恋のようなものじゃなく③
「リリアーナ様のご事情は聞いている。でもね、あれこれ悩んでも仕方ないでしょう」
その導く声が、俺の心を落ち着かせていく。
「今はできることを、少しずつしていきましょう」
「……うん。母さん、ありがとう」
母さんの気づかいが胸に沁み渡る。
ミカエル兄様がいつ、『憑依の魔法』を使ってくるのか分からない。
それでも今はただ、この時間を楽しもう――。
そう思っていた矢先、俺に思わぬ災難が降りかかった。
その頃、リリアーナはそわそわと兄の来訪を待っていた。
「わたくしにはずっと、一つの願いがあった。それは『魔法』を使えるようになること。魔法を使えるようになれば、聖王女として認めてもらえるようになるから……」
リリアーナは生まれつき、魔力がない。
だが、魔法と伝統を重んじるネーア王国の王家で、魔法が使えないのは問題視される。
リリアーナは一部の王族の者達から度々、不興を買っていた。
だからこそ、幼い頃からずっと、魔力を求め続けていた。
「でも、心の奥底にあった本当の願いはきっと……」
リリアーナは改めて、自分の考えを否定する。
じゃあ、何のため?
自問自答して導き出されたのは、単純明快な答えだった。
『リリアーナ。今世も、ザナフェルのことをめちゃくちゃ愛しています。だから、これからもザナフェルに会いたいんだよね』
兄のその気持ちは、痛いほど分かった。
聖王女。
それは人々を癒し、導く存在である。
そして、天使ザナフェルに仕える存在である。
だが、天使に関して学んでいくうちに、やがて、リリアーナには別の感情が生まれていた。
「わたくしは、ヴェルお兄様の願いをかなえてあげたい。兄弟がこのまま、離ればなれなんて辛すぎるわ」
大きく鼓動を刻んだのは心臓。
リリアーナは初めて抱いた、自分の感情を持て余していた。
「リリアーナ、お待たせ」
「ヴェルお兄様!」
兄の来訪に、リリアーナは心から安堵する。
「ザナフェルを呼び寄せる手筈が整ったよ。準備はいいかい?」
「はい、もちろんです。準備万端ですわ」
兄の言葉に、リリアーナは意思を強く固めた。
二人の仲を応援したい。
これからもずっと、変わらず見守りたい――。
その感情が、兄の魅力魔法の影響によるものと露知らずに。
「ん……」
どこか冷たい微睡みの中で、俺の意識はゆっくりと浮上した。
知らない天井、ここはどこだろうか。
「うまくいったみたいだね」
混乱をきたしていた俺のもとに、明るい金色の髪をした青年が近づいてきた。
抜けるような青空に似た瞳。
さらさらとした明るい金色の髪との対比が、本当に綺麗だと思った。
……だが。




