12.秘宝(玩具)
「……まあ、おめえらの金だから構いやしねえんだけどよお」
ジリジリと焼け付くような視線が俺の全身を焦がしている。
どうせなら恋に焦がれたいものだ。
ジリジリ――。
だってしょうがないじゃないかぁぉぁ!
レイアから耳元で生声もらったんだもんッ!
オカズを一品増やしただけじゃないかッ!
つーか、あ!そうだ、レイアが悪い。
そうだ、俺が気に病む必要はないだろ。
「全部レイアが悪いっす。ガラス割ったのコイツなんで」
「……すまん!みんな!ギルドをバカにされて少し腹が立ったんだ。それでつい、ガラスを」
うぅっ……良心が痛む。
欲望のままにボイスを頂いた俺とは違って、ギルドのために怒ったというのか。
クソ……やはりコイツはいい奴、だ。
「また稼げばいいぴょん」
「そうですねぇ」
「すまん!」
よーし。
なんとか解決したようだ。
いやまだ解決してねえ、目の前で事案発生だ。
「その少女はおっさんが拉致ってきたんすか?」
そう、おっさんの横には見知らぬ少女がいたのだ。
「違えよ。盗みに入ったとこを捕まえたんだよ」
「あー。てっきりはけ口にするのかと思ってましたよ。いやーよかった。誰がどう見ても通報案件すからね」
「……なんかおめえ、馴染んでるなコノヤロー」
「アザッス」
「褒めてねえよ」
分厚いゴリラの手が、リンゴのような頭をガシりと掴み、今にも握りつぶしてしまいそうだ。
あれでは少女も動けまい。
しかもボロボロだし。
ゴリラが暴行したとかそんなんではない。ウホウホ言わないことからも分かる通り、奴には知能があるから、少女に対しても優しくする事ができる。
端的に言うと、浮浪児のようだ。
ボロっちい雑巾みたいな服を着ている。顔は薄汚れてるし、唇は乾燥してるし。
ギルドがあるこの町自体、肥溜めみたいな場所だから、言わずもがな、貧乏なんだろうとは思ってたけど。
貧乏の中には、子どももいるよなー。
貧乏の現実に、悲哀の想いをはせていたら、少女の様子がおかしい。
「み、見ないで。私をどうする気なの……」
「え?」
なんかすっごい、動揺してる?
えええ、なんか俺不審者みたいになるじゃん。
「イヤだ。乱暴はしないで!私なんでも言うこと聞くから、痛いのはイヤ!」
「えええ?いや、え?お、俺なにもしてないよ?」
「男の人ー助けてー犯さだだだだ痛゛い痛゛い」
くっ、末恐ろしいな、このガキ。
小さな頭を握りつぶしそうな、ゴリラの強靭な握力もそうだが、あの年で性犯罪者に仕立て上げようとする性根の悪さが怖い。
こうやって冤罪は生まれるのだろうな。
ちょっとこのガキムカつくけど、まあ、子どものすることだ。
「アイツはド変態だぴょん。近づかない方がいいぴょん」
「……アナタ、ゲロの香水つけてますぅ?」
「お、おい二人共!ジュンにもこの子にも失礼だぞ!」
ありがとうレイア。
お前だけが、心の支えだよ。
「気にすんなよジュン。コイツ、色々と仕込まれてやがっから、口が立つんだ」
「仕込み……?それは卑猥な――」
「やっぱり気にしろ。卑猥な仕込みなわけねえだろ」
「あ、さーせん」
「男に捕まったら、女に捕まったら……ってな具合に、逃げる方法を仕込まれてんだよ」
なるほどね。
男に捕まったら……変態!と騒ぎまくるわけだ。
でも俺、捕まえるどころか触れてもいないけどな。
ん?
仕込まれてるってことは、仕込んだやつがいるんだよな?
「要するに組織的な犯行ってこった」
「何か聞き出せました?」
「……アイシャが聞き出してくれたぜ」
すると、奥へ続く廊下の陰から、くるくるパーマがひょこっと出てきた。
顔も出せやッ!
「どうやら、プリッケ冒険者ギルドの連中にそそのかされたらしい」
「プリケツに……ちなみにいくら盗んだんです?その子」
「こっちの金庫には少額しか置いてねえからよ。大した金額じゃあねえんだ。ただ、一昨日ぐれえから、毎日だったから……」
おっさんの苦い顔を見れば、すべて聞かずとも分かる。
相当な金額を盗まれたんだろうな。
「40ゴールドぐれえか」
「一昨日から、1日40ゴールドとなると、120ゴールドですか……ガラス1枚の修理代ぐらい?」
「いや。3日で40ゴールドだ。上等な飯代ってとこか」
「しょぼ」
「ああ!?しょぼいってなんだ、てめえ」
「いや、40ゴールドのために盗みに入らせるって、しょぼくないですか?ゴブリン8匹倒せば手に入る金額っすよ?」
「だから金が目的じゃねえんだよ」
じゃあ一体何なんだよッ!
つーかまずは、鼻毛を切れ!険しい表情でタメを作られても、鼻にしか目がいかないの!
「ダンジョン攻略の証。秘宝を盗みに来たんだな」
ダンジョン!?秘宝!?
俺は思わず生唾を飲み込んだ。
ファンタジー要素満載の言葉に、胸が躍らないはずがない。
確かに、このおっさん。二つ名こそアレだが、まあまあ強い気がする。比較対象がシェリスしかいないんで、ちょっと定かではないけど。
つまり!マジで秘宝がある!
このギルドに!
「……秘宝。それは一体、どんな物なんです」
おっさんは、皆を見回した。
誰にも言うなよと、言いたげに。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「魔力喰らいの王冠だ」
「魔力喰らいの王冠!?か、カッコいい。どんな力が秘められてるんですかッ!?」
「欲しいもん……心の底から欲しいもんを具現化してくれるってえ宝具だ。オツムで欲しいと想像しちまえば、具現化してくれる。たとえこの世界に存在しなくてもな」
「ち、チートアイテムだ!ハンパないアイテムじゃないっすか!」
「まあな」
ん?なんでそんな、悲しげなんだ。
まさか失くした!?いやいや、いくらゴリラでも秘宝を失うほど落ちぶれちゃいないって。
ああ!
ものすごい力があるってことは、その代償もすごいってパターンだ。
結構グロめな感じなのか?
「魔力をバカみてえに喰われるから、もしもコイツが触ったら、死んでたろうな」
「ほう。それは、危なかったですね」
うんうん。少女も震えていらっしゃる。
これで反省して、普通の女の子になりな。ゴリラに頭を握りつぶされる前にな。
「ギルドマスターさぁん。その秘宝見たいなぁ」
「あ?ああ、まあ良いけどよお、さっき使ったばかっただからよお、ちょっと待っててくれるか?」
「はぁい!」
アドミラが見たいというのは、何となく分かる。
俺も見たい!
レイアも目を輝かせてるし、やっぱり秘宝は、ワクワクするよな!
だが、ちょっと気になるな。
さっき使ったばかって。まな板じゃああるめえし。
うーん?さっき?
さっきって何かしてたかな。
おっさんは、裏で腰振ってただけだろうに。
……ん?
おいおい嘘だろ。
秘宝を、まさか!
ゴリラてめえ、まさかッ!
奥へ続く廊下の陰から、おっさんが出てきた。
続いて、くるくるパーマがひょこっと顔をのぞかせて、顔を赤らめている。
おっさんの手に握られていたそれは……。
「おお、悪い悪い。ベタベタだったから、ちょっと拭いてきたわ。ほれこれが魔力喰らいの王冠だ」
「ただのディ※※じゃねえかぁぁあ!」
「あ?違えよ。これは愛をサポートしてくれる宝具魔力喰らいの王冠……」
「死ねぇぇぇぇぇぇいッ!」
宝具というか、ただの卑猥な玩具。
俺が飛びかかったのは言うまでもない。
そして返り討ちにあったのも、言うまでもないだろう。
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