小さな演奏会③
器楽室で始まったのは、小さな演奏会――。
母さんが口ずさむ歌声に合わせて、俺はハープで主旋律を置いて行く。
ハープは多彩な音域と豊かな音色を活かして、主旋律を奏でることができる。
母さんの歌声はどこまでも柔らかい。
俺はそれに聞き苦しくない、綺麗な高音で感情をこめて主線に乗せた。
俺たち家族が互いを支え合うように、身をすり寄せては奏でられる響きを。
ただ、俺の演奏には一つ、問題点がある。
ザナフェルとして覚醒したことで、ハープの音色にも魔力がこもっている。
この音色を聞いた者に、『天使の奇跡』という加護を与えてしまう可能性があった。
隠蔽魔法で、魔力は分からないようにしているとはいえ、慎重に奏でる必要がある。
それでも……この音色で、ルリア様の病気を治せたらいいな。
危惧しつつも、そう……願ってしまう。
最後の旋律を弾き終えた俺は、ゆっくりと指をたたむ。
そうして、俺たちの響き合うような演奏が終わりを告げた。
ぱちぱち。
余韻が残り、しばらくして一際大きく、手を叩く者がいた。
「おうたも、ハープもじょうず~! すごい、すごーいです!」
ルリア様は目を輝かせて、俺たちに熱い眼差しを注いでいた。
先程までの苦しそうな表情が嘘のように、元気溌剌に両拳を握りしめている。
「わたしも、ハープ、かなでられるようになりたいです!」
そう宣言したルリア様は弾けるような笑顔を浮かべていた。
「ハープを?」
思わぬお願いに、俺は呆気にとられる。
てっきり、歌の方に興味を持つと思っていたからだ。
「そう言えば、ライル様は幼い頃からハープをお弾きになられていたとか? もしよろしければ、ルリア様にハープをお教え頂けませんか?」
「えっ……!?」
予想外な話の転がり方に、間抜けな声が俺の口から出る。
ジオさんの提案に、俺は驚き顔で固まるしかなかった。
さらに、俺は期待に満ちたルリア様の視線に気づいて、照れたような笑みをこぼす。
「いやいや、俺、教えたりすることは……」
「せんせい! わたし、ライルせんせいにお教えてほしいです!」
そんな俺の心情を置き去りにして、ルリア様は全力で思いの丈をぶつけてきた。
俺は意外なことを聞いたように目を見開いてしまう。
「せんせい!?」
「だって、ライルせんせい、じょうずだったよ」
意表をつくような答えに、俺の心臓がさらに音を立てる。
「ふふっ。ライルの演奏、気に入ってもらえたみたいね」
「ライル様の演奏はすばらしかったです」
母さんはほろ苦く微笑む。
ジオさんも納得したように、うんうんとうなずいた。
……いやいや、公爵家のご令嬢、ルリア様が習うのなら、ハープ専門の先生の方が適任じゃないだろうか。
思わず口にしてしまいそうになった心の声を呑み込む。
ルリア様の瞳は期待に溢れ、俺の返事を心待ちしているのが見て取れたからだ。
どうやら、このお誘い、断ることはできそうもなさそうだ。




