職業病
朝シャンを終えると私は鏡の前に立った。今日は髪形が決まらない。バンダナで乗り切ることにしよう。
22世紀に入り、人造人間は人間と見分けがつかなくなってしまった。違法に紛れ込んだ奴らを見つけ出すのが私の仕事だ。同時に不正な商行為や歴史改変の取り締まりも行っている。
まあこの世界ではありがちな職業だ。
長期の出張で妻とはしばらく会っていない。私はポケベルで〈0840〉と送った。これは〈おはよう〉の意味だ。
しかし画面が表示されない。よく見ると電池が切れているではないか。ボタン電池の買い置きも無い。
くそっ、今日の定期連絡は公衆電話を使うしかない。忘れないうちに数枚のテレホンカードを財布に押し込んだ。電話帳をめくり幾つかの電話番号を手帳に控えた。
待てよ・・・
ポケベルも公衆電話も200年前に無くなっているのを思い出した。
近頃ミスが多い。激務続きで私は疲れているのだ。
しかも今日は土曜日、半ドンでアベックが歩行者天国に溢れるだろう。
ぐっとストレスが増すのを感じた。
だが昨晩読んだ『マーフィーの法則 人生の9割りは思い通りになる』によれば、ネガティブは目標達成の妨げになるらしい。
「ハッスル。ハッスル」私は自分に言い聞かせた。「この程度の疲れなど、余裕のよっちゃんだ」
すると少し元気が出た。
私はソファーから「よっこいしょういち」と腰を上げ、グラスの紅茶きのこを飲み干した。
「・・・・
時間を股にかける仕事とはいえ、何度も昭和を行き来したせいでかなり頭が混乱しているなぁ」