天使の加護④
「まあ、森のことは、オレたちに任せておきな」
手にしていた依頼書を、ローゼンさんは受付に出しに向かう。
その最中、俺は慌てて、ローゼンさんに声をかけた。
「あのー、だったら、森に行く前に、俺たちの演奏会を聞いていきませんか? 冒険者の方にも、聞いてもらいたいんです」
「分かったよ。そういうことなら、聞かせてくれよ。これでいいか?」
「はい!」
俺の精一杯の懇願に、ローゼンさんは観念したようにうなずいてくれた。
冒険者ギルドを出ると、俺たちは早速、街の広場に向かった。
昨夜、ミカエル兄様の魔力の影響を受けたせいか、ところどころ、ひび割れている箇所がある。
「ライル、無理はしないでね」
「……うん。母さん、ありがとう」
心配そうに気遣う母さんの言葉に同調するように、俺はうなずいた。
街の広場で始まったのは、小さな演奏会――。
母さんが口ずさむ歌声に合わせて、俺はハープで主旋律を置いて行く。
星空みたいに透明な音が一音一音、宙で青くきらめいて、聴く者の心を揺さぶる美しい音色を響かせる。
あまりにも美しくて泣けてくるような調べはやがて、万華鏡みたいに色調と模様を変えていく。
ローゼンさんはその美しい旋律を、興味深そうに聞いていた。
ローゼンさんに瘴気を祓う加護を。
そして、隠蔽魔法で隠して、ステータスからは見えなくする。
俺はハープを奏でながら、慎重に取り繕うように、天使の加護を与えていく。
何から何まで相談に乗ってくれたことも、そうだけど。
もっともっと、小さく無数にある感謝を込めて。
願いを込めた加護は、わずかでも熱が届いていますように。
気持ちを確かに音色に込めれば、ローゼンさんの唇は微かに緩む。
俺たちが一礼したその瞬間、拍手が降り注いだ。
演奏に応える万雷の拍手が、俺たちの演奏に寄せられていた期待を示しているようだった。
「良かったよ。他の奴らにも聞かせたいくらいだ」
「ありがとうございます」
ローゼンさんの称賛に、俺と母さんは顔を見合わせて、喜びを分かち合う。
「ローゼンさん、演奏を聞いてくれてありがとうございます。依頼、頑張ってください」
「こっちこそ、ありがとうな。じゃあ、オレは行くけれど、また、何かあったら、声をかけてくれよ」
それだけ告げて、今度こそ、ローゼンさんは俺たちのもとを後にした。
「……瘴気を祓う加護、付与したよな」
本当は最後に、鑑定スキルでステータスの確認をしたかったけれど、ローゼンさんはAランクパーティー、『ドミニカ』のリーダーだ。
迂闊に見ると、俺の力のことを勘づかれてしまうかもしれない。




