小さな演奏会①
「うーん……」
まどろみから覚めて、俺は眠気を追い払うようにして目をこすった。
目を開けた時、俺は王宮ではなく、宿屋のベッドにいた。
『……ザナフェル、ごめんね。……今度は少しでも長く、リリアーナの身体にいられるように配慮するからね~』
先程、聞いたミカエル兄様の言葉が、微かに尾を引いて消える。
生々しい夢だった。
夢の余韻がまだ覚めやらない部屋は、いつもと変わらないようで、やはり違った。
「夢? いや、あの出来事は夢じゃない……」
言い知れない不安のせいで、全身汗でぐっしょりとぬれていた。
「ミカエル兄様が、憑依の魔法で、俺の魂を呼び寄せたんだ……」
理性よりも先に、直感が結論を出した。
魔力の残り香だけが身体中を纏っていた。
まだ、現状を消化しきれていない。
どこからが夢で、どこからが現か。
どれだけ考えても、今の状況に納得いく説明をつけることができなかった。
王宮での出来事は、非現実ワールドに片足突っ込んで、夢と現の境目がはっきりしない。
だけど、少なくとも、『ただ呼び寄せただけ』と終わらせるには不思議に満ちていた。
「……ということは、俺が、この宿屋にいることも知られているのかもしれないな」
予想はしていたけれど、改めて口にすると、その事実が重くのしかかる。
「とにかく、今日は依頼をこなそう。グランジ家に行って、演奏しなくちゃな。その後、ミカエル兄様の対処法を考えないと」
そう思い立つと、俺はグランジ家に行く準備をした。
母さんに事情を話した後、足早に宿屋を出る。
そして、気分一新。
これからの自分の道は、自分で照らそう。
もう、うつむくことはやめて。
新たな人生、生きたいように生きようと思った――。
ネーア王国の街並みは、独特な雰囲気で観光に訪れる者も多い。
人々の声が空の下に響く。
春の芽吹きのような温かさを。
胸中に感じられるのも、街が活気に溢れているからこそだろう。
もっとも、今は魔力検査の影響で、容易に街を出入りできなくなっている。
俺たちのように、騒動が落ち着くまでしばらく、街に滞在している者もいるみたいだ。
「賑やかね。依頼が終わったら、街の広場で、演奏会をするのも良さそう」
「母さん。街を訪れると、いつも小さな演奏会をするよな」
俺の言葉に、母さんは怪訝そうな顔を浮かべたが、そう的外れではないと思う。
街で楽しむこと。
いくつか選択肢はあったけれど、俺たちの場合、音楽が常に有力候補となっていた。
幼い頃から聞いていた母さんの歌。
それは俺たち家族を繋ぐ、大切なファクターの一つだったからだ。




