんが助け船を出してくれた。
「アナスタシア様からお伺いしました。五年前、行商が魔物に襲われて、この街の物流が滞っていたと……」
「ええ。その時に、ダナー商会のことを話したのよ」
母さんの言葉に、アナスタシア様が付け足して説明してくれた。
「なるほど」
二人のフォローに、スタン様はようやく、表情を和らげてくれた。
「確か、ライルくんだったか。君は聡明なのだな」
スタン様はじっと俺の視線に合わせる。
うっかり、その視線に気取られていたら、スタン様は思いもよらないことを口にした。
「私も、アナスタシアの病気には、彼らが関係していると考えていた」
「――っ」
返ってきたのは、予想外の答え。
先程からの緊張感が別の意味を持つ。
スタン様は既に、ダナー商会の裏の顔に気づいていたのか。
その事実に、俺の心は大きく揺さぶらせた。
「もっとも、五年前の私はそのことに気づきもせず、彼らに踊らされていたがな。彼らの言い回しと揚げ足取りには、気をつけなくてはいけなかったというのに……」
スタン様は悔やむように心情を吐露する。
「ダナー商会は、今もこの街にいるんですか?」
「いや、もう、この街にはいないよ」
俺が単刀直入に聞くと、詳しい状況が分かった。
五年前から、ダナー商会と取り引きしていたグランジ家だったが、ある事件を境に、ダナー商会の裏の顔を知ることになった。
ダナー商会によって、流通されていたポーションの一部が『毒物』だと判明したのだ。
しかも、流通していたのは、過去にも類のない毒物だったらしい。
甚大な被害が出たが、強力な毒で、ネーア王国の優秀な魔術師や錬金術師にも手に負えなかったようだ。
だが、肝心のダナー商会は既に逃亡した後で、対応策はなかなか見つからなかった。
組織化した巧妙な者たちによって、ネーア王国は足元をすくわれてしまったのだ。
スタン様はアナスタシア様の病気も、その毒物の影響ではないかと推測した。
だが、証拠がない。
長年、燻っていたが、ある日、転機が訪れた。
俺たちがこの屋敷に来たことで、アナスタシア様とルリア様の症状が快癒したからだ。




