表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/49

それでも懐かしい記憶②

「アイリス様とライル様のことは、この屋敷の者たち、みんなが好ましいと思っておりますよ」

「えっ……」


不意に飛んできた言葉に、俺はぽかんと口を開けて硬直する。


「アイリス様、ライル様、少しよろしいでしょうか?」


ルリア様には聞かせられない話だったんだろうか。

ジオさんに導かれて、俺と母さんは別の部屋に移動した。


「ここから先の話は、誰にも言わないでいただきたいのです」


ジオさんの声にはどことなく緊張感があり、空気が塗り替えられる。


「実は、ルリア様のご病気についてなのですが、係りつけの医者に診て頂いたところ、全快しているそうなのです」

「………全快」


ジオさんの発言に、俺は思わず目を開いた。


「ルリア様がお元気になられたと感じたのは、アイリス様とライル様の演奏をお聞きになられてからなんです。もしかしたら、お二人の演奏には特別な力があるのかもしれません」


いつか、そのことを知られる時が来るとは思っていた。

胸の辺りがきりきりと痛むのを感じる。

この先に続く衝撃を、俺は受け止めきれるだろうか。


「ここからが本番なんですが、無茶を承知でお願いしたいことがあります」


ジオさんはそう前置きして、噛みしめるように語り始めた。


「アナスタシア様をお救いいただきたいのです」


アナスタシア様は――ルリア様のお母様だ。

確か、病気でずっと、寝込んでいると聞いていたけれど。


「お二人の演奏には、不思議な力があると思われます。アナスタシア様のために演奏していただけませんか?」

「俺たちの演奏を……!」


予想外な話の転がり方に、俺と母さんは顔を見合わせた。


「気休めでも構いません。お二人の演奏を、アナスタシア様にお聞かせいただきたいのです」


ジオさんのまっすぐな瞳。

その奥には、言いようのない悲しみが潜んでいるのが見てとれた。


「旦那様もできる手は尽くしましたが、アナスタシア様の容態は一向に良くなりません。もはや……ただただ、弱っていくアナスタシア様に何をしてやればいいのか、分からないそうで……」


思わず、息が詰まる。

俺は当惑し、その言葉の意味を飲み込むのに時間がかかった。

容態が悪化している。

このままでは、ルリア様のお母様が病気で亡くなってしまうかもしれない。

そうなれば、ルリア様は大いに嘆き悲しむだろう。


『わたし、ほんとにライルせんせいがだいじでだいすきだから』


俺は立ち尽くしたまま、動けずにいる。

先程のルリア様の言葉が、ぐるぐると頭の中を回っていた。


鑑定スキルでステータスを確認すれば、アナスタシア様の症状が分かるかもしれない。


だが、天使の力はできれば隠したまま、平穏に過ごしたいと思っている。

でも、ルリア様の悲しむ姿は見たくない。

ルリア様たちは行き場を失った俺たちを救ってくれた人たちだ。

ルリア様たちの力になりたい。

そう思ったのは、俺だけではなかったみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ