恋のようなものじゃなく⑥
「ああ~。お兄ちゃんは今世も、ザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しています。だから、そろそろ、今世のザナフェルに会いたいんだよね~」
俺が過去を思い出していると、ミカエル兄様は神妙な面持ちで切り出した。
「えっ? 会いたいって……」
「言葉どおりだよ」
俺が言い終わる前に、ミカエル兄様は俺の手をを取った。
星空の下、ミカエル兄様と仲睦まじげに手を取り合っている。
今の状況に何故か、無性に恥ずかしさがこみ上げる。
もしかして、俺たちの状況って、他の人たちから見ると恋人同士に見えるのだろうか。
心の隙間に滑り込んだみたいに、どうしてもミカエル兄様のことを意識してしまう。
「お兄ちゃんは、いつまでも待てないよ。ザナフェルのことが愛しいから。いずれ、今世のザナフェルに会いに行くからね」
「……っ」
ミカエル兄様がそう言い終わった途端、俺の意識が遠のき――リリアーナ王女の身体が不意に傾いた。
「ああ~。ザナフェルの今世の姿、マジで尊死するんだろうね!」
硬直していたのは一瞬。
ミカエル兄様は弾かれたように、俺をふわりと抱き上げる。
その瞬間、街の広場が崩壊せんばかりに揺れた。
衝撃。
烈風。
それはあまりに苛烈で、致命的な魔力の嵐だった。
「……楽しみだなあ。ザナフェル、待っていてね。必ず、迎えに行くからね~」
その膨大な魔力がミカエル兄様のものだと悟った瞬間、俺の意識はぷつりと途切れた。
「うーん……」
まどろみから覚めて、俺は眠気を追い払うようにして目をこすった。
目を開けた時、俺は夜の街ではなく、屋敷のベッドにいた。
改めて、部屋の中をゆっくりと見渡す。
「そっか。憑依の魔法が途切れたのか……」
弱々しいつぶやきが、俺の口からこぼれる。
切なさのような、寂しさのような、言葉に言い表せない何かが、全身に染み渡っていくようだった。
澄んだ空気をゆっくりと胸に吸い込んで、先程の出来事を呼び起こす。
『お兄ちゃんは、いつまでも待てないよ。ザナフェルのことが愛しいから。いずれ、今世のザナフェルに会いに行くからね』
夢の続きのように先程、聞いたミカエル兄様の言葉が、微かに尾を引いて消える。
ミカエル兄様が本気で動き始めたら、俺はきっと、王宮に連れていかれてしまうだろう。
そうなったら、俺は再び、前世と同じ過ちを犯してしまうのだろうか。
ミカエル兄様の迎えが来る前に一刻も早く、ネーア王国から出なくてはならない。
この場に留まることは危険だ。
分かっている。
それなのに……。
『ライルせんせい!』
この屋敷にいたいと思ってしまう。
ルリア様たちのそばにいたいと願ってしまう。
その気持ちに、どうしても嘘はつけなくて……。
矛盾した思いは、夜が明けるまで俺の胸を苛み続けていた。
やがて、窓から朝日が差し込む。
ミカエル兄様の意味深な宣戦布告を置き去りにしたまま――。




