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激マズ料理を作る令嬢が第二王子を骨抜きにするまで

作者: 大井町 鶴

短編26作目になります。いつも読んでくださっている方も、はじめましての方も、ありがとうございます。

今回は、激マズ料理をした令嬢がなぜか王子様の心を掴むお話です。どうぞ最後までお見守りくださいませ(o´∀`o)

その日、公爵家令嬢のジネットは王宮に来ていた。


第二王子リオネルの婚約者候補が一同に集められ、大々的なお茶会を開催していたのだ。だから、ジネットのほかにも多くの令嬢が集っている。


(家柄的にはわたくしが一番の候補だと言われているけど、わたくしはこういうことにあまり興味はないわ)


ジネットは気を抜いていた。リオネル王子に命を助けられるまでは。


「皆、伏せろ!まだ矢が飛んでくるかもしれないぞ!」


気付くと、辺りは騒然としていた。兵士が慌ただしく矢の飛んで来た方角へと駆けて行く。リオネル王子の側には近衛兵がピタリと張り付いていた。


そして、そんなリオネルに覆われるカタチで、ジネットは尻もちをついていた。


「君、大丈夫か?」


緩やかなプラチナブロンドの髪がまぶしいリオネル王子が自分に向かって安否を聞いている。


「は、はい。一体なにが起きたのでしょう?」

「僕を狙って刺客が矢を放ったらしい。君は僕の前にいたからこうして助けたまでさ」

「え!?リオネル様がわたくしのために……!」


ジネットはいたく感動した。


リオネルは目の前で感激したようにグリーンアップルの瞳を潤ませ、手を組むジネットに後ろめたさを感じていた。


(本当は、つまずいてたまたま君に覆いかぶさるカタチになっただけなんだ……)


しかし、本当のことなどカッコ悪くて言えない。リオネルはもっともらしいことを言っただけだった。


「では、僕はここで失礼する。犯人を捜さなくてはならないからね」


クールに去ろうとするが、ジネットが引き留めた。


「お待ちくださいませ!わたくし、とっても感動いたしました!この御恩、どうにかしてお返ししたいです!」


ものすごい熱量で言うからか、彼女のミルクティー色の髪が額に貼り付いている。


「いや、恩義など大げさな。気にしなくていいよ」

「いえ、命をお救いして頂いたのに、モンブラン公爵家の娘として礼儀を尽くさないなんてあり得ませんわ!」

「えーと、ならそうだな……あ!最近、令嬢の間でスイーツ作りが流行っていると聞いた。僕に良かったら作ってくれないかな?」


それくらいならば、ちょうどいいとリオネルは気軽に言う。


「ス、スイーツでございますか?手作りの……了解いたしましたわ!」


こぶしをつくって張り切っている様子のジネットに別れを告げると、リオネルはその場を後にした。


(あの令嬢、モンブラン家の令嬢だったのか。初めて会ったなあ。なんというか、素直そうな令嬢だ)


ジネットはあまり社交が好きではなかったのもあって、王宮にほとんど出入りしたことがなかったのだった。


……翌日、ジネットは厨房に立っていた。メイドたちが不安げな表情で見守るなか、彼女は意気揚々とボウルを振っている。


「リオネル様はお優しいお方でしたわ……。もうわたくしの命はリオネル様のもの。わたくしにできる精一杯のお返しをしなくては……!」


テーブルの上には、謎の材料がズラリと並んでいた。見た目も鮮やかなビーツの粉、腸内環境にいいと聞いたキノコペースト、スースーした香りが爽やかな気分になるハッカ油。


周りで見ているメイドたちはイヤな予感しかしていない。


「まずはタルト台を焼きましょう!全粒粉が基本ですわよね?栄養のためにはこの発酵豆の粉末も入れるといいわ。ヘルシーで高タンパクに……!」


発酵豆の粉がとてもスイーツだとは思えないニオイを発していた。メイドが涙目になりながら厨房から逃げて行く。


数時間後、ジネットは完成したスイーツを前に満足げにうなずいていた。


なぜか、完成したスイーツは灰色がかったクリームに黒い粒、そしてテカテカとゼラチンが不気味に輝いている。


「な、なんと恐ろしい……」


小さくメイドがつぶやいたのだった。


……その日の夕刻、すぐにでも食べて頂きたい!という気持ちからジネットは作り上げたスイーツを持って王宮に来ていた。


用件を伝えると、すぐに執務室に通される。


執務中だったリオネルはジネットの顔を見ると、“やあ”と微笑んでくれた。


(リオネル様のために、渾身のスイーツをお持ちしましたわ♡)


命を救われたと思っているジネットは、心の中で甘くつぶやく。


「さっそく、作って来てくれたんだね。では、頂こうかな。……ん、なんだ?」


ピンクの箱を開けたリオネルは、なにやらスパイシーなニオイに違和感を覚えた。しかも、見たことのないグレー色をしている。


(毒か!?)


「これは、わたくしの感謝を形にしたものでございます!」


ジネットが屈託のない笑顔で言う。キラキラした笑顔が眩しい。


(とても怪しい見た目でもしやと思ったが、この令嬢に悪気はないのだな……)


しばし、迷ったリオネルは腹をくくった。


「いただこう。感謝の気持ちには、真剣に応えるべきだ……!」


カッコつけたい気持ちもあってリオネルは一口食べる。


――沈黙。


とても二口目などいけない。あまりのマズさにリオネルの眉間がピクピクと震えた。思わずテーブルに手をつく。


「お味はいかがでしょう!? わたくしなりに、健康と美味しさの調和を追求してみましたわ!」

「……何を入れたんだい?」

「発酵豆、魚脂入りのクリームとレバーの粉など色々ですわ。きちんと栄養学的に根拠に基づいたものばかりですのよ!」


自信満々に言うジネットには、少しも迷いが見られない。


「そ、そうか。体には良くても精神力が試されるね……初めて食べた味だよ」

「まあ、褒めて頂いて嬉しいですわ。早朝から試行錯誤した甲斐がございました!」


ジネットは都合良いように受け取ったようだ。ニコニコしている。


(含む意味に気付かずか。まあ、仕方ない。僕が手作りスイーツを頼んだのだから。しかし、こんなゲテモノを早朝から作るとは、それだけは感心する)


――子犬みたいに彼女は喜んでいた。まるで、主人に褒められたくて一生懸命にしっぽを振っているようなカワイイ犬。


犬に例えている自分に思わず苦笑する。


王子は、気を取り直して紅茶をガブリと飲むと、大きく息を吐いた。


「ありがとう。君の気持ちは、ちゃんと受け取ったよ」

「良かった……!では、また明日にでも、新作をお持ちしますね」


とても前向きなジネットは張り切っている。リオネルは冷や汗が出た。


「いやいやいや……それには及ばないよ! それにしても、よく新作をすぐに思いつくね。君は栄養とか素材とかについて詳しいのかい?」

「はいっ!“体づくりは日々の食から”、と兄が申しておりますから」


ああ、そういえばモンブラン家の長男は軍部でも実力がある人物だったなと、リオネルは思い出した。


(彼女の兄が持ち込んだ保存食は、非常に役立っているというようなことを聞いたことがある)


リオネルは試しに、ジネットに尋ねてみた。


「君の作ってきたこのスイーツには、どんな効果があるのかな?」

「発酵豆はタンパク質が豊富でビーツには抗酸化作用があります。あと、キノコペーストは腸内環境に良いです。その他にも……」


彼女はスラスラと答えた。


「ほう……君はなかなかの知識を持っているのだな。どこで学んだの?」

「我が家のお抱えのお医者様からお話を聞いたり、料理番の方の書いた本などを片っ端から読んだりしましたわ。正直、社交より得意ですの」

「ほう」


リオネルは目を細めた。


(この令嬢、とんでもない令嬢だと思ったが、栄養関連について僕の参謀より的を射ているんじゃないか?)


リオネルは軍政についても担当していた。常に小競り合いをしている異民族との戦いにおいて、食糧問題は重要な課題だった。


「ジネット嬢。……もしよければ、君のその知識を活かして兵站、つまり兵士の携帯食料を提案してみてはくれないか?」

「まぁ!わたくしが!?お役に立てるのでしたら、よろこんで!」


ぱあっと顔を輝かせたジネットに、リオネルは楽しげな微笑みを返した。


「ものすごくやる気だね。嬉しいよ。……ただ、もう少し味の工夫だけはお願いしたいけれどね」

「えっ……?もしかしてスイーツはヒドイ味でしたの?つ、次は食べやすさと栄養を両立できるよう、精進いたしますわ!」


ジネットは失礼します!言うと、王宮の図書室へと去って行く。さっそく素材と味の配合について調べるつもりらしい。


「あの令嬢は面白いな。緊張感が抜ける」


味と栄養、そして保存がきく、という命題を出されたジネットはほぼ毎日、王宮の図書室に通って調べていた。


リオネルは自分が依頼したことでもあるので、時間ができれば図書室にいる彼女の元へと訪れた。


毎回、他愛ない話をする。激マズなスイーツを作るズレた令嬢だと思っていたが、話すほど、真面目で憎めない、一生懸命な令嬢なのだと思えた。


手元の資料をじっと睨むジネットの眉間には、毎回、うっすらシワが寄っている。真面目に取り組んでいる彼女の姿が、どこか可笑しくて、愛らしく感じてきたのだ。


……3ヶ月後、リオネルは父である王に願い出ていた。


「私は、モンブラン公爵家の令嬢、ジネット・モンブランを妻にしたいと思います」


理由を説明すると、話はトントン拍子で進んだ。


「リオネル様、わたくしを選んでくださって感無量ですわ。もう、死んでもいいくらい!」

「おいおい、僕が救った命だぞ?側にいてくれなくては困る。それに君の方が偉大かもしれないぞ?兵たちの命を救うことに繋がるんだからな」

「え、わたくしがそんなお役に立てているのですか?」


キョトンとしたように見上げてくる。


「ああ。君は僕の心もしっかり掴んでいるよ」


――天然で激マズ料理な令嬢が、王子の心を射止めるまで意外な角度から始まった恋は、今日も美味しく(?)進行中である。

最後までお読みいただき、ありがとうございました(♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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