第8話 近頃の義妹はどこかおかしい
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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部屋の隅に置いたダンボール箱には、男性モデルの写真集のほかにファッション雑誌なんかが混ざっていた。
その中で特に目を引いたのは、美容師向けと思われる専門誌だった。顔の作りは今更どうにもならないけど髪型は別だ。
「切ってみようかな‥‥‥」
ページを捲る反対の手で自分の頭に触れてみた。
いままで髪型にこだわったことはない。いまも子供の頃から通っている近所の床屋で散髪していた。
伸びたぶんを少し切ってもらい、あとは手で撫でつけるだけ。目が隠れる少し長めの前髪が陰キャを演出している。
寝る準備を済ませた後、1階にあった手鏡をこっそりと自室に持ち込んだ。
しばらく自分の顔とにらめっこをする。
左手で前髪を持ち上げ額を出してみた。地味な顔が露わになるだけでまったくパッとしない。
真ん中にある分け目を左右に変えてみたけど、陰キャな見た目に磨きがかかるくらいで期待する変化は皆無だった。
満月さんの立案してくれた『寝取り計画』。
その第1段階は自分自身のスペックを認識すること。つまり自分のダメな部分を自覚するということで、写真集の男性モデルと自分を比較して凹んでしまえということらしい。
ただスペックと言えば、なにも見た目だけじゃないはずで―――。
自分の中身について考えてみたけど胸を張れるものなんて何一つなかった。
見た目が陰キャで中身もなし。
雑誌をペラペラと眺め、鏡をのぞいただけなのに、イケてない自分がどんどんと浮き彫りになっていく。
―――満月さん、計画の第1段階は成功です
と、心の中で報告する。
満月さんの伝えたいことはよく理解できた。寝取るということは、その過程で相手の気持ちを動かすこと。それには陰キャな自分自身が変わらなければならない。
目指すところは少なくとも魔王と同じか、それ以上の魅力的な男子。そう考えると、ダンボールの中身の意味合いが変わってきた。
―――この雑誌はバイブルなんだ。なにも物差しとしての役割だけじゃなくて、僕の進むべき道を照らしてくれている!
「兄貴―――」
突然ドアが開いて隙間から妹の顔がひょっこり覗いた。
「―――っげ‥‥‥の、ノックくらいしてくれよ」
床に広げた満月コレクション。
いまここで見つかれば確実にややこしくなる。だから慌ててドアに詰め寄った。
「な、なんか用か?」
「入れて」
「‥‥‥もう寝ようかなって」
「超怪しい‥‥‥なんか変なダンボール持って帰ってきたっしょ」
細心の注意を払い自宅に持ち込んだというのに、まさか妹に見られていたなんて‥‥‥。
彼女は本当に僕のことをよく見ている。
ドアの隙間から部屋の中を覗こうとする妹。
それを全身を使ってガードする。
「エッチぃ~やつか?」
「ち、違う! 兄ちゃんにそんなこと聞くなよ!」
「じゃあ、入れておくれ」
「ダメだ」
「お父さんとお母さんに言うよ」
「ぐっ‥‥‥」
やましい雑誌ではなかったけど、ある意味―――そう思春期男子としては親にみられるのはなにより恥ずかしい訳で。
ジト目を向けてくる妹に渋々道を開けた。
「うわぁあ~何この本―――!?」
まさか兄が妹を寝取るための計画の一環だとは思ってもみないだろう。
それでもあからさまな妹のはしゃぎ様に兄の心は容赦なく抉られる。
「この雑誌は図書委員のアレで‥‥‥」
「アレ???」
頭の周りに疑問符を浮かべた妹が、ちょこんと首を傾げてあざとい仕草を見せた。
危険な兆候である。
「そう、アレ、アレなんだ。学校が購入して、それを預かっただけで‥‥‥将来的に図書室に置くことを検討してるんだ。ははは―――」
床に広げた表紙を飾る水着姿のイケメンモデルと目が合った。
乾いた笑いが自然と漏れる。
「―――んなことあるか!! 裏に名前書いてんじゃん」
モデル雑誌を手にした妹が裏表紙をこっちに向けつつ鋭いツッコミを入れてきた。
よく見ればそこには太いマジックで、『満月美音』と書かれてあった。
―――雑誌に名前を書く人なんだ‥‥‥
そんな人、今まで周りにいなかった。でも満月さんなら不思議と納得できた。
「なんなん、これ? もしかしてそっち系―――!?」
「ち、違う! そっちが何かは知らないけど、断じて違う!」
「だよね、兄貴はこっち系だから」
「こっち系?」
「そ、こっち」
そう言った妹が自分のことを指差すと、ニッと小悪魔的な笑みを浮かべた。
―――これ以上は聞いてはダメなやつ
「兄貴は近親――――――」
「―――だぁあああ!! 課題やるの忘れてたぁあああ!!」
声を張り上げて彼女の言葉を封殺した。
僕らの間の義理という関係で、けして軽々しく口にすることは許されない。それは妹もわかっているはずなのに‥‥‥それなのに近頃の妹はどこかおかしい。
床に広げていた満月コレクションをさっさと片付ける。
「ちぇっ、つまんないの」
「これは知り合いから借りたんだ。ちょっと服装とか勉強しようと思ってさ」
「えっ‥‥‥!? 兄貴マジで言ってんの? えっ、どういうこと!? 彼女、とか?」
「兄ちゃんに彼女ができると思うか?」
「‥‥‥‥‥‥」
聞き返すと、真顔になった妹が唇を尖らせた。
その様子に違和感を覚える。
「入試面接の対策だよ。兄ちゃんはこんなだから、今からある程度は見た目を気にしたほうがいいかなって」
「兄貴は自分のことを低く見すぎ」
「そんなことないよ」
ついさっき、満月コレクションを参考に自分のスペックを確認したばかりだ。
間違いなく陰キャの標準スペック。
「恋がそういうふうに言ってくれるのは嬉しいけど、それは身内のフィルターがかかってるからで」
「ちゃんと見てる」
「身内びいきってやつだ」
「なんか腹立つ」
そう言うと、ものすごい勢いで距離を詰めてきた。
鼻先に彼女の甘ったるい匂いを感じた。
思わず腰が引けそのままバランスを崩し、床に尻もちを着いた。
「そんな見た目が気になるの? だったら私が兄貴の服を選んでやんよ。今週の土曜日、どうせ暇っしょ!」
そう言うと妹はこっちの返事を待つことなくドアを叩きつけるようにして部屋から出ていった。
翌朝。
場所は学校南校舎1階の廊下。
職員室に近い壁面に設置された掲示板の前に人だかりができていた。
中間テストの感触がよくなかったので、まったく関係のないイベントなんだけど‥‥‥。
どうしても確かめておきたいことがあった。
掲示板を確認した一番前の生徒が、順番を待っている後ろの生徒と入れ替わる。
しばらく待ってから掲示板の前に立つと、そこには学年別に成績上位20名の名前が掲示されていた。
3年生の順位に目を通すと、『7位 武波陽太』とあった。噂通りで魔王は勉強もできる。
「さすが王子様よね」
「背が高いしイケメンだし、それに運動ができて頭もいいなんて―――」
「「あんな彼氏が欲しい~」」
隣から聞こえる女子の話が耳に痛い。
文武両道の王子様。本当にこんなハイスペックな相手から妹を寝取ることができるんだろうか?
こうして実際に自分の目で確かめてみると、持っているスペックの違いに落胆しかない。
一応は2年生の順位に目を通してみた。時間の無駄とはこのことだった。
少し時間をかけすぎたみたいで、順番をまっている後ろの生徒に背中を押された。
横に移動しながらなんとなく1年生の順位を見れば、その中に『20位 百崎恋』とあった。
そうなんだ、ギャルな見た目の妹は陰キャな兄と違って頭がいい。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
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