第21話 スポーツ刈りって長髪なんですね
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リゾートホテルからほど近い、眩しい日差しが降り注ぐ真っ白な砂浜が目の前に見えた。
全身からジワリと汗が染み出していて、不思議なもので陰キャな自分でもその向こう側に広がる真っ青な海へと体を投げ出してしまいたいという欲求が芽生えてくる。
でもやっぱり冷静に考えれば、水着は買ったものの、尻込みしてしまう訳で。
規則違反がバレてしまって予備校を退校処分になったら、たぶん家族のいるあの家には戻ることができないのでは‥‥‥。
リアルな現実と向き合えば軽い眩暈を覚えた。
「大丈夫? 直前でビビったとか?」
こっちを振り返った鏡原さんが呆れた表情で訊いてきた。
頷いて答えると、彼女はにっと口角を上げて言葉を続けた。豹変ぶりに身構える。
「ひゃくさきビビり君に提案。バレない方法を思いついたから。どう? 試してみない?」
「バレない方法‥‥‥」
そんなものがあるはずがない。既視感しかない彼女の表情は、危険信号だ。
思いっきり怪しい提案に躊躇していると、先を歩いていた彼女が踵を返してこっちに近づいてきた。
そして一歩の距離で立ち止まると、「男だろ」と言ってからいきなりパンチを繰り出してきた。
―――ぐふぉ!?
手加減はしてくれているんだろうけど、腹にグーパンって、僕たちは知り合ってからまだ日が浅い訳で、そんな親友みたいなノリの距離感じゃないだろう‥‥‥。
わかってはいたけど、鏡原さんは掴みどころのない人だ。
「行くよ」
色とりどりの水着姿が行き交う真夏のビーチ。
眼前で進路変更した鏡原さんに連れてこられた場所は、なんと地元の床屋だった。
「なんで僕が髪を切らないといけないんだ!」
薄汚れたタオルを頭に巻いた高齢の店主に促されるままに、年季の入った専用の椅子に座らされていた。
白いボディに青い羽根のレトロな扇風機が首を振るっている店内に抗議の声がむなしく響く。
「バレたくないんだろ? だったら変装しかなくない」
「散髪を変装とは言わない。それに僕が髪を切ったくらいじゃバレない保証はないから。なんなら、そっちの髪色のほうが目立つし」
「ふん、ここをどこだと思ってんの? 常夏の島だから。私の髪は受講生の中で目立っても、海だったらあんたの伸び放題の髪の方が目立つってもんだから。それになんか不潔、陰キャか」
「なっ‥‥‥」
鏡原さんの言葉がぐさりと胸に突き刺さった。
僕は人生初の美容室から一度も髪を切っていなかった。
そろそろ、と考えていた頃に、例のコンドームの一件があって、だから今の僕の髪は陽キャとは言えない代物で。
妹を寝取ると決めて陽キャを目指した自分にとっては、鏡原さんの言葉がとどめとなった。
「あ、あの、よろしくお願いします」
「任せときな、あんちゃん」
日によく焼けた肌の店主がバリカン片手に声を上げた。さっそく電源を入れる。重そうなモーターの駆動音が昭和レトロな店内にBGMのように流れ始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだ~ビビったか、あんちゃん」
「いや、その、髪型をまだ」
「髪型だぁ~? スポーツ刈りか丸坊主、どっちがいい?」
まさかの2択。
それもあまり違いがないのでは、と思われる2択で。
よく考えてみれば丸坊主は論外なので、そもそも選択肢はなかった訳で。
「スポーツ刈りって、丸坊主となにが違うんですか?」
「違うもなにも、スポーツ刈りは長げーだろよ」
そうなんだろうか? 耳にしたことはあるけど、実際にスポーツ刈りを頼んだことがないので、めちゃくちゃ不安しかない‥‥‥。
横を見れば、入口付近に座っていた鏡原さんがぷいっと顔を背けた。肩が震えているのは気のせいだろうか。
「あんまり短いのは‥‥‥」
「じゃあ、スポーツ刈りだな。安心しろ、この島の色気づいたガキはみんなスポーツ刈りだ」
バリカンの刃先が頭の側面を軽快に走る。と、肩先にぼとり黒い塊が落ちた。左の肩先にも‥‥‥。
後悔はすぐにやってきた。
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