小さな演奏会⑥
「……俺の加護。前世の時もそうだったけれど、効果はその人によって違うんだよな……」
俺は改めて、演奏会の出来事を掘り起こす。
この音色で、ルリア様の病気を治せたらいいな。
あの時、俺がそう願ったから、天使の加護はルリア様の病気を治せる効果になったのだろう。
それに、ありとあらゆる厄災から守ってくれる加護――。
ルリア様の今後は恐らく、安泰だと思う。
視線を向けた先、ルリア様の花咲く笑顔がそれを証明していた。
母さんと一緒に部屋に戻った後、改めて今後の方針を模索していく。
「うーん。ミカエル兄様の対策は、何も思いつかないな。ミカエル兄様はとにかく万能で、規格外すぎる」
「そうなのね」
俺の嘆きに、母さんは神妙な面持ちでうなずいた。
そして、穏やかな口調で話し始めた。
「でもね、別にいいのよ。こういうのは思いつかなくても」
「えっ?」
予想外な発言に、俺は目をぱちくりさせる。
「叶ってほしいと思ったその気持ちとか、一緒にその時を過ごした人との思い出とか、その一瞬こそが何よりも大切な時間でしょう」
母さんの言葉に、俺は今まで出会った人たちのことを考える。
何気ない言葉に勇気をもらったこと。
一つ一つに深い意味はなくて、単なる偶然の積み重ねだけど、それはきっと、新たな始まりのきっかけだったと思う。
「その一瞬はたとえ、ミカエル様だとしても、手を出すことはできないもの」
「……うん。確かにそうだな」
母さんの言い分に、俺は妙に納得する。
いくら、ミカエル兄様の力が圧倒的だとしても、ずっと俺のことを気にかけているわけにはいかない。
なにしろ、今のミカエル兄様は、ネーア王国の第一王子、ヴェルディ様なんだから。
やることは山積みだ。
「それに、過ぎたことをあれこれ言ったところで、何かが変わるわけでもないし、逃げも隠れもできないんだから。未来を怖がるより、今の幸せを掴む勇気が大事」
その言葉は、信頼の証。
大事なのはそれだと、そのまま、母さんは静かに俺の瞳を見つめ続けた。
「ここがふんばりどころでしょう。私たち、家族みんなで頑張りましょう」
「……うん」
母さんの優しさに、俺はいつも救われているような気持ちになる。
母さんがそばにいると心地いい。
「大丈夫。あなたは一人じゃないから」
「母さん、ありがとう」
その信頼を、決意を。
俺はただ、受け止めることにした。
俺は正式に、ルリア様のハープの先生をすることに決めた。
この街に滞在している間、何もせず居候するわけにはいかない。
「はい、良いですよ、ルリア様。とてもお上手でした」
「ライルせんせい、ありがとうございました」
レッスンを何度か受け、ルリア様はハープに少しずつ慣れてきた。
もっとも、ハープの弾き方はなかなか難しい。
今はまだ、ハープの弦に触れてもらうことから始めている。
それでも、ルリア様には未知の体験。
すごく楽しそうだ。
今の俺たちの関係を、『依頼』以外に表すことができるのなら。
……意外とそこには、当たり前の答えがあるのかもしれない。




