9.シェリス・マイザルご乱心
「人は見かけによらないんだな。まさかジュンが雄汝禁教徒とは」
「……んああ」
「いや、非難しているわけじゃないぞ。本当に、心底尊敬しているよ。世界でもダントツに厳しい戒律を敷いているというからな」
「……そすか」
レイアからの熱い視線を適当にいなしながら、どうにかホームへ帰ってきた。
プリッケ冒険者ギルドの奴らが弱小というのも分かる。
クソボロい上にこんな小さいのがギルドなんて。
シルバ◯アファ◯リーの家じゃあるまいし。
壊れた玄関をまたぐと、ソファでは……。
「……ぉぉ」
おっ始まりかけていた。
アドミラに覆いかぶさる白いもふもふが、ハアハアと息荒くしている。
ええぇぇぇ。どうしたらいいんだよ。
まだギルドは微妙に揺れてるしよお。
ソファでは始まりかけてるしよお。
受付で観戦でもしてろってか?メガホン持って応援でもしてやろうか?
おいシェリス!ポジション変えろ!そこが相手の弱点だ!とか言えってか?
「どうしたジュン。早く入れ」
「いや、それが――」
レイアに背中を押されて、一步踏み出したその時、俺はたしかに聞いた。
「……ぷはっ。シェリスちゃん止めて!無理やりしないでッ!」
ん?
んん?
「はあはあはあはあ、アドミラがおあずけにするから悪いのよ。もう、ヨダレが止まらないのよ。ちょっとだけ、ちょっと味見するだけだから、はあはあはあはあはあ。ジュルリ」
んんんんんん?
「おいジュン……?」
「ああ、レイア。これは」
ヤヴァい!
俺たちはシェリスの腕を掴み、全力で引き剥がしにかかる。
「シェリス!落ち着けい!離れろバカタレ!」
「シェリス!仲間が嫌がってるだろう!何をするつもりなんだ!」
レイアには、ソッチの知識がないから状況が掴めてないらしい。
だが俺は、しっかり理解できている。
このウサギ、罪を犯そうとしていた!
「くっ、力が強え……レイア引っ張れ!」
「なんて怪力だ。アドミラ!蹴り飛ばすんだッ!」
「はあはあはあはあ。アドミラちゃんのアドミラちゃんのおま……ぐへッ」
アドミラが下から蹴り上げてくれたことで、ようやくシェリスを引き剥がすことに成功した。
だがこの性欲モンスターは、すぐに起き上がる。
「シェリス!俺を見ろシェリス!」
「はあはあはあ、アドミラちゃんアドミラちゃん。食べたいよ、抱きたいよ、しゃぶりたいよ」
「落ち着けい!どうせなら俺を食ってくれええええ!」
「男は嫌いだ。死ねッ!」
「どぅぉへッ」
とてもキツイ一撃で、普通に笑えないやつを、顔面にもらってしまった。
視界がグラグラして、うまく立ち上がれない。
「シェリス!なんてことをするんだ!ジュンは仲間だろう!」
レイア……離れろ!
お前の貞操まで危ないぞッ!
このままだと、シェリスの魔の手によって、散らされてしまうッ!
「れ、レイア……はなれ、ろ」
俺は叫んだが、彼女の耳には届かない。上手く口が回らないのだ。
「レイアでもいいんだ。貝殻をピタッと合わせて擦るだけだから。はあはあ」
「貝殻?なんのことを……」
レイアにシモの隠語は通用しないぞシェリス!
ああシェリス!落ち着け!
なんてこった。このままじゃあヒロイン候補たちが、ウサギの魔の手に落ちてしまう!
「シェリスちゃん!落ち着いて!」
アドミラは、捲くられたスカートを直して叫んだ。
よし、パンティーはしっかりと見させてもらったぞ!
「はあはあはあ。アドミラちゃん、レイアちゃん。アアッ!食べちゃうよぉぉぉ♡」
恐ぇぇえよッ!
目がキマりすぎて、性欲じゃあ片付かないレベルになってるって。
なんか薬でも飲んだのか?
「くっ、シェリス!どこを触ってるんだ!」
「はあはあはあ。ああッ、最高ッ♡」
ああ見てられない。見たいけど、見てられない。
いや、やっぱ見たいッ!
あの卑猥な指先から繰り出される妙技を、この目にしかと焼き付けたい!
「止めろシェリス!」
「シェリスちゃん止めて!無理やりしちゃダメだって言ったでしょ!」
ああ、そうだ。俺も落ち着けい!
今ここは犯罪現場なんだぞ。
しかも現行犯のな。
どうにかしろ!スキル【コールセンター】で!
できるかボケェェェェ!
あ、いやここで一つ。
「くらえ!」
拾ってきたヘッドセットを投げてみる。
「……?」
おお?見てる見てるぞ。効果ありか?
「レイアちゃーん。ちょっとだけ入れるね?先っぽだけ、ちょっとだけだから」
「何をどこに入れようとしてるんだ!」
やっぱ使えねえじゃねえかッ!
誰か助けてー!男の人ー!
ドタドタ――!
「うるせえぞバカタレッ!んお?ジュン!てめえ、ゴブリンは」
「た、助けてください。シェリスが、ご乱心……」
口元から血を流す俺。
着衣が乱れたアドミラ。
必死の抵抗をするレイア。
そして、レイアの股間付近で、卑猥に指をワサワサするシェリス。
すべてを察してくれたのか、腰振りビリガンは、シェリスの首根っこをガシリと掴んだ。
「ちッ。離れろバカタレ!」
「お、おっさん、ソイツは、怪力、で……は?」
あんなに苦戦したというのに。
2人がかりでも引き剥がせなかったというのに。
腰振りビリガンの毛深い片腕は、シェリスを持ち上げていた。
「……薬、飲んでねえのか」
薬?
いや、逆に飲んでるんじゃねえの?そんなにキマってるんだから。
「も、持ってない!あんなものなくても、二人と気持ちよくなれ――」
「アイシャ!頼む」
腰振りビリガンの言葉を受けて、ビリガン夫人は頷いた。
「あいよ」
一体何が起きているのか。
まったく先の展開が予想できなかったが、ちょっとだけワクワクした。
まさに異世界って感じだなコレ!
「放せ!放せ放せ!男に触られたくない!放せ!」
ガスッボグッ――。
「お、おっさん……」
俺はワクワクしたことを反省した。
シェリスの凶暴さを、ちょっと甘く見てた。
首根っこを掴まれたシェリスは、容赦なく腰振りビリガンを殴る蹴る。
その威力が半端じゃなくて、ヤバそうな音が、小さいギルド内に響く。
「シェリス!止めるんだ!それ以上――」
レイアも青ざめるほど、執拗に顔ばかりを殴り、執拗に膝ばかりを蹴る。
だが腰振りビリガンは、一切防御しなかった。
口元から血が流れても、鼻から血が流れても……。
「はあ、はあ。放せ!」
ガスッ――。
疲れ切ったシェリスが、渾身の一撃を腰振りビリガンの顎に見舞った。
それはもう、キレイなまでにクリーンヒット。
普通なら、間違いなく失神ものだ。
だがこの男は違った。
「……なにかしたか?」
「……くっ」
くぁぁぁぁぁっこいいいい!
リアルで言う人間がこの世にいたのか!
マジかよ腰振りビリガン!ただ腰を振るだけの絶倫じゃねえのかアンタ!
マジでかっけぇ。
俺も言いてえよおお!
「てめえの拳が壊れちまう。もう止めときな」
よく見てみると、シェリスの拳からは血が流れていた。
なるほど。腰振りビリガンの口元の血も、シェリスのものだったらしい。
強すぎじゃね?腰振りビリガン。
俺のよりも主人公なんですけど。
「あいよ」
すると、奥からやって来たビリガン夫人が、腰振りビリガンに何かを手渡した。
まん丸の黒い粒。正◯丸みたいなやつだ。
「い、嫌だ!飲みたくない!お願いだよ。お願いぴょん!」
今さらぴょんを言われても……。
俺は冷めきった目で見ていたが、腰振りビリガンは違った。
なんというか、悲しげな目だった。
何かを知ってそうな……。
「甘えたこと抜かしてんじゃねえ!」
そう言って、太い腕からビンタが繰り出された、のだが。
ドゴオォォォォォォァァァァンッ!
謎の爆発音と共に、ギルド入口の拡張工事が完了した。
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