6.初夜
道中はなんにも楽しくなかった。
シェリスは興奮しっぱなしで、アドミラとイチャイチャしてるし。
レイアはゴブリン討伐が楽しみだと、延々と俺に語り続けるし。
エロさなんて微塵もない。キュンキュンなんてどこにもない。
つまらなすぎて、肥溜めにダイブしようかと思った時期もありました。
なんで神は【コールセンター】とかいう、わけのわからんスキルをくれたんだ。
もっと強くて、もっとモテモテになれる、ハーレム専用スキルみたいなの寄越してくてもよかったじゃないか。
イライラしながら歩き続けて20分。
「ここか。ゴブリンが出るという森は」
いかにもな森だった。
奇妙な鳥の鳴き声がして、人を寄せ付けないどんよりした空気が漂ってくる。
「……しっかり楽しむ気だなアイツら」
ここまで20分ということは?
往復40分で、ゴブリンを倒すのに20分ぐらいか?
しっかり1時間、楽しむ時間を確保したってことだな。
腰振りビリガンめっ!
しかも、チラリと見えた獣道には……。
「子どもまで犠牲に。くそっ!ゴブリンめ!」
小さい骨が散らばってた。
イライラも相まって、思わず主人公っぽい言葉を言えてしまった。
別に意識したわけじゃない、なんていうか自然に?ナチュラルに俺は、主人公なのかもしれない。
すると、俺の言葉などどこ吹く風で、シェリスはガサガサと森へ分け入った。
「それはゴブリンの骨だぴょん。早く行くぴょん」
「そうですねぇ。ゴブリンさんと会いたいですぅ!」
「初任務……必ず遂行してやる!」
ガサガサ――。
「……子どもであれッ!」
俺は骨を蹴り、3人の後を追いかけた。
森の中は薄気味悪く、あちらこちらから物音がした。
生物なのか、風が下草を揺らしているのか。
すぐにでもゴブリンが、出てきそうで。
「おーいゴブリンさーん!出ておいで~」
「ちょ、ちょっと?アドミラさん?なにしてんのよ」
「ゴブリンさんが来ないかなぁって。ジュンさんも一緒に呼んでみましょぅ!」
「……」
コイツバカなのか?と思ったけど、あながち悪くない作戦か。
俺たちはゴブリンを討伐しに来たわけで、ゴブリンよ出てくるなと思ってる俺の方がおかしいな。
うん、じゃあ呼んでみよう!とはならない。
だって、コイツら戦う気がねえんだもん。
まずアドミラは、戦わないと宣言してた通りだ。
しかもゴブリンという生物を知らないようで……。
「私のペットにしてあげますよお!」
汚くて性欲に取り憑かれた小学3年の平均身長ぐらいの化け物を、ペットにしようとしてるぐらいだ。
モノホンを見たら泡吹いて気絶する気がする。
じゃあ他の二人はといえば。
シェリスはさっきからレイアに、ゴブリンの倒し方をレクチャーしている。
「頭が悪くて性欲旺盛だぴょん。人を見つけたら必ず襲い掛かってくるから、そこを狙って斬れば、すぐに片付くぴょん」
「ほう。シェリスは、物知りだな」
「そんなことないぴょん。頑張ってねレイアぴょん!」
「ああ、任せてくれ」
ウサギめ。戦うって言ってたくせに、レイアに全部任せようとしてやがる。
ベタベタとアドミラにくっついて、隙あらばお胸をさわさわ……。
ぁぁぁぁぁぁあはぁぁぁあん、なんで!なんで俺じゃないんだよおぉぉぉぉぉ!
「ぅぅっ」
「……ッ!?どうしたジュン。泣いてるのか?」
「ぐ、悔じぐて」
「……え?なにか悔しがるところがあったか?」
レイアだけだ。
俺に優しくしてくれるのは。
コイツは、別け隔てなくいい奴だ。
ウサ耳ゆりっ子のシェリスにも、天然と見せかけて結構イカれてるアドミラにも優しい。
しかも、本気でゴブリン討伐をしようとしてくれてる。
「お、お前はいい奴だな」
「……あ、ああ。なんだか分からんが、気に病む必要はない。人生きっとうまくいくぞ」
お前がもっと貞操ゆるゆるだったらな。
まだ俺は救われたかもしれねえよ。
もう俺に望みはないんだ。
卒業の見込みがないんだよ。一生童貞のまま【コールセンター】という謎スキルを持ち、「召喚勇者(笑)」として生きていくことになるんだ。
死にてえよ。
もうやだよ。
ギィャギィャッ!
異世界無双と、ハーレムを許さない神に絶望していたところ、突如現れたのはゴブリンだった。
見た目は想像通り、腰蓑を巻いた緑色の小学3年だ。
小学生と違うのは、ランドセルがないことと、不気味な鳴き声と、ダラダラ垂れるヨダレぐらいか。
うん、これはもうただの小3だな。
「よしっ、戦うぞ!」
レイアの発破が掛かり、俺は手斧を握りしめた。
緊張の初戦闘。
嫌でも心臓が躍動する。
「……臭いですぅ。それになんか汚ーい。もう帰りますぅ、みなさん頑張ってぇ!」
「ああっ、待って。私も帰るぴょん!」
振り返ると、腕組みしながら帰ってく二人の姿が、遠くなっていく。
「はあああ?おいお前ら!」
「ジュン!説教は後だ、集中しろ!」
俺の心情なんて知る由もないゴブリン5匹は、気持ち悪い鳴き声でニヤついていた。
たしかに目をそらすのは危険だな。
それに……奴らが戦闘に関わると、逆に足手まといになったかもしれない。
そう考えると、レイアと二人で戦うほうが、良いんじゃないかとも思えてきた。
「私が右半分をやる。ジュンは左を」
「オーケー」
コイツ、頼りになるな。
友だちから、仲良くしていきたいものだ。
ギィャギィャッ!
「来るぞッ!」
「おうッ!」
ゴブリンたちは走り出した。
隊列とか作戦とかはまったくない。
ただ獲物に飛びかかる、そんな感じだ。
勝てる。
二人ならば間違いなく。
まず気炎を上げたのはレイアだった。
「ぅぉぉおッ!」
スポンッ――。
よしっ。今度は俺も……。スポンッ?
「っしゃあオラ!」
ザシュ――。
ゴブリンは見事に絶命し、だらりと力なく崩折れたわけだが。
「キモッ!あーーー、キモいキモい!キモい!」
これが、すんごく気持ち悪いの。
ティッシュ一枚でゴキブリを掴むような、あのゾワゾワが全身を駆け巡った。
しかも斧は、ゴブリンの頭に刺さったまま抜けなくなった。
全身に鳥肌を立たせながらも、必死に斧を抜こうとした。
「クソッ、抜けない!変な意味じゃなく抜けない!レイア!援護を!」
そう言ってレイアを見ると、まさかの事態に陥っていた。
「わ、私の、剣が……壊れた」
彼女の手には柄だけがあった。
何がどうなったらそうなるのか知らんけど、根本からぽっくり逝っちゃったみたいだ。
「そうはならんやろッ!」
叫んでみるが、事態は何も変わらない。
「ジュ、ジュン!援護を!」
「ぁぁぁぁあ!なんでこうなるんだよぉぉぉぉ!」
俺は手斧を放して、レイアに迫るゴブリンへとタックルを見舞った。
ギィャッ!
「ぉぇぇえ、ふ、風呂に入って、くれよ」
臭さがハンパない。
肌の質感も、よぼよぼの皮が気持ち悪い。
ヨダレをダラダラと垂らし、暴れるたびにゴブリンの凶悪なナニの感触が伝わってくる。
「もぅやだぁぁあ!」
俺は必死だった。
わけも分からず無我夢中でゴブリンを殴りつけ、踏みつけ。
ようやく一匹が絶命したところで、ハッとした。
ギィャギィャッ!
「……や、止めろ!止めてくれ!」
ギィャッ!
「へぶっ」
3匹のゴブリンに包囲され、俺は魔の手に落ちてしまった。
服をビリビリに破かれ、手慣れた手つきでズボンを下ろされ、デロデロと全身をくまなく舐め回されました。
そして熱く激しいディープキスまで……。
「ぉぇぇ。お願いします……掘られるならイケメンがいい……」
俺はレイアを見た。
壊れた剣の刃を探している、あのバカ剣士を見つめた。
俺の処女が散りそうなんですけど。剣のほうが大事ですか?
レイアさん。
「レイア……助けて……」
「ちょっと待っててくれ!すぐに!すぐに剣を見つける!私の命なんだ!」
「お、お前のスキルは【徒手格闘術】だ、ろ……」
ギィャッ!
ゴブリンは、ゴブリンたちは腰蓑を脱ぎ捨てた。
そこにあったのは、小3とは思えないイチモツ。
禍々しいまでの、凶悪なナニであった。
「そ、そんなの壊れちゃう……」
思わず口をついて出た言葉は、俺の憧れの言葉だった。
いつかヒロインに言わせたい。
そんな夢のような……。
クソ、こんなとこで。
こんなキモい生物に。
やられてたまるか!
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