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第10話 パンドラの箱 その4

 カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

「で、2人は付き合ってるの?」


 椅子に腰かけた担任の片桐先生は立ったままの僕と井上さんの顔を交互に見ながら割と自然に訊いてきた。

 

 場所は普段なら絶対に近寄りたくない生徒指導室。

 職員室に顔を出した僕たちは、先生によってそのまま廊下へ連れ出され場所を移動していた。


 呼び出しを受けた内容が内容だけに、周りの目を気にした先生なりの配慮があったのかもしれないけど、さすがに生徒指導室は緊張する。


 初めて入ったこの部屋の空気はどこか埃っぽく、中央には先生の座る応接セットがぽつんと配置されていた。

 廊下側の窓際には使い古された机が並べられていて、その上には何かのプリントや資料がうず高く積み上がっていた。


 この場所を正確に表現するならば資料室兼生徒指導室といったところ。基本真面目な生徒が大半を占めるこの学校で、そもそも本来の用途ではあまり使用されていないのかもしれない。

 だからこそ生徒指導室に連行された僕たちは大変な状況と言える訳で‥‥‥。


「ち、違います―――」


 先ずは今回の騒動に巻き込んでしまった井上さんが全くの無関係であることから説明した。

 それから順を追って何でコンドームが教室に存在していたのか、その理由についても親戚の叔母さんを登場させながら順序立てて正直に話をした。


「―――嘘はないわね?」


「はい」


 いつもより声のトーンを落とした片桐先生が念を押すように訊いてきた。

 僕は向けられた先生の目から自分の目を逸らさないように力強く返事をする。

 すると厳しい表情を覗かせていた片桐先生の雰囲気が一変した。


「なぁ~んだぁ~、ちょっと残念」


「―――えっ!?」


 毅然とした雰囲気をガラリと変えた片桐先生。おどけたような口調で言いながら背もたれに体を深く預ける。

 突然のことで僕は思わず驚きの声を漏らしてしまった。


「だって最近になって百崎くんの見た目と雰囲気が変わったから、先生はてっきり彼女ができたのかなぁ~なんて思ってたんだけどね。それに、ほら、校外学習の班編成を決める時―――女子からすればあれポイント高いから。ね、井上さん」


「あっ、はい―――カッコ良かったです」


 先生に話をふられた井上さんは、こっちに視線を寄こした後、俯いてから小声で答えた。


「井上さん、揶揄わないでよ」


「‥‥‥別に揶揄ってなんて」


 俯いたままの井上さんの耳が真っ赤になっていた。

 そんな彼女を見ているとこっちまで恥ずかしくなる。


「なんだぁ~やっぱり2人ともいい雰囲気じゃない」


「せ、先生‥‥‥」


 恨みがましく片桐先生を見れば、年甲斐もなくテヘペロって‥‥‥。


「ごめん、ごめん。コンドームが私に向かって飛んできた経緯はわかったわ」


「すみませんでした」


「今後は箱で持って来ちゃ駄目よ」


 そう言った片桐先生の言葉が引っ掛かった。あれっと首を捻る。頭の中で、「単品なら大丈夫なんだろうか?」と考えてしまう。

 そんな僕の考えを見透かしたように片桐先生は言葉を続けた。


「ほら、保健体育の授業。年頃の男女が避妊具を携帯する意味は大きいのよ。今回の件は褒められたことじゃないんだけど、君たちの処分とかそういう話じゃないの」


「「はい‥‥‥」」


「だから今回の件は先生からの注意でおしまい。ただ叔母さんの持ち物がなんで君の部屋にあったのかが謎だけど‥‥‥はっ! もしかして叔母さんと―――」


「違います!! 」


 先生の口調は冗談めかしていたけど、強く否定させてもらった。隣には井上さんもいる。冗談にしても思春期の僕らには刺激が強すぎた。


「あははは‥‥‥冗談、冗談よ。普段おとなしそうな百崎くんも怒ると怖いのね」


「怒ってません。ただ井上さんを巻き込んでしまったことが申し訳なくて」


 教室に戻った後のことを考えれば気が重い。教室で好奇心旺盛なクラスメイトたちに囲まれる井上さんの姿を想像すると心が痛んだ。


「私は大丈夫だから気にしないで」


 無関係の井上さんが揶揄われたりしないよう僕がしっかりしなければ。


「この件で何かあったら先生に相談すること、わかった?」


「はい。クラスのみんなには僕からきっちり説明します。あの箱は新品で―――だから何もやましいことはありません! 井上さんにはこれ以上迷惑がかからないようにします」


 誤解の種を撒いた僕自身が矢面に立つのは当たり前だ。クラスのみんなにはわかってもらうまで何度でも説明しよう、そう強く思った。

 だから陰キャな自分にとっては珍しく強い口調で決意表明みたいに言い切ったんだけど、何故だか目の前の片桐先生は首を傾げて不思議そうな顔になっていた。


「‥‥‥先生?」


 あれ? 僕はなにかおかしなことを言ったのだろうか‥‥‥。

 真顔になった片桐先生が口を開いた。


「百崎くん、箱は開いてるわよ。先生が数えたら2個足りないんだけど」


「えっ‥‥‥!?」


 先生の言葉に僕の理解が追いついた頃‥‥‥隣の井上さんが少し怖い顔でこっちを見ていた。

 読んで頂きありがとうございました。

 最近は更新が滞ってます(-_-;)

 それでもリンゴと蜂ミッツを推してくれる方、ブクマ・評価をよろしくお願いします。

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