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40.おっさんの涙は悟りを開く

ギシッミシッ――。


じいちゃん家の階段も、こんな音がした。

味があって風情があって、郷愁に耽りたくなるなあ。

会いたいなじいちゃん。

もう死んでるけど。


コンコン――。


「お客様でーす失礼しまーす」


「入り――」


受付嬢は返答を待たずにドアを開けた。


執務用の机に肘をつき、威厳たっぷりに待ち構えていた、シルバーヘアの男性と視線が交錯する。

「入り――」の続きを言いそびれた口を、そっと閉じた彼こそ!

ここの支部長さんか。


「こんにちはぁ」


「んああ、掛けてくれ」


さすがアドミラだな。

気まずいとか、そういう心の機微的なものが欠落してるから、憶せず先陣を切ってくれる。

ナイスぅぅ!


「っしょい」

「ぴょん」

「失礼」


俺たちもソファに腰掛けてと……。

座り位置あってるかこれ。

いま俺の隣にはレイア、そして机を挟んでシェリスとアドミラが座っている、と。


チラリとおっさんを見るが……もう良いよそれ!碇ゲ◯ドウ的なオーラいらんから!早くこっち来いや!

一席空いてんだろ。


「さて何用かな?」


このまま続けんの?

こっちは、レイアが邪魔でアンタの顔見えにくいんすけど。

首を90度捻って、体を前倒しにしてんぞ俺。

体勢が辛いよ俺!


ほらー、シェリスなんかアンタのこと見てないよ?アドミラの胸しか見てないよ。

いい加減こっち来いよ!


「盗賊団【ムカスムカムカ】ご存知ですかぁ?」


「当然知っている。それがなにか?」


このまま続けんのかい。

もういい!俺も見ない。シェリスが見てるものを、俺も見ることにする。


「コウロン支部が、奴らを捕まえたってことにしてくれませんかぁ?」


「……は?」


うんうん、そうなるわ。

俺も意味が分からんぞ!

この大きさ、意味が分からんぞ。もっと詳しく教えてほしいぞ!


「こんなギルド、もううんざりじゃないですぅ?薄給でぇ、依頼もほとんどなくてぇ、冒険者も少なくてぇ、支部長さんてぇお人形でもできそうですよねぇ」


「し、失礼だな君は。もう帰ってくれ、こうみえても私は忙しいのでね」


「それに比べて王都支部はいいですよねぇ。大きな通りに面しててぇ、大きな建物でぇ、依頼も冒険者も多くてぇ、お給料も高いんでしょうねぇ」


「私を侮辱するためにここへ来たのか君は!不快だ、帰りなさい、さもないと騎士を呼ぶぞ」


とか言って喜んでんじゃないのお?

罵倒されて、思いの外「これはなかなか」とか思ってんじゃないのお?


俺は思ってるぞ。


これはなかなか絶景なり、ってね。


「王都への通商路が盗賊団に壊されてぇ、何もかもを王都支部へ奪われたんですよねぇ」


「……それは、運がなかったとしか」


「色々と疑問はあるけどぉ、口には出せないんですよねぇ。どうして盗賊団は討伐に王都支部は乗り出さないのかぁ、とか」


「……そんなことはない。言っても耳を貸さんだけだ」


「また左遷されるのが怖くて追求できないんですよねぇ?」


「な、なぜそれを」


「前支部長は逮捕、成長が見込める特色もなくてぇ、盗賊団を追い払えないと悪評が立っているとなればぁ、その席に座るのは左遷された人ですよぉ」


「……」


「左遷される人はぁ、独り身でぇ、目立った成果も上げられない人でぇ、潰しが効く従順な人なんですよねぇ……悔しくないんですかぁ?」


こ、これはキツイ。

こんな子娘に、グサグサとナイフを突き立てられて……。

グレーヘアの髪もオシャレとかじゃなく、一気に白髪になって染めるのが面倒くさくなっただけなんだろうな。


キツイなあ、おっさんも。

だからこっちこれば良かったのに。

癒やされるぞー。あの丘に登りたくなるぞー。

さぞかし絶景だろうな。


「……ぅぅっ、ご、ごんなはずじゃ、ながっだんだ」


陥落、かな?

後はアドミラが、優しくし(なだ)めてあげれば、終わりだな。

……今思ったけど、シェリスがスキル使えばイケたんじゃね?

あ、寝たらスキルは解けるのか。


はあ、でもこれは解けてほしくねえなあ。

スキル【小高い丘】にビシバシ叩かれてえよお。


「アナタはゴミとしてぇ、ここへ捨てられたのですよぉ?悔しさも湧いてこないならぁ、職員としてではなくてぇ、人として終わりですけどぉ」


「ぞ、ぞんなごど……言わなぐだっで……ぅぇぇ」


「結婚は無理でしょうねぇ。このまま老いて死ぬだけ、何が楽しくて生きてるんですぅ?」


「ぅおぉぁぇぉぇ……ごべんなざぁぃぃぁ」


「生きるために生きるならぁ、死んだ方が楽ですよぉ。誰にも必要とされ――」


「ちょっと待ていッ!言い過ぎ!言い過ぎだから!もう地の底まで叩きのめされてるから、すくい上げてくれよぉぉ!俺まで辛いって!」


コイツ加減を知らねえのか。

おっさん……わんわん泣いてるぞ。

碇ゲン◯ウみたいな佇まいでカッコつけてたのに、鼻水垂らして号泣じゃん。

震える子猫じゃん。


「それでぇ、盗賊の件はぁ……」


「ごべんなざぃぃぃ、いぎででずいまぜんんん」


「あのぉ、聞いてますぅ?」


「嫁にば愛想゛をづがざれで、ギルドでば年下に見下ざれで……生゛ぎる意゛味なんでなぃんだぁぁぁ」


「それだからぁ、アナタはゴミなんで――」


「止めい!止めぇぇぇぇいッ!」


話にならんからって、追い打ちかけようとしやがって。

クソドSの本領を発揮しおったな。


「どうして止めるんですぅ?」


「今はそっとしておこう。な?泣き疲れたとこで、話をすればいい」


「……はぁ」


ということで、俺たちは1時間待った。

おっさんの泣き声を聞きながら座る1時間、そりゃあもう、無だった。

悟りを開きたいなら、おっさんに号泣してもらうのが一番いいですね。

※個人の感想です。


「はあ。すまない。さてなんの話だったかな?」


いや無理だろ!

今さら碇ゲン◯ウしたって、威厳は地に落ちてるぞ!

いっぺん鏡見せてえな。

目がクソほど充血してらあ。

ギャグマンガテイストになってるって教えてやりたいわ。


「……盗賊討伐をするのでぇ、コウロン支部が討伐したってことにしてくれますかぁ?」


「それは構わない。理由を聞こうかな」


「花を持たせたいだけですよぉ。この町は母の故郷なんですぅ。ギルドが廃れては町も廃れるでしょう?だからギルドに頑張ってほしいんですぅ」


「……ぐぅっっ、あ、ああありがどゔ、わだじは」


「了承ということでよろしいですかぁ?」


「わだじは嬉じい゛!もぢろん了承ずる!」


「それじゃあ……あ、そうだぁ、一つお願いがあるんですぅ」


アドミラの頼みは、意外すぎるもの……でもなかった。

余ってる武器とか防具とか、安くで譲ってくんね?というお願いで、おっさんは泣きながら頷いてた。


大丈夫かな、おっさん。

強く生きろよ!


「こちらですー。ただでいいそーですー」


やる気のない受付嬢が持ってきたのは、ボロっちい剣とナイフ、革製の胸当てだった。


「弓とか使いますー使わないかー」


失礼だな!どこをどう見たら弓を使わないように見えたんだ。

レイアは、まあ使わなそう。

シェリスは、まあ獣人だし近距離タイプか。

アドミラは、ザ・ご令嬢みたいな格好だから、使わんと。


俺は、俺は?

唯一使いそうじゃんよ。


「結構力いるんでー止めといたほうがいいですよー」


「心の声聞こえてます?」


「ごゆっくりどーぞー」


ちっ、俺をもやしみたいに言いやがって。

細マッチョの可能性を考慮したのかね……。


はあ、まったく。


……。


この剣いいなー。もーらい。


ということで、俺は剣と革の胸当てをゲット。

レイアに装備を手伝ってもらい、腰にも剣をぶら下げた。

いいねえ、新しい息子のようだな。ハハハなーんてな。


んで、シェリスは、アドミラに手渡されたナイフをゲット。

レイアは特に欲しいものはないそうだ。

まあ、臭い高級な剣を持ってるからな。


「んで、お前は貰わんの?タダだよ?」


「ジュンさんが出したぁ、あのナイフが欲しいですぅ」


あー、ペーパーナイフか。

あんなもん護身用にしかならんぞ。

って、戦う気なしかい。


ったく、コイツは。


……あんだって!?


「ちょ、ちょっともう一回言ってもらっていい?」


「ジュンさんが出したぁ、あのナイフが欲しいですぅ。耳死んでますぅ?」


「……俺が出したものが、欲しいと。そう言っているのか」


「フフフ。はぁい、そうですよぉ」


「ちょともう一回、いぎゃっっっっ!ぐっ、なぜ、なぜなんだシェリス!今いいとこだったのに」


「まずは脛ぴょん。次は膝ぴょん。その次は……分かるぴょん?」


「ふっ、やれるもんなら、ずぉっぢゃぁぁぁあッ!ふぐッ、わ、分がっだ。ウソウソ、マジでウソだから。ペーパーナイフ!」


カラン――。


シェリスめ、オカズ登録を阻止しようってんだな?


フッフッフッ。だが甘いわ!

オカズコレクション略してオカコレには、映像やボイスの自動登録機能が備わっているのだよ。

俺の脳みそナメんじゃねえ!


「どうもぉ。私が頼んだらぁ、また出してくれますぅ?」


「ああ、いつでも出す!どこでも出す!たくさん出す!任せ、ひぎゃぁぁぁぁぁああぁぁ!ひっ、ひっ、ふーひっひっふー、は、はな、はなしてくらさい、シェリスさま、おねがいじまず」


お、おれの、俺の息子がぁぁぁ、千切れる、取れちゃう、でも、ありがとう。


嫌でも痛い、頼むから……ぐぁぁぁ、死ぬ……。

ありがとう。


「潰すぞ。次はねえ。分かったか?」


「はいはいはいはいはいはいはい、ほんどに、はい。マジで、ごめんなざい」


はあ、はあ、死ぬかと思った。

Мの素養がないから、こういうのには興奮しないんだ俺。


でもありがとう。

息子よ、よかったな。

とっても痛かったけど、嬉しかったな。


「……それは、どこから?」


なぜか受付嬢が、驚いた顔をしている。

凝視しているのは、アドミラが持っているペーパーナイフだ。


「この人のスキルなんですよぉ。詳しいことは内緒ですぅ」


「……そんな意匠の施されたナイフを一瞬で!?」


……おっとっと。

ついに来たかこの時が。


ハーレムチャァァァァァンス!

最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。

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