小さな演奏会④
魔力検査の騒動が落ち着くまで、俺たちはしばらく、この街に滞在している。
その間、公爵家からの依頼を受けて、ルリア様にハープの弾き方を教えるのもいいかもしれない。
……そう思うと、不思議な気分だ。
こんな日が訪れるなんて、『天使覚醒』の日の俺は思っていなかった。
こんなふうに、優しくて愛おしい時間が来るなんて。
改めて、あの日の記憶を掘り起こす。
天使覚醒の日を迎えた時に、明かされた真実――。
望みとそれを拒絶する己自身の感情がごちゃ混ぜになって、あの日の俺はまともに息ができなくなっていた。
だけど――。
『ライル……。私、あなたの言葉を信じてみることに決めたの。前世が何であろうが、誰がなんと言おうが、あなたが私の息子であることは変わらないもの』
あの後、母さんからかけられた言葉は、想像をはるかに越えた優しさに満ちていた。
「ルリア様は、俺が必要であると言ってくださるのですか?」
「うん……!」
俺のたどたどしい質問に、ルリア様は大きくうなずいた。
ルリア様がハープに興味を持ってくれたことはもちろん、嬉しかったが、今日の嬉しさはもう一つある。
ルリア様が純粋に、俺を必要としてくれたことが嬉しかった。
ずっと心に引っ掛かっていた、足りない『何か』。
俺は……『前世の自分』じゃなくて、『今の俺』を認めてくれる人を、求めていたのかもしれない。
そう考えると、脳裏に浮かんだ様々なことがすとんと胸の底へと落ちていく。
俺、何もできないと思っていた。
ザナフェルの生まれ変わりの俺に、幸せになる資格なんてないと思っていた。
でも……俺なんかでも、人の役に立つようなことができるのかな。
誰かのためにできることがあるのかもしれない。
「分かりました、俺で良かったら受けさせていただきます。ルリア様のために尽力させていただきます」
「ライルせんせい、ありがとう!」
俺とルリア様の小さな約束は、幸せそうに花を咲かせた。
「変な感じだ……。幸せで不安になる。俺がこんなに幸せでいいのかな……。いつか、この幸せが終わってしまうのかな……って考えると――」
「そんなこと、考えても仕方ないでしょう。大丈夫。終わらせないわよ」
母さんの言葉に、身体の芯から自然と笑みが込みあげてくる。
「私たちがついている。前世が何であろうが、誰がなんと言おうが、あなたが私の息子であることは変わらないもの」
「母さん……」
穏やかに笑う母さんを、俺は胸が熱くなるのを感じながら見つめてしまう。
俺の前世がザナフェルだという事実は、これから先も変えられない。
たとえ、悩んだり苦しんだりすることがあっても、終わりと始まりを繰り返し、新しい何かを探していくのだろう。
できれば、これからもずっと、母さんの一番近くで――。




