第7話 『寝取り計画』始動
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
妹を寝取ると決意したその日の夜。
「恋、できたぞー」
「は~~~い」
階段下から自室にいる妹に呼び掛けると元気な返事があった。
特に変わったところはない。
これからは妹の様子に気を配って、どんな小さな変化でも見逃さないようにしないと。
その上で寝取ることを考えていくんだ。
今夜も両親の帰りは遅かった。なので夕食は僕が準備した。
とは言っても、ご飯を炊いて冷凍庫から取り出した牛丼の具をレンチンしただけ。
2階から下りてきた妹はすでに風呂を済ませていた。
Tシャツにショートパンツという見慣れたいつもの部屋着。
「なん?」
「な、なんでも」
毎年、夏に近づくにつれて肌の露出が増えていく。
昔は何ともなかったのに‥‥‥。
見慣れているはずなのに‥‥‥。
それでも近頃は何故だか目のやり場に困る訳で。こんな兄の心情を絶対に知られてはいけない。
隣り合って座り、黙々と夕食を食べる。
横目で妹の方をチラリと見れば、目が合った。慌てて視線をそらす。
「で、なん?」
「なにが‥‥‥!?」
「変な目で見んな」
「み、見てないし―――!」
「今日の兄貴‥‥‥めちゃキモイ」
「ぐっ―――」
妹の容赦ない指摘で純粋な兄の心が大きく抉られた。
恥ずかしながら、チラチラと見ていたのは事実なんだ。
気のせいかもしれないけど、いつもより肌の露出が多いような、着ているもののサイズが合ってないような‥‥‥。
それでもだ。今夜は妹のことを意識しすぎていた。兄として失格。
自己分析すれば―――寝取るって決意したのはいいけど、その言葉のイメージに引っ張られているのは間違いなかった。
こんなことじゃ、精神的な繋がりを強めるどころか、一生軽蔑されてしまう。
「親の帰りが遅いからって襲うんじゃねーぞ」
そう言った妹は、口の両端を持ち上げてニッっと笑った。
いつも僕を揶揄う時の小悪魔的な表情だ。
「お、おい! 兄ちゃんに、な、なんてこと―――」
こっちの話を最後まで聞かずに妹は席を立った。
ドタドタと階段を駆け上がる音がする。
昨日の深夜、妹が突然部屋に忍び込んできた。
そしてほんの一瞬だけど正面から抱きしめられた。
あの時、胸の辺りにあった彼女の顔は見えなかった。
―――どうせ今と同じ表情だったんだろう
はぁーっと大きな溜息が漏れる。
もっとしっかりしないとダメだ。
妹にとって魅力的な兄にならなければ寝取ることなんて出来やしない。
翌日の放課後。
場所は北校舎3階にある、陰キャ仲間の宗助が部長を務めるパソコン部の部室。
「まあ座ってくれたまえ」
「うん」
元は何かの準備室だったんだろうか? 部室にしては狭い。
箱型のパソコンや液晶モニターが数台と、見なれない部品が乱雑に転がっている。
宗助以外に他の部員の姿はなかった。勧められるまま近くの椅子に座った。
「すぐに美音大佐も到着するはずだ」
「助かるよ」
大佐‥‥‥!? 今日のキャラは軍隊的な何かだろうか? 長い付き合いだから気にしないけど。
今日は2人から呼出しを受けていた。その理由は言わずもがな。
「部員は?」
「我が軍は廃れる一方だ。殆どのことはリンゴマークのスマホで事足りる。高価で置き場所に困るデスクトップPCなんてものは流行らんのだ。本当に好きな者は自宅でパソコンを組み立てている。だから副部長の顔はしばらく見ていない‥‥‥」
そう言うと宗助は遠い目をした。
と、ここで入口の扉が開いて満月さんがやって来た。
「―――敬礼!」
椅子から立ち上がった宗助が、右手を額の前に持っていき挙手の敬礼をした。面倒だけど、相談する側の僕は右へ倣えだ。
「遅くなったわ」
同じように敬礼を返す満月さん。意外とノリがいいのか?
スラリとしたモデル体型の見せる敬礼は、ものすごく様になっていた。それだけに、なんで宗助みたいな変人の彼女なんだろうか、とこの世界の法則を疑ってしまう。
「早速だけど本題に入りましょう」
「了解です、大佐」
「お、お願いします」
机を囲うように座り直すと、満月さんが中心になって話が始まった。
「まず、百崎くんの話を聞いて当事者じゃない第3者の視点で現状を知る必要があったの。だから勝手に色々と調べさせてもらったわ。そこで判明した事実から―――剣道部の主将には彼女がいるわ」
「えっ‥‥‥!?」
「なんと!? では、恋隊員は‥‥‥?」
「わからない。ただ、あなたの義妹と剣道部の主将が、仲良く一緒にいるところを多くの生徒が目撃しているのは事実よ」
唐突に聞かされた内容は衝撃的だった。満月さんの話が本当なら妹と魔王は付き合っていないことになる。
それにしても昨日の今日で、僕の知り得なかった情報を持ってきた満月さんの調査能力が恐ろしい。
満月さんは驚きを隠せない僕を見て、言い難そうに話を続けた。
「現状、可能性は2つよ。ただの知り合いか、ただの遊び相手か」
「遊び、相手‥‥‥」
満月さんの言った言葉の意味を理解した瞬間、椅子から立ち上がっていた。
兄としてもの凄く腹が立った。
妹の彼氏が百歩譲って魔王だったとして―――本気で妹のことを大切にしてくれるというのなら、兄として何も言うことはできないのかもしれない。
でも、付き合っている彼女がいてその上で妹の気持ちをもてあそんでいるとしたら、そんなことは絶対に認められないし、許すことなんてできやしない。
「ただね、百崎くん。剣道部の主将の周りであなたが言うような黒い噂は今のところ皆無なのよ」
「タバコのことやオートバイの男子と話してたのは本当なんだ」
「嘘をついているだなんて思ってないわ。シスコンが嘘をつく理由もない。そうでしょ?」
時に周りに冷たい印象を与える整い過ぎた顔を持つ満月さんが目を細めて僕を見た。
「大佐、巧妙に隠蔽している可能性は?」
「当然、あるわ。私が調べたのは今日1日だけだから‥‥‥もう少し時間をかければ詳しいことがわかるかもしれない」
「僕はどうすれば‥‥‥」
「宗助が言うように上手く本性を隠しているとしたら、厄介な相手ね。でも、今のところは手の出しようがない。何かしらの証拠を掴むにしても、とりあえずは様子を見ないと。だからその間に『寝取り計画』を進めて行きましょう。あと、恋さんと剣道部の主将をできるだけ2人きりにさせないように」
「わかった。注意する。ん‥‥‥!? いま計画って聞こえたけど」
「乗り掛かった舟よ。立案者の私に感謝なさい。兄が妹を寝取るだなんて、嗚呼、ヤバい‥‥‥」
「美音!」
「はっ―――! と、とにかく私の立案した『寝取り計画』に従って事を進めましょう」
若干あやしい満月さん。乗り掛かった船っていうよりは、強引に乗船してきたような印象だけど。
それでも色々と協力してくれるみたいで、宗助共々ありがたい。
「力になってくれてありがとう」
「我が軍も全面的に支援する。君は優秀なパイロットなんだ。この戦争に勝って地球を取り戻そうじゃないか」
どうやら今日はSF設定だったらしい。気にしないけど。
「それじゃあ『寝取り計画』の第1段階よ。まずは自分自身のスペックを認識することから始めましょう」
そう言って満月さんから渡されたのは、男子がモデルの写真集だった。それもダンボール箱一杯の‥‥‥。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
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