それでも懐かしい記憶⑦
全てに合点がいく。
俺が結論づけていると、屋敷内が騒がしくなった。
何かあったのか、と首をかしげていると。
「アナスタシア、無事か!」
凛々しい男性が慌てた様子で、アナスタシア様の部屋に入ってきた。
少し癖のある赤い髪に、深緑の瞳の少し冷たい感じがする男性だ。
この人、誰だろう?
胸のうちを吐露する前に、振り向いたアナスタシア様の顔は驚きの表情に染まった。
「あなた、どうして……」
「おまえたちの病気が治ったと聞いて、急いで屋敷に戻ってきたんだ……!」
二人の会話に、俺は目を白黒させる。
『あなた』ってことは、もしかして、このお方はルリア様のお父様!?
思わず、身を引き締めていると。
「この方たちはもしかして……?」
ルリア様のお父様は、俺たちの存在に気づいたようだ。
「ええ。前に話したでしょう。吟遊詩人のアイリス様とライル様。ルリアのハープの先生をしてくれているのよ」
俺たちが答える前に、アナスタシア様が穏やかに微笑んだ。
二人の会話はまるで、既に俺たちのことを知っているようなやり取りだ。
恐らく、ルリア様のお父様が精通しているのは通信魔法だろう。
通信魔法は、特定の相手と音声をやり取りできる魔法。
もしかしたら、俺たちが口止めする前に、情報が行き渡ってしまったのかもしれないな。
「名乗るのが遅くなった。私はグランジ家の当主、スタン・グランジだ」
俺がそう判断していると、グランジ公爵家の当主、スタン様は洗練された優美な動作で一礼した。
「お初にお目にかかります。吟遊詩人のアイリス・フェインと申します」
「ええっと、息子のライル・フェインです」
母さんの挨拶に相まって、俺は動揺しつつも頭を下げる。
「そんなに畏まらなくていい。礼を尽くさなければならないのは、こちらなのだから」
どうやら、俺たちの演奏でアナスタシア様たちを癒したことは、既に知り得ているらしい。
もしかすると、通信魔法によって、俺たちが滞在している間の情報は筒抜けかもしれないな。
ただ、グランジ家の当主であるスタン様が、俺たちに対して、丁重に頭を下げている。
………この状況は、とても心臓に悪いんだけど。
「君たちには、妻と娘が大変お世話になったと聞いている。欲しいものがあれば、恩賞として渡そう」
「恩賞……!?」
俺が目を見張っても、スタン様はその後も褒美の品を様々挙げられた。
だけど、どれも俺たちの手には余りそうなものばかり。
だから、俺はずっと、気になっていたことを切り出した。
「あのー。俺たち、このまま、ここにいたいのですが、いてもよろしいでしょうか?」
俺はたじたじになりながらも、当たり障りのない返答を返す。
ジオさんの提案で、この屋敷に暮らしていたんだけど。
スタン様にはまだ、一度もご挨拶していなかったんだよな。




