5.俺はギルド職員のはずだろぉぉぉぉ!
腰振りビリガン――。
こんな名前が世間に浸透していいんですか?
教育上良くないんじゃない?
「腰振りビリガンさんのギルドとは」
「ああ、知ってるやつがいて安心したぜ。ところでジュン。これはどうなってんだ?」
どう、とは。
「おめえに受付を任せたってのに、この有り様か。言ったよなあ?義理と人情ってよお?」
いやおかしい。
二つ名通り、裏で地ならししてたおっさんが、俺のせいにしてるー。
「い、いやこれは!」
そうだぞ。レイアが全部悪いんだ。
「待ちなッ!これはギルドの問題だ、悪いが黙っててくれや」
は?
「ジュン。こっちを見ろジュン!」
「……なんすか?」
「てめえは、お茶の一つも出せねえのか!」
「え?そこ?」
「客が来たら茶を出す!ったりめえだろバーロー!」
「ぇぇぇ」
たしかに、そうか。
いや、そうなんだけどさあ。
えええ。今そこ?
こんなにギルドを壊されて、お茶?
「悪いな。ちと、狭えがその辺に座っててくれや、アイシャ!茶、頼むわ」
「あいよ」
はああああ?俺が悪いんか!
なんだシェリスッ!その目つきはよお!ざまあみろって言いたげだなあ!やんのかコラ!
俺は仕事してたぞ。
冒険者登録させたし、なんなら今日で3人増えた。いいじゃん!最高の結果じゃないの?
コイツらの依頼料から中抜して、ギルド運営に当てる気なんだろ?
冒険者が増えたんだから、俺の仕事は上出来だろッ!
「ったく。どいてろジュン」
「……はぁ」
納得できない俺は、腰振りビリガンに端へ追いやられて、ぼーっと突っ立っていた。
何回か首を傾げてみたけど、誰も助けてはくれない。
レイアは気まずそうにしてるだけ。
アドミラはお茶を美味しそうに飲み、シェリスはお茶をすすりながら、俺を鼻で笑った。
「ウチの職員が悪かったな。んで、冒険者志望か?」
「は、はい!先ほど登録しました!ジュンはいい仕事をしています!」
おお?レイア……お前はやっぱりいい奴だ。ありがとな。
「いい、いい。気は使わなくていいぜ。んで、3名でパーティ組むんか?」
「そうだぴょん。稼げる依頼がしたいぴょん」
「稼げる、かあ。稼げるってえと、討伐系の依頼だがよお……戦えるのか?」
シェリスは怪力とカマトトぶりっ子があるから、魔物にもぴょんぴょん言って、うまく立ち回れるだろう。
レイアも、戦闘スキルがあったし、剣も持ってるからイケるはず。
問題はアドミラだ。
散歩に来たどっかのご令嬢みたいな格好で、戦うのは無理がある。
まあでも、スキル次第か?
「私は戦わない依頼がいいなぁ」
「……戦わないってえと、採集やら調薬やら、あとは何でも屋みたいな仕事だぜ?単価も低いが、いいのか?」
採集とかもあるのか。
アドミラは、最初からそっちをするために冒険者になったわけだな。はなっから戦う気はなかったと。
「稼げる仕事がいいぴょん。アドミラーお願ーい」
「うーん。シェリスは戦えるのぉ?」
「うんうん。戦えるぴょん!」
「それならいいけどぉ……」
ほお。シェリスは金が入り用なのか。
採集でコツコツよりも、大金をドカンと短期間で欲しいってことは、何かあんだろうなあ。
借金とかかな?
「んじゃあ討伐か。ちと待ってろ」
ギルマスは受付裏にある棚をあさり始めた。
上段中段下段と、くまなくあさり何かを探しているようだが、ケツが半分出ているのには気づいてないのか。
女性3人からは受付台に隠れて見えてないだろうが、俺にはバッチリ見えてんだ。
きったねえおっさんの尻が……。
呆れ顔でギルマスの手元を見てると、とある引き出しから色々と掘り出していた。
なんかの書類やら、ペンやら、コインやら、ディ……?
なんでそんなもんがここにあんだよッ!寝室においてこい!
「こんなとこにあったか。アイシャ!今晩使うぜ!」
「あいよ」
ディ……を投げるな。
消しゴムの貸し借りじゃねえんだよ!
ちょっと隠すとか、恥ずかしそうにするとかないのかね。
チラリと女性たちの反応をうかがうと、意外にも、みんな落ち着いていた。
たぶん、なにか分かってないのかも。
レイアはそもそも見たことないだろうし、アドミラは…よく分からん。興味がないって感じだ。
シェリスは逆に、使いすぎて、見慣れてんだろうな。
……終わってらあ。
ヒロイン失格だ。
もっと恥ずかしそうに「キャッ」とか「エッチー」と言ってくれよぉぉ。
ヒロイン役を逃してもいいってのか!
「おおあった。ほれ、この依頼受けてくれや。ゴブリン討伐だから、イケるだろ?」
ギルマスが受付台に乗せたのは、一枚の紙だった。
女性たちは、それを覗き込み、互いに顔を見合わせる。
「どうするみんな」
「私は構わないぴょん」
「私も……シェリスちゃんがいるから、いいよぉ!」
こうして依頼ってのは始まるわけか。
なるほどなあ。なかなか面白い。
今まで見たファンタジーものの、答え合わせをしてるみたいだ
「よーし。じゃあ受諾ってことで……ジュン!おめえも行ってこい。暇だろ」
はあ?ヤだよ。
「え?忙しいです」
「てめえこの野郎。早速、義理を叩き込んでやろうか?」
「……行きます嘘ですごめんなさい」
クソゴリラめ。
拳がデカすぎて怖えよ。
てゆーかさあ、いきなりさあ、ゴブリンてさあ。
マジかよ。
俺に、殺れるのか。
ゴブリン、殺せるのか?
なんだか怖くなってきたー。
ケツがひゅんひゅんしてきたー。
もしも討伐失敗したら、俺はやはり掘られるのだろうか。
あのディ……のようなモノで、貫かれてしまう。
あ、めっちゃ怖い。
「やっぱ――」
「武器がねえのか。だったらほれ」
半ケツのビリガンが、受付の下に潜り込んで引っ張り出したのは、手斧だった。
正直な話、実物は生まれて初めて見た。
押しつけられたので、手に握ってみる。
――悪くない。
日本で模造刀を握った事があったが、あれは見かけによらず重かった。軽く振ったら体が持っていかれたし、ピタリと止めるのが難しかった。
けどこれは、悪くない。
「フッ。馴染んでるじゃねえか。それで頭をかち割ってこいや。ゴブリンなんざ鼻くそみたいなもんよ」
「あの、アドバイスとかは」
「知らねえよ行け!行けば分かるさ!」
「……ぇぇ」
ため息まじりに困った顔をしてみせた。
ギルマスに効果があるとは思えないが、もしかしたらババアの方に効果てきめんの可能性がある。
「あんた、ジュンが困ってるわよ」
「ああ、ったく仕方ねえ。じゃあ受付にいろ!」
というやり取りを期待したわけだが……。
「……」
ジロリと睨んでやがる。
ビリガン夫婦が、示し合わせたように俺を睨んでいる。
ああ、そういうこってすか。
俺は全てを察した。
コイツら、玩具を見つけたからって……。
またヤル気だな!
こっちは貞操と命がかかってるんだぞ!
「おい」
しかも拳を握りしめ、脅してきやがる。
「私が守るぴょん」
「ありがとうねえシェリス。よしよし」
「初任務か、ようやく私の夢が叶う!」
アイツらは、楽しそうだしよお。
充実しててよろしいですなぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!
「はいはい。行けばいいんでしょ。行きますよッ!」
そうして俺たちはギルドを出たわけだが……。
ビリガン夫妻は、俺たちの見送りも早々に引き上げ、奥へと引っ込んでいった。
仲良さそうに。
もういっぺん言おう。
充実しててよろしいですなぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!
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